13、測定
「はいはい、あなたの意見はじゅーぶんに理解しているつもりよ。ほら、エスペランサ様を待たせないで」
「そうでしたねぇ! お嬢様の魔力を調べなければ!」
本気で忘れていたのか、軽く手を叩いたセヴァルは、私に「どうぞ」と声をかけた。
「お嬢様の魔力を測りますが、私が『離していいですよ』と告げるまで、そのまま板に手を載せておいて下さいねぇ」
「ええ、ありがとう」
板を目の前にしてやっぱり以前の魔力測定を思い出してしまう。
周囲を見ると、セヴァルの期待したような目が一番に見えた。そして次に見えたのはシュゼット。彼女も顔に出ないように気をつけているかもしれないけれど、私の魔力に興味津々の様子は隠せていない。
魔導皇女と言われていた母。そんな母を持つ私なのに魔力が少なかったらどう思われるのだろうか……また落胆される?
王国でも私の居場所はなかった。じゃあ……ここで失望されたら、私はどこに行けばいいの?
心に留めていた負の感情が頭の中を駆け巡る。今まで留めていた感情が、測定器をきっかけにあふれ出してしまったようだ。
手が震える。揺れを止めるために力を入れるけれど、それでも小刻みに震えていた。
早く板に置かないと、みんなに怪しまれてしまう……そう思っても、私の身体は動いてくれない。
目の前にいるセヴァルは不思議そうに私の手を見ている。早く、早くと思いながら無意識に私は目を瞑った次の瞬間――。
ポン、と肩に誰かの手が置かれた。思わず後ろを振り返ると、そこにいたのは公爵様だった。
「顔色が悪い。測定は今度にしてもいいぞ」
「えっ! そんなぁ、ここまで来たのに……」
「セヴァル、静かに!」
後ろからセヴァルとシュゼットが何かを話す声が聞こえたが、余裕がない私には言葉は聞き取れていない。私はこの時、公爵様の顔しか目に入っていなかった。
彼の表情は本当に私を心配してくれているものだ。目を見て優しさを感じていた。
だからだろうか……いつの間にか手の震えは止まっていて、心にも落ち着きが戻ってくる。私はそれを実感するのと同時に、首を横に振った。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「……そうか」
微笑んで告げたからか、公爵様は私の肩から手を離す。私の返事を聞いたセヴァルが歓喜を上げた瞬間、シュゼットに頭を叩かれていた。それを偶然見た私は、笑いをこぼす。
改めて板の前に立つ。内に張り詰めていたものが和らいだのか、先ほどのような恐怖はなかった私は、ゆっくりと手を板の上に置いた。
「おお、いいですねぇ……ほうほう、これは……!」
板に手を置いてしばらくして、部屋に置かれていた様々な魔道具が光り始めた。首を傾げていた私にシュゼットが教えてくれたのだが、この部屋に置いてある魔道具は魔力測定器の板と連動しているらしい。
板に乗せるだけで他の魔道具も反応し、結果は全てセヴァルが見ている板の上に現れるんだとか。
手を動かさないように気をつけながら、少しだけ周囲を見回すと、確かにセヴァルの目の前には大きな板が置かれている。
「お嬢様の得意魔法は……あー、いいですねぇ! ぜひ研究所に来て欲しいです! 魔力量も素晴らし――いてっ」
「もう記録は取れたでしょう? エスペランサ様に告げることはないの?」
今度は握り拳で頭を殴られたセヴァル。とてもいい音が聞こえたので、相当痛かったのだろう。彼は殴られた部分をさすりながら、私へと顔を向けた。
「ああ〜申し訳ございませんでしたねぇ! 板から手を離してよろしいですよ〜」
私が手を離すと、全ての魔道具の光が消える。どうやら連携しているというのは本当だったようだ。帝国は技術的にも進んでいるのだな、と感心した。
セヴァルが頭の痛い部分を押さえながら、引き続き板を見ている一方で、シュゼットは私に一枚の紙を持ってくる。
「エスペランサ様、これがあなたの魔力についての詳細ですよぉ」
「え、こんなに分かるものなの……?」
思わず呟いてしまったほど、様々な項目が書かれていた。
現在の魔力量だけでなく、魔力量の推移予測と今後の成長推定……得意属性を特定するだけでなく、属性ごとにどのランクまでの魔法を使う事ができるかの推測まで。魔力量しか分からない王国と比べると、雲泥の差である。
私の言葉を聞き逃さなかったセヴァルが、満面の笑みをたたえた。
「そうなんですよ〜! これ、全部ここで作ったのですよぉ〜」
「癪ではありますが、確かにこれらの魔道具はほぼ全てにセヴァルが関わっておりますね」
非常に嫌そうな表情で話すシュゼット。どうやら褒めると調子に乗って話を聞かないために、あまり調子に乗らせたくないらしい。
「お嬢様! このデータを少々研究に利用してもよろしいでしょうかねぇ?」
新しいおもちゃを与えられた子どものように目を輝かせるセヴァル。言葉が少ない、と怒られながらもシュゼットが補足してくれた。
「実はエスペランサ様のデータを見て、気になる点がございまして。それで少しお話を聞かせていただきたいなと思った次第です」
「ほう、それは私も気になるな。エスペランサ嬢、私も聞いてもいいだろうか?」
仕事の時間は大丈夫だろうか、と思うけれど……きっと大丈夫なのよね。そう思い直した私は、シュゼットに別の部屋へと案内された。




