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第七章:信頼への道

村長から条件付きの許可を得た翌日。悠介は、すぐにでも測量を始めたかったが、プリヤはそれを制した。


「待って、ユウスケ。まだです」

彼女は、プロジェクト用地へと向かおうとする彼の前に立った。「昨日、彼らが私たちにくれたのは、『監視付きの許可』です。私たちが彼らの土地で何をするのか、値踏みされている段階。ここで焦って自分たちの建物を建て始めれば、『やはり、自分たちの利益しか考えていないよそ者だ』と、彼らの心を閉ざさせてしまう」


その言葉に、悠介はスヴァールバルでのエミリアのアドバイスを思い出していた。『まず、彼らの声を聞いて』。


「…分かっている」悠介は頷いた。「だから、最初に作るものは、温室じゃない。道だ」


プリヤは、彼の言葉の意図を察し、目を見開いた。

「…村のための、道を?」


「ああ。僕たちのプロジェクトのためでもあるが、まず村全体の利益になるものから始めたい。プリヤ、もう一度、村長と話す場を設けてくれないか」


---


再び、ガジュマルの木の下。昨日よりも、長老たちの表情は少しだけ和らいでいたが、視線にはまだ鋭い光が宿っている。


悠介は、プリヤの通訳を介して、丁寧に切り出した。

「長老の皆様、昨日、我々の活動を許可してくださったことに、改めて感謝いたします。本格的な作業を始める前に、まず、皆様にご相談と、もう一つのお願いがあります」


彼は、一枚のシンプルな図面を取り出した。温室の設計図ではない。村から街へと続く、一本の道の絵だ。


「私たちの機材を運び込むためにも、この道は重要です。しかし、この道が良くなれば、皆様が市場へ作物を運ぶのも、ずっと楽になるはずです。そこで、私たちの最初の仕事を、この『アクセス道路の舗装』とさせていただけないでしょうか。これは、我々の事業であると同時に、村への貢献の証でもあります。どうか、この道を、我々と村との最初の共同事業として、正式にご許可いただきたいのです」


長老たちの間に、どよめきが走った。彼らは、てっきりよそ者が、すぐにでも自分たちのための奇妙な建物を建て始めるのだと思っていたからだ。自分たちの利益よりも先に、村全体の利益となる道を提案されたことに、彼らは明らかに戸惑っていた。


村長が、隣の長老と現地語で何かを話し合っている。プリヤが、悠介にだけ聞こえる声で囁いた。

(…彼らは、あなたの申し出を訝しんでいます。『うますぎる話には裏がある』と。ですが、道を良くすることに、誰も反対はできないでいます…)


やがて、村長が悠介に向き直った。

「…分かった。その申し出、受け入れよう。その代わり、仕事は村の人間を雇うのだな?」


「もちろんです」

悠介が力強く頷くと、プリヤは懐から一枚の紙を取り出した。英語とカンナダ語が併記された、シンプルな合意書だ。


「では、この共同事業の証として、ここにサインをいただけますか」


村長は、プリヤが読み上げる文書の内容を注意深く聞き、やがて、深く頷くと、インク壺に親指を浸し、紙に力強く拇印を押した。悠介も、その隣にサインを書き込む。


薄い一枚の紙。しかしそれは、この土地で彼らが活動するための、何よりも強固な礎となった。

悠介とプリヤは、目を見交わした。物理的な道を舗装する前に、彼らは、村人たちとの「信頼への道」の、最初のひとかけらを、確かに敷設したのだった。

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