19.繋がる命、ヨコタの夜明け
ヨコタの村に、かつてないほどの活気が溢れました。ピコのスクーターが跳ね上げる砂埃さえも、今日はまるでお祝いの紙吹雪のように見えました。
「テラじいちゃん! じいちゃん!」
ピコはスクーターが止まるのももどかしく、テラの元へ駆け寄りました。その瞳は、出発したときよりもずっと強く、新しい光を宿していました。
「あの『くるくる』のところに、人がいたんだ! 僕みたいな子供も、元気なおじいさんや、お父さんやお母さんも!」
ピコが息を切らして話す冒険譚を、テラは目を細めて聞いていました。その周りには、一人、また一人と、腰の曲がったヨコタの老人たちが集まってきます。
絶望から希望への転換
「おお……日本人が、生きておったか」 「絶滅したわけではなかったのだな。かつて遠くに人影を見たという噂はあったが、誰もこの『青い光』の場所には近づこうとしなかった……」
老人たちの震える声には、深い安堵が混じっていました。自分たちが死ねば、この世界の人類は終わる――。そう信じて静かに死を待っていた彼らにとって、ピコが持ち帰った「フウカ」という名の子供の存在は、何よりも輝かしい「未来の証」でした。
「そうか。彼らは代を重ね、新しい命を育んでいたのか……」
テラの頬を、熱いものが伝いました。自分たちが守ってきた技術も、このヨコタの火も、無駄ではなかったのだと、初めて報われた気持ちになったのです。
新しい時代への贈り物:3Dプリンターの起動
「じいちゃん、それでね、お願いがあるんだ。あそこの風車を直すために、ベアリングを作ってほしいの!」
ピコの願いを聞いて、テラは力強く頷きました。
「いいとも、ピコ。それは我々ヨコタの人間から、新しい時代を生きる彼らへの、最高の贈り物になるだろう」
テラはピコの手を引き、地下の工房へと向かいました。そこには、何十年も大切に手入れされてきた3Dプリンターが、静かに主人の出番を待っていました。
データの入力、チェンがスキャンした「ミリメートル」の寸法データが、ヨコタのコンピュータに読み込まれます。
火入れ、原子炉の安定した電力が、造形装置に注ぎ込まれます。青い光の中で、レーザーが金属の粉末を焼き固め、完璧な球体と滑らかなレースを作り上げていきます。
職人の目、テラは老眼鏡をかけ直し、出力される部品の精度を厳しくチェックしました。「これは単なる部品じゃない。ピコの『友だち』を守るための心臓だ。一ミリの狂いも許さんぞ」
出発の準備、託される想い
部品が出来上がるのを待つ間、ヨコタの人々は自分たちの持ち物を持ち寄りました。
予備のバッテリー: 風車が止まった時のために。
古い英語の絵本: 「いつか、あっちの子供たちと読んでおくれ」と、あるおばあさんがピコに託しました。
テラの万能工具: ゲンが修理を続けられるように。
「ピコ。明日の朝、これを持ってあの子のところへ帰りなさい」
テラは出来上がったばかりの、銀色に輝くベアリングをピコに手渡しました。それは、かつての世界とこれからの世界を滑らかに繋ぐ、小さな、けれど重みのある「希望の塊」でした。




