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宮代編


「セカンドステージ」



宮代「!?」


宮代は気付いたらそこにいた。そこ、とはどこなのか?まったく見当のつかない場所であった。

ここであえて前置きさせてもらうが、宮代は変わり者である。リアクションが極端に薄いのだ。例えばお化け屋敷や肝試しの類いに動じない。大抵がうぉぅの一言で終わってしまう。強がってるわけでない。そもそもの恐怖というものを受けにくい非常に冷静な性格だ。


宮代「暗っ」


宮代は辺りを見回し、扉らしきものを発見した。スススという音と共に開かれる。


宮代「うぉぅ」


あまりの暗さに脱帽する。廊下は部屋のぼんやりとした明かりの影響をものともせず、闇という結果を生み出している。狭い上に暗い。まるで物置小屋にでもいるようだった。だがそれは幅の話。廊下は淡々と続いている。宮代が右に数m進むと、段差があった。木の板を響かせながら降りる。


宮代「!」


玄関から多少の光が漏れている。宮代はその光を頼りに通路を歩いていく。奥に行くほど深まる闇。それでも宮代に恐怖や不安を与える要素としては足りなかった。



「最低限」



ギシ、ギシと床が軋んでいる。何も見えない、というのが宮代の単純な感想。


宮代(まじ、光がないとどうにもならんな)


家を出てどうなるわけでもないと本能が悟る。その上で家の中を探索するには最低限明かりが必要なのである。突然にして、両手が壁から離れた。空間が広くなったわけではない。左右に別れているのだった。宮代は左へ進もうとするが。ギシ、ギシと音がした。


宮代「?」


宮代は分岐点で少し立ち止まる。左へ行こうとしたのは間違いないのだが、まだ一歩も動いていない。だが、確かに床が軋む音がした。それは宮代の背後。ハッとするが無視して先へ進む。結局は何も見えないからだ。再度動きを止める宮代。


宮代(明かりか?)


スイッチらしきものを発見したためだ。カチリと押すと、通路一体が照らされる。そして振り向いた宮代。



「アクション」



宮代「うぉぅ」


そこにいたのは白装束の女性だった。その手には金槌と五寸釘。長髪は腰を遥かに越え、わずかな隙間からのぞく顔は色白。いや、のっぺらぼうだ。この時、咄嗟に逃げ出すのは不思議な行動ではない。普通ならば得体のしれない相手と相対すれば距離をとろうとする。だが宮代は違った。


宮代「これ、マネキン?」


逆に近付いた。生を感じさせない白装束をじっくりと観察する。宮代は敵を逆撫でしているわけではなく、一連の自然な行動に過ぎなかった。



「増殖」



距離にして約50cm。凶器を持っているにも関わらず怖じけづかない宮代。


宮代「うぉぅ」


そんな中、不動を貫いていた白装束が頭を動かした。というより、頭が動いたのだ。ぼとり、と長い髪を持つ頭部が床に転がった。その勢いは止まらず宮代の横を通り過ぎていく。床の摩擦は働いているのか、と思うくらいにゴロゴロと髪を絡ませながら転がる。その一部始終を目で追う宮代。ふとゴキリと。


宮代「……っ!?」


嫌な音と衝撃が宮代の後頭部に走った。振り向くと、首なしの白装束が立っている。宮代との距離は30cmもない。根拠こそないが、この白装束が金槌で殴ったのだろうとまとめる。ガン、とまたも後頭部が衝撃を受けた。宮代は反射的に頭を抑えると、生暖かい液体に触れた。


宮代(な…)


首だけ動かし背後を見る。あるべきはずの頭がなかった。いや、床の上に直接頭が転がっていなかったというだけのことだ。頭部そのものは、ある。ただし体あってこその頭部という役割を果たしていた。

つまり白装束がいたのだ。体格も両手の武器も変わらない白装束だった。宮代は若干混乱する。一度目に殴ったのは、首がもげた白装束で間違いない。とすると、二度目に殴ったのはなぜ逆方向でなおかつ首付きの白装束なのか?そして落ちたはずの頭部はどこなのか?と


宮代(白装束が増えている)


そう思った瞬間にまたも首付きの白装束の女性の頭部が落ちた。長髪ごと宮代の横を通り過ぎる。デジャヴだった。

流石にまたこいつらから目を背ければ殴られるだろう、と宮代は先程の連続攻撃で学んでいる。だからこそ二体の首なしを視界におさめたまま後ろへ下がる。刹那、背後の空気が変わった。それを確認して宮代は理解した。背後の首のある白装束を見て。



「暴力」



宮代(まさかこいつら…)


ぼとり、とやはり三度目の頭部落下。三体目の首なしが出来上がる。右手に金槌左手に五寸釘。その構図は変わらない。宮代はさらに増えた白装束を視界におさめようと体を動かすが。ゴロゴロと宮代の股をすり抜けていった卵のような頭部の延長上に新たな気配を察知する。その正体は分かっていた、四体目だと。頭部は常に一つ。それでも頭部から白装束を持つ体が生まれていく。その繰り返しだ。


宮代「はは」


苦笑いしかなかった。

こいつらは視界に入れていれば動かないのだろう。だが、いつの間にか四方八方に白装束が。全員が凶器を持って宮代を囲んでいる。

人間の視野はおよそ160度。半数は把握出来るとしても、当然ながら全てを掌握することは不可能。ずっと回り続けていれば動かないのか?床に仰向けになれば助かるのか?いずれにせよ、脱出の術を封じられたのだ。背後から殴打され、振り返れば背後から釘を刺される。骨が砕け、血が吹き出す。徐々に宮代の体のダメージが蓄積されていく。それは一方的な虐殺だった。つまり宮代の様に恐怖に耐性のある者は、閉鎖空間においては暴力という形で決着がつけられるのだった。


宮代は攻略出来なかった。この密室を。




「憩いの場と彫像」


07分57秒


「木造住宅と人形」


08分32秒

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