表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/21

第九章:最初の建物

アクセス道路の舗装という最初の共同作業は、村の空気を少しずつ変えていった。異なるカーストの人間が、同じ目的のために汗を流す。女性たちが、家の外で収入を得て、自信に満ちた顔で歩く。その小さな変化は、まださざ波に過ぎなかったが、千年以上続いた淀みに投じられた、確かな一石だった。


道が完成すると、いよいよプロジェクトの心臓部となる資材が、ベンガルールから巨大なコンテナで運び込まれてきた。村人たちが遠巻きに見守る中、悠介はコンテナの扉を開ける。中から現れたのは、白いEPSのブロックや、銀色に輝くソーラーパネル、そして巨大な黒い樹脂製のタンク。村人たちの目には、それらが未来からやってきた宇宙船の部品のように映った。


最初の仕事は、オーストラリアでその効果を実証した、EPSドームハウスの建設だ。それは、これから始まる全ての建設作業の拠点となる、作業所兼休憩所となる。


道路舗装の経験を通じて、チームには一体感が生まれていた。悠介がワークフローの図を示し、プリヤがそれを現地の言葉で説明すると、彼らはもう戸惑うことなく、それぞれの役割を理解して動き始める。


基礎工事が終わり、EPSブロックの組み立てが始まると、その異様な光景に、村中の人々が見物に集まってきた。

「なんだ、あの白いカボチャは?」

「まるでイグルーだな。こんな熱い土地で、氷の家でも建てるのか?」


ジャックがそうであったように、彼らも最初はそれを嘲笑し、侮っていた。しかし、建設作業に女性たちが当たり前のように参加し、巨大なブロックを軽々と持ち上げて組み上げていく姿に、男たちの表情から少しずつ揶揄の色が消えていく。


そして、ドームハウスが完成した日。

外気温が40℃を超える中、悠介は、作業を終えた従業員たちを中に招き入れた。


彼らは、恐る恐る、その奇妙な白い建物の中に足を踏み入れる。

その瞬間、ほとんどの者が驚きの声を上げた。

「…涼しい」

「なんだ、ここは…石の洞窟よりも涼しいじゃないか」


外の灼熱が嘘のように、ドームの中はひんやりと快適な空気に満たされていた。火も水も使っていない。ただ、この白い壁があるだけ。しかし、それはどんな日陰よりも、涼しく、安らかだった。


人々は、壁に触れたり、天井を見上げたりして、この不可思議な涼しさを全身で味わっている。その顔には、驚きと、感動と、そして今まで彼らが向けたことのない、悠介に対する純粋な尊敬の念が浮かんでいた。


プリヤが、悠介の隣でそっと囁いた。

「…特に機械を動かしているわけでもないのに、どうして外よりこんなに涼しいの…?あなたが見せたのは、ただの家じゃない。村の常識を覆す、『魔法』よ」


その言葉に、悠介は微笑んで首を振った。

「いいえ、プリヤ。魔法はまだ半分です」


彼は、ドームの真っ白な壁を優しく撫でた。

「この白い壁は、まだ生まれたての赤ん坊の肌と同じで、とてもデリケートだ。このままでは、太陽の光で劣化してしまう。これから、この家を守るための、特別な『服』…セメントと樹脂を混ぜた保護層を、みんなで塗っていきます。それが、私たちの次の仕事です」


プリヤは、悠介の顔を見つめた。彼の目は、目の前の成功に満足することなく、すでにもっと先…この建物が何十年もこの土地に立ち続ける未来を見据えていた。


悠介は、人々の安らいだ表情を見つめていた。

「これは、科学です。そして、始まりに過ぎません。次は、この隣に、一年中緑が育つガラスの家を建てます」


彼の視線の先には、温室の建設予定地が、杭で示されていた。

この土地に、最初の拠点ができた。希望という名の、最初の建物が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ