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虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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40、公表

 私はアイリスの花で私の姿を隠してから、変化の術を解いた。

 光が収まると同時に、私は目の前の参加者に微笑んでから公爵様を見る。その奥から見える陛下や殿下達はほくそ笑んでおり、私達の目論見が成功したことを現しているようだった。

 公爵様の表情も非常に柔らかい。私も彼に釣られて口角を上げると、「ほぅ」という声が聞こえてきた。


 私達が見つめ合う間に、策がはまったと言わんばかりに満面の笑みをたたえている陛下が言葉を紡ぐ。


「ブレンダ嬢は、ある事情で先ほどまであのような姿をしていたが――これこそが、真なる彼女の姿だ。皆の者、その意味は理解したな?」


 参加者は一様に首を縦に振った。陛下の声色が地の底を這うような低い声へと変わったことから、意図を理解したのだろう。陛下はその様子を見て、思惑通りに進んだと満足げな顔をしていた。

 私は参加者達の顔を見回す。すると見覚えのある令嬢の顔が目に入った。エルシーだ。


 彼女は顔から血の気が引いていた。どうやらあまり勉学を嗜んでいない彼女も、私がバレンティナ元皇女殿下……つまりお母様のことを知っているようだ。そういえば、先程彼女と一緒にいた令嬢達もあちらこちらに散見される。

 彼女達の表情もエルシーと同様だ。


 これで帝国では暗に私がブレンダという名前ではあるが、その実エスペランサだと証明した。これからは黒髪で過ごせるところも多くなる……ことを期待しよう。

 こうして、帝国での初舞台は大成功に終わったのだった。



 パーティが終わり、貴族達は次々と帰宅していく。

 この度のパーティは歴史に残るものとなるだろう、と鼻息荒く興奮している者が多かった印象だ。私達は帰ろうとするところをユーイン殿下に呼び止められたため、用意された休憩室でお茶を戴いていた。

 ちなみにそこにはセヴァルの姿もある。

 姿を現していいのか、と彼に訊ねれば「まあ、皇族の皆様は私のことをご存知ですから」とあっけらかんに話していた。


 元々セヴァルは幼い頃から諜報員として指導を受けていた。そんな彼は、十六歳の時に諜報用の魔道具に感銘を受けたらしい。そこから個人で研究を重ねていたが、それを見た当時の上司が皇帝陛下に掛け合ってくださったのだとか。そこから数年間、諜報用の魔道具を発明し続けたとのこと。

 その後交流研究員という形で公爵家に派遣された彼が、帝都に帰ることを拒否したとき、条件のひとつとして有事の時に諜報員として働くようにという契約を先代様と結んだのだ。

 

 陛下もセヴァルを手放したくなかったようではあったそう。けれどもお母様の予言もあり、公爵家の戦力を固めたいと考えていた陛下は、断腸の思いで許可を出したのだとか。


 只者ではなかったわね、と私がしみじみ思っていると、ノックの音が聞こえてきた。入ってきたのは勿論、皇帝陛下と皇太子殿下、ユーイン殿下の三人だ。陛下は椅子に音を立てて豪快に座ると、いかにも楽しげな表情を浮かべている。まるで鼻歌を歌いそうなくらいだ。


「いやぁ、今回のパーティは傑作だったな!」

「エスペランサ嬢に関しての噂は、これで全て吹き飛んだでしょう」


 笑いながら話す陛下と、冷静に答えているが興奮を隠し切れていない皇太子殿下。よほど上手く事が進んだようだ。


「エスペランサ嬢のお陰で帝国を巣食っていた虫もほぼ一掃されたな」


 ユーイン殿下も満面の笑みで笑いながら告げている。


「本当に素晴らしい余興だった。これで帝国の膿を炙り出せたのだ。余は非常に満足よ。この度の功労者はエスペランサ嬢であるな」


 そう話す陛下は私へと顔を向ける。隣では公爵様も陛下の言葉に同意をするように、頭を下げた。


「何か褒美を取らせたいのだが……欲しいものはあるか?」

「褒美ですか……?」

「ああ。鏡の件と伯爵卿との潜入の件だな。エスペランサ嬢のお陰で判明した事実は多い。それに報わない我々ではないぞ」


 私は考え込むけれど、あまり欲しいものはない。けれども私に褒賞を渡すことが楽しみなのか、陛下は少し浮ついた様子だ。これはいらない、とは言えないなと思った。


「それでは、お母様の形見である魔宝石を戴いたので、それで相殺していただけますか?」

「却下だ」


 間髪入れず拒否されてしまった私。これで了承をいただければ良かったのだけれど……そう、うまくはいかないわね。それならば、二つ目の案はどうかしら?


「あの、お母様の形見と同じような大きさの魔法石をふたついただくことはできるでしょうか?」

「魔宝石をか? それは構わん。丁度最近双子石が発掘されたという話を聞いたからな。ではそれを譲り渡そう」

「ありがとうございます」


 私は嬉しさから頭を下げる。

 この魔宝石で公爵様が身を守れるような装飾品を作成しようと思う。彼には貰ってばかりだもの。


 私は頬が緩む。公爵様も喜んでくれればいいのだけれど。

 陛下の褒賞もこれで問題ないでしょう……そう考えていた私だったけれど、その後の言葉で見通しが甘いことに気がついた。


「それで、他の褒賞はどうするのだ?」



 最終的に私の褒賞は公爵家へと役立てて欲しい、という話にまとまり、安堵する。

 皇太子殿下は「姪である君にいいところを見せたいんだよ」と言いながら、肩をすくめていたし、ユーイン殿下も「貰えるもんは貰っとけ」と眩しいほどの笑みを見せられた。

 果ては陛下でさえも「ユーインの言う通りだ」と言って褒賞を渡そうとするので、公爵様に投げたのだ。


 幸い公爵様にも当てがあるらしく、ユーイン殿下と後で話し合うらしい。そして褒賞についての話が終わると、軽く世間話をしていた。

 

「余が皇帝を退位する前に懸念事項のひとつが無くなったからな。肩の荷が降りたものよ」

「まだ父上は若いですから。退位はまだまだ先でしょう」


 そう皇太子殿下が陛下に告げると、彼は口を一文字に結んだ。

 

「トレバーには早く譲位したいのだがな」

「いえ、私は婚約者と愛を育むという重大な案件がございますので」


 あっけらかんと話す殿下に、陛下が肩をすくめる。帝国はきっと次代も安泰だろうと私は思った。

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