17.響き合う過去と現在
その日の昼間、こどもの森の丘の上。 風車が「ビュン!」と風を切るたびに、ピコの心は躍りました。頬を撫でる風はどこまでも爽やかで、一瞬だけ、ヨコタの地下で静かに揺らめいていたチェレンコフ光の、あのひんやりとした青い輝きが懐かしくなりました。
けれど、時折「ガタッ」と不自然に震える風車の羽を見て、ピコは整備士の顔になりました。
「ねぇフウカ、ベアリングの予備はないの?」
その言葉をフウカが父のゲンに伝えたのは、スイの作った具沢山のスープを飲み終えたときのことでした。
驚愕のゲン
「……ベアリング、だと?」
ゲンは持っていたスプーンを止め、顔を上げました。その表情は驚きに満ち、どこか敬意すら混じっていました。
「フウカ、ピコ君は本当にそう言ったのか? ……『ベアリング』と」
「うん、そうだよ。あの白いぐるぐる(風車)が震えてるから、ベアリングを替えないの?って」
ゲンは深く息を吐き、改めてピコを見つめました。 ピコは、チェンが翻訳してくれるのを待ちながら、不思議そうにゲンを見返しています。
「ピコ君……。君は、あの中身を知っているんだな。あれは、かつて人類が空を支配し、機械を自在に操っていた時代の、まさに『知恵の結晶』なんだ。滑らかに回るために必要な、小さな鉄の玉。今の俺たちには、作ることも、どこから持ってくることもできない『聖遺物』だ」
芽生える技術者たちの絆
ゲンの言葉をチェンが英語に訳すと、ピコは少しだけ寂しそうに微笑みました。
『……テラじいちゃんが教えてくれたんだ。機械はね、生き物なんだよって。悲鳴をあげているときは、どこかが痛がってるんだって。』
チェンの声を通じて伝えられたその言葉に、ゲンは深く頷きました。 ゲンはこの一年、手探りで古い風車を直し、村に明かりを灯してきました。けれど、彼は独りでした。機械の「悲鳴」を理解できる相手は、この村にはいなかったのです。
「……そうか。ヨコタの村は、ただ光っているだけじゃなかったんだな。技術が、まだ生きていたのか」
ゲンの瞳に、熱い火が灯りました。ピコを「珍しい外見の子供」としてではなく、「同じ技術を継承する仲間」として見始めた瞬間でした。
フウカの誇らしさと、新しい期待
そんな父の様子を見て、フウカは自分のことのように嬉しくなりました。ピコが凄い人だと言われていることが、なんだかとても誇らしかったのです。
「ねえ、お父さん。それじゃあ、ピコと一緒に風車を直せるの?」
「ああ。もし予備があるなら、あるいは……。ピコ君、明日、風車の根元の機械室を一緒に見てくれないか? 君の知恵を貸してほしい」
ピコは、ゲンの真剣な眼差しに応えるように、力強く頷きました。




