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虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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20、バルコニーで

 夜。

 寝付けなかった私は、部屋のバルコニーで夜空を見ていた。空には無数の星たちが輝く。いつだか、寂しくなった私が人の目を盗んで母の元へと行った事がある。その時に見た星空と似ていた。

 その時は星が哀しみに揺らめいているように見えた……今も同じだ。

 

 「お母様」


 ぽつり、と呟く。私の言葉は誰にも届く事なく、天へと昇る。まさかお母様は自分が死ぬ事を分かっていて、王国に嫁いでいたなんて……衝撃の事実に私の心は沈んでいた。


「だからあんなに哀しそうな表情をされていたのかしら……?」


 笑顔の間に時折見せる哀愁感じる表情。そんな表情をお母様がするのは、ほんの一瞬。でも子どもながらに、「どうしたのかな」と思う事は度々あった。幼い頃は無邪気に訊ねていたけれど……何度聞いてもはぐらかされていたの。

 そういえば、一度だけ……この事を乳母のエイミーに聞いた事がある。彼女は私が五歳になるまでお母様の侍女として働いていた。

 その時のエイミーも、涙を堪えたような表情で私を見ていた気がする。きっと、エイミーも知っていたのね……それからすぐにエイミーは国に戻され、私はお母様に聞く事もなくなったから。

 今日は色々な事を知った。お母様が『予言の巫女』で、今までの事を全て言い当てている事……そして最後にユーイン殿下は言っていたの。


「『予言の巫女』は黒髪を持つ者が能力を発現する」


 私は視界に入っていた自分の髪を一房(ひとふさ)持ち上げる。目の前に広がる闇夜へと紛れそうなほど黒い私の髪。私がもし自分の死の未来を予言したら? お母様のように振る舞えるのだろうか。


「……いいえ、自信はないわね」


 思わず自嘲気味に笑う。帝国で黒髪を持つ者は一人しかいないとユーイン殿下が言っていた……そう私だけ。私がもし予言を知ったら……お母様のように生きる事ができるのかしら。自答するけれど、いつまで経っても答えはでなかった。


 しばらく物思いに耽っていると、隣のバルコニーから声がかけられた。そこにいたのは、公爵様だ。

 慌てて私は頭を下げる。


「頭を上げてくれ。先程から君がずっとここにいたので、気になって声をかけてしまった」

「わざわざ気にかけていただいたのですか……?」


 公爵様は私なんかよりも多忙なはずだ。

 驚きから無意識に目を見開いていたのか、彼は私の言葉に同意した。


「お疲れでしょうに……骨を折らせてしまい、申し訳ございません」

 

 私が再度礼を執ると、公爵様は深い深呼吸を一度する。そして私に向けて微笑んだ。


「何を言う。エスペランサ嬢が手を(わずら)わせている事などない。むしろ、私たちにもっと注文をつけてもいいのだが」

「それはできませんわ。今でも面倒をお掛けしていると言うのに……」


 間髪入れずに告げる。今でも充分良くしてもらっているのだ。これ以上臨んだら、罰が下されそうよ。

 そんな事を考えていた私に公爵様は声をかけてきた。先程は口角が少し上がっていたけれど、今は真剣な表情に戻っている。


「それよりも、殿下の話だ。色々エスペランサ嬢も思うところがあったのではないか?」

「……はい」

 

 今丁度それを考えていました、とは言えなかった。自分の弱さがさらけ出してしまうような気がして。

 ためらいがあった私は返事をするのが少し遅くなってしまった。そしてその後、すぐに私の左肩に手が優しく乗せられる。ハッと顔を上げると、そこには優しい表情でこちらを見ている公爵様がいた。


「君が気にしている点は、黒髪を持つ者が『予言の巫女』の能力を発現するというところだろう?」


 東の王国の話によれば、巫女の能力を発動する者は女性のみ。そして黒髪を持つ者だけなのだそう。ユーイン殿下の高祖母は黒髪で、私の祖母にあたる方は淡い金色の光を含むような茶髪だったらしい。そして母が先祖返りをしたのか、黒髪で生まれた。その娘である私も隠されていたが黒髪だ。

 私がお母様の能力を引き継いでいる可能性が高い事を示唆しているようにしか思えなかった。

 何も言えずに黙っていると、夜空を見上げたまま公爵様は話を続けた。

 

「あの後、ユーイン殿下から話を聞いたのだが、黒髪の者全員がその能力を発動するわけではないらしい。だからそこまで思い悩む事もない」


 もしかして公爵様は私を励ましてくれているのだろうか? 顔を向けると、公爵様の話はまだ続くようだった。


「それにもし君が予言の能力を発動したとしても、別に私たちに伝えなくても良い。予言の巫女の中には、能力を発動していてもそれを言わなかった者もいたらしいからな。ユーイン殿下は予言の巫女の能力を発動する方に期待していたが……むしろそんな厄介なものが発現したら、君も面倒だろう?」

「面倒ですか?」


 思わぬ言葉に私は目を丸くする。

 

「ああ。あの殿下に付き纏われるんだ。面倒だと思わないか? 私が軍部の時は仕事後いつも付き合わされたからな」


 肩をすくめる公爵様を見て、私は思わず笑いがこぼれる。正直面倒で片付けて良いものではないと思うけれど、声を出して笑ったからか先ほどよりは心が軽くなったような気がした。

 公爵様もこう言ってくれているし、改めて能力が顕現したときに考えれば良いのかもしれない。『予言の巫女』自体は重く受け止めずに、心構えだけはしておきましょう。


「……少しは落ち着いたか?」

「ありがとうございます。もし能力が発動した時には、公爵様にお伝えします。その時に殿下のあしらい方を教えていただけますか?」


 今の私はいたずらっ子のような表情をしていたと思う。虚を突いた表情をしていた公爵様だったけれど、私の言葉を聞いて笑い出した。


「ああ、その時はとっておきの方法を教えよう」


 私は改めて星空を見る。星たちの輝きはまるでこの先の幸せを示しているかのように、楽しげにきらめいていた。

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