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君と風の行方  作者: 月見饅頭
第二章

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23/80

23 隣の笑顔


「映画行こうよ」


 白松さんからそんな提案があったのは、授業が終わって帰り支度をしているときだった。


「え?」

 不意を突かれた俺は、思わず間抜けな声を出してしまった。


「観たい映画があってね。桜井くんと行けたら楽しいかなって思って」


 白松さんは、少し恥ずかしそうに笑いながらそう言った。


「ああ、いいけど……」

 俺は言葉を詰まらせながらも、頷いた。


 正直、白松さんと二人きりで映画館に出かけるのは初めてだ。嬉しさと緊張が入り混じって、胸がざわつく。それでも、「彼女を楽しませたい」と思った俺は、その日の夜、映画のチケットを手配することにした。


 ――――映画当日。集合時間の15分前に待ち合わせ場所に着いた俺は、白松さんを待ちながらスマホで確認をしていた。


「大丈夫、チケットは取れてるし、時間もバッチリ……だよな?」


 自分に言い聞かせるように呟いた瞬間、白松さんが現れた。


「お待たせ、桜井くん」


 彼女は薄いベージュのカーディガンを羽織って、微笑みながら立っている。その姿を見た俺は、つい息を飲んだ。


「い、いや、全然待ってない。ちょうど着いたところ」


 慌てて返事をしながら、胸が少しだけ高鳴るのを感じた。


 そのまま映画館に向かい、チケットカウンターで予約していたはずのチケットを受け取ろうとした瞬間、俺は頭を抱えたくなった。


「えっと……この時間の上映、チケット予約されてませんね」


 受付の人の淡々とした言葉が耳に響く。


「え!? ……いや、確かに昨日取ったんですけど……」

「もしかして、日付を間違えたんじゃないですか?」


 受付の人がスマホの画面を見ながらそう言う。

 確認すると、案の定、俺が予約したのは翌日の上映だった。


「……最悪だ」


 小声で呟く俺を、白松さんがそっと覗き込む。


「どうしたの?」

「いや……その、ミスっちゃったみたいでさ」


 白松さんは一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔を見せた。


「それなら、空いてる席があれば、今日の上映分を買えばいいんじゃない?」

「……そうだな」


 受付に空席を尋ねると、ギリギリで二席確保できたのはいいものの、かなり端の席だった。


「せっかくのデートなのに、俺、何やってんだよ……」


 そんな後悔を抱えながら、俺たちはポップコーンを手にして劇場へ向かった。


 上映が始まるまでの間、劇場の雰囲気に飲まれそうだった。暗い中、周りを見渡せば、カップルだらけ。どいつもこいつも、肩を寄せ合ったり、ひそひそ話をしたりして、いかにも「デート」って感じだ。


 一方で、俺はと言えば、緊張しすぎて白松さんと目も合わせられない。隣に座っている彼女は、ポップコーンを一口つまんで、画面に流れる予告編を楽しそうに見ている。


「こんなので、楽しんでくれてるのか……?」


 不安と焦りが頭をよぎる。


 上映が始まると、物語の展開に少しずつ引き込まれていったが、それでも時折、白松さんの横顔が気になって視線が泳ぐ。

 映画が終わり、劇場を出ると、俺はとにかく白松さんに感想を聞こうとした。


「どうだった? 面白かった?」

「うん、とても良かったよ。桜井くんと一緒に観られて、楽しかった」


 その一言に、俺は少しだけホッとした。


「本当に? チケット手配ミスったり、端の席だったりして、申し訳なかったけど……」

「そんなこと気にしてないよ。私にとっては、それも含めて楽しい思い出だから」


 彼女の言葉に、胸の中にあった緊張が溶けていくようだった。


「じゃあ、また一緒に行こう。次は、絶対に完璧に段取りするから」

「ふふ、それも楽しみにしてる」


 彼女がそう笑う姿を見て、俺は「何とか失敗をリカバリーできたかな」と安堵した。


 しかし、家に帰った途端、体に重たい疲労感が押し寄せてきた。緊張しすぎたせいか、全身がだるく、頭も重たい。


「楽しい一日だったはずなのに……俺、ちょっと張り切りすぎたのか?」


 ベッドに倒れ込むと、映画館の中での彼女の笑顔が浮かんできた。


「次は、もっと余裕を持って楽しめるといいな……」


 そう思いながら目を閉じるが、体がなかなか休まらない。


 少しずつ、こうした疲れが積み重なっていることに、俺はまだ気づいていなかった。


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