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アルバイト

 


 ――鈴木の様子が、ここ数日おかしい。


 なんというか、いつもの鈴木らしい軽いノリが影を潜めて、どこか落ち着かない雰囲気をまとってる。


 放課後、俺が「帰るぞ」と声をかけても、最近は「ちょっと用があるから先帰っとけ」と断られることが増えた。


 そして今日もまた、そんな調子だ。



「おい鈴木、最近なんかおかしくねぇか?」



「は? 別に普通だろ」



 鈴木は軽く肩をすくめるが、目線が泳いでいるのを俺は見逃さなかった。


 さらに追及しようとしたとき、鈴木のポケットからスマホが振動する音が聞こえる。



「……ちょっと出てくるわ」



 そう言って、鈴木はさっさと教室を出て行った。


 その背中を見送る俺の頭に、一つの可能性がよぎった。


 まさか――闇バイトとかじゃないだろうな?


 その夜、家で夕飯を食べていると、白松さんからメッセージが来た。



 白松: 「桜井くん、鈴木くん、最近ちょっと様子が変じゃない?」



 俺: 「ああ、それな。なんか怪しい動きしてるんだよ」



 白松: 「もしかして……変なバイトに手を出してたりしないかな」



 白松さんの言葉に、俺の胸がざわつく。


 もし鈴木が闇バイトに関わってるなら、早く止めないとまずい。



「よし……直接聞いてみるか」



 翌日、俺は鈴木を捕まえることにした。


 昼休み、俺は鈴木を人気のない校舎裏に呼び出した。



「おい鈴木、お前最近なんか怪しいぞ。何やってんだよ」



「は?なんだよ急に」



 鈴木は笑ってごまかそうとするが、俺は引かなかった。


「白松さんも心配してるんだよ。もし変なバイトとかしてるなら、今すぐやめろ」


 その言葉に、鈴木の表情が一変する。



「……誰にも言うなよ」



 その一言で、俺の疑念は確信に変わった。



「やっぱり手を出してんのか!お前、何やらされてんだよ!」



 鈴木は一瞬黙った後、意を決したようにポツリと言った。



「家庭教師だ」



「……は?」



 鈴木は俺の反応を無視して続けた。



「俺の親戚の子の家庭教師やってんだよ。中学生なんだけど、来月試験があってさ。母ちゃんから『お前ちょうど暇だろ』って押しつけられたんだよ」



「いや待て、家庭教師って……何が怪しいんだよ?」



 鈴木は渋い顔で言った。



「お小遣い程度かと思ったら、やたら時給が高いんだよ。1時間で5000円とかさ。『いいバイトだな』って言ったら、親戚が『もっと稼ぎたいなら他の子も教えてくれ』とか言い出して、断れなくて」



 それを聞いて、俺は脱力した。



「おい、紛らわしい言い方すんなよ。闇バイトとかかと思ったじゃねえか」



「いや、俺だって最初は『こんなにいい話あるのかよ』って警戒したんだよ。だけど、普通に家庭教師だったからな。安心しろって」



 鈴木はやれやれといった顔で続ける。



「たださ、中学生ってめちゃくちゃ反抗的なんだよ。全然勉強しねぇし、母ちゃんからは『しっかり教えろ』ってプレッシャーかけられるしで、マジで大変なんだよ」



 その日の放課後、俺と鈴木が教室でこの話をしていると、白松さんが近づいてきた。



「鈴木くん、大丈夫だった?……本当に危ないバイトじゃなかったの?」



「ああ、大丈夫だよ。ただの家庭教師だってさ」



 俺がそう言うと、白松さんはほっとしたように微笑んだ。



「……良かった。鈴木くんが無事なら、それでいいけど……紛らわしいよね」



「おいおい、俺だって真っ当なバイトくらいやるっつーの。お前らが勝手に心配しすぎなんだよ」



 鈴木はそう言いながらも、どこか照れくさそうに笑っていた。



 それから数日後、鈴木が家庭教師のバイトを終えたという話を聞いた。



「どうだった?」と聞くと、鈴木は疲れ切った顔で答えた。



「もう二度とやりたくねぇ。中学生って本当に手強いんだよ……」



 それでも、最後には小さく笑って言った。



「でもまあ……楽して稼げるバイトなんてねぇよな。こういうのが普通だわ」



 俺はそれを聞いて、つい笑ってしまった。




「……アルバイトかぁ……」と、呟いているのは白松百合子。



 白松さんがアルバイトを始めたと聞いたのは、鈴木の家庭教師バイトが一段落した数日後のことだった。


 放課後、いつものように教室で雑談していると、宮田がぽろっと言う。



「そういえば、ゆり、パン屋さんでバイト始めたんだってね」



「え?マジで?」


 俺は思わず声を上げた。白松さんがアルバイトするイメージなんて全然湧かない。



「なんで急にバイトなんか?」



「さあね。ただ『お小遣いを自分で稼ぎたい』って言ってたよ。たぶん鈴木くんの話に影響されたんじゃない?」宮田が軽く肩をすくめる。



「あいつ、パン屋で働くとか絶対似合うだろ。制服とかエプロンとか、完璧じゃね?」



 鈴木がニヤニヤしながら言う。



「似合うのは分かるけど、なんでそんなに嬉しそうなんだよ」



 その日の帰り道、俺と鈴木は白松さんが働いているというパン屋に立ち寄ることにした。なんでも店は学校の近くで、割と評判がいいらしい。



「白松が働いてるとか、意外すぎるよな」鈴木が笑いながら言う。



「まあ、どんな感じか見てみるか」



 店に入ると、レジに立っている白松さんが俺たちに気づいて目を丸くした。



「桜井くん、鈴木くん!? なんでここに?」



「白百合さんがバイトしてるって聞いたから、様子を見に来たんだよ」



 俺がそう答えると、白松さんは少し恥ずかしそうに笑った。



「もう……あんまり見ないでよ。まだ慣れてなくて……」



 そう言いながらも、白松さんは一生懸命に接客していた。

 レジ打ちの手つきはまだぎこちなかったけど、それでも真剣な表情が印象的だった。


 翌日、白松さんがバイトの話をしてくれる。



「初めてのバイトだから、色々と緊張したけど……自分でお金を稼ぐって、すごく大変なんだね」



「そりゃそうだろ。俺もハンバーガー屋と家庭教師やってみて思ったけど、楽なバイトなんてないよな」



 鈴木が苦笑いしながら言うと、白松さんは頷いた。


「でも……自分で働いて稼いだお金で何かを買ったりすると、きっと達成感があると思うんだ」



 その言葉に、俺と鈴木は思わず顔を見合わせた。



「そういう考え方、白百合さんらしいよな」



 俺がそう言うと、白松さんは少し恥ずかしそうに笑った。



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