16.白い巨人と、空の呼吸
草取りを終えて泥だらけになった二人は、笑いながら「こどもの森」へと続く坂道を駆け上がりました。そこは、かつて昭和記念公園の中でも、もっとも子供たちの声が響いていた場所です。
丘を登りきると、目の前にその「巨人」が姿を現しました。 澄み渡る青空を背景に、真っ白な三枚の羽根をゆっくりと回す風車。それは、ヨコタの地下深くでひっそりと光る原子炉とは、何もかもが対照的でした。
「火」の電気と「風」の電気
「うわあ……大きいね!」
ピコは口をあんぐりと開けて見上げました。ヨコタから遠くに見えた時よりもずっと大きく、羽根が風を切る「シュン、シュン」という独特の音が、大地を震わせているように感じます。
「うん! お父さんがね、ここで倒れていた風車を修理して、『ハツデンキ』を作ったの。ピコの乗り物に使っているのと同じ電気が、この中を通っているんだよ」
フウカが自慢げに風車の柱をポンポンと叩きます。チェンがその言葉を訳すと、ピコは不思議な気持ちになりました。
(同じ電気……? あの暗い地下の、青い光と同じものが、この空を飛ぶ風から生まれているの?)
ピコの知っているエネルギーは、重厚なコンクリートと鉄に囲まれた、熱く、静かで、少しだけ怖い「原子の火」でした。けれど、この風車は、軽やかに空の息吹を捕まえているように見えます。
生きている機械
「不思議だね。……なんだか、大きな白い動物みたいだ」
ピコがそう呟くと、チェンが補足します。 『ピコ。これは風力発電機です。ヨコタの原子炉が「過去の遺産を燃やす灯火」だとするなら、これは「今流れている風を力に変える翼」です。エネルギーの性質は同じですが、その在り方は真逆と言えるでしょう。』
フウカはピコの表情を見て、彼がこの風車を気に入ったことを察しました。
「ねえ、ピコ。この風車が回っている間は、お家も明るいし、お水も汲めるんだよ。風は毎日吹くから、ずっと大丈夫なんだ」
風の中のふたり
風車の足元で、爽やかな風が二人の髪を揺らしました。 ピコの金色の髪と、フウカの黒い髪。
「ヨコタの光はね、いつか消えちゃうって、テラじいちゃんが言ってた。でも、ここは違うんだね」
ピコは初めて、自分の村が抱えていた「終わりの予感」を客観的に見つめることができました。フウカの言う通り、ここではエネルギーが空から降ってきて、大地を巡っている。それはピコにとって、本当の魔法のように思えました。




