初めての依頼 前編
「……が、この暁市の成り立ちである」
社会の授業。
俺はこの先生が大嫌いだ。いつも何かと俺にちょっかいを出してくる、この禿げたおっさん。
それにしても、バラバラ殺人事件か……。
あの後、マサルから聞いて初めて知った。最近全然テレビも見なかったし、姉さんもそういう話嫌いだからな……。
確かに、最近警官の姿をよく見るなとは思っていたけど、そんな大事件になってたのか……。
ええっと、今日までに4人の人間が殺されていて、身体の一部がない状態で、しかも全て暁公園の中で発見されている。
もちろん警察も馬鹿じゃない。暁公園とその周辺をかなり警備していた筈だ。
それでも、事件は起きてしまった。
「まあ、暁公園もかなり広いからな……」
「うん?どうしたの、零ちゃん」
隣の席のあかりが、ノートに授業内容を書きながら、小さい声で聞いてくる。
「いや、朝のマサルの話なんだけど……」
「あ、殺人事件の話ね?それがどうしたの?」
「うん、暁公園もかなり警備されていた筈なのに、どうして全て暁公園で発見されたのかなって思って」
「そうよね…そんなに警備が厳重だったら、そこに持ってくるのも大変よね……」
あかりが、前を向きながら鉛筆を加えて「う〜ん」「むむぅ」と、まるで、推理をする探偵の様に考えていた。
そうなんだ。
しかも『なぜ暁公園だったのか』なんだ。
暁公園に何かがある?暁公園にあって、他にないものは何だ?
被害者の共通点は?そもそもどうして体の一部分がないんだ?
「むむむ……」
うん、わからん。
こう言うは、平さんに聞くのが1番だな。
父さんの事もあるし、暁署に行った時にその辺も合わせて聞いてみるか。
「……ちゃん。零ちゃん」
「ん?」
あかりが、目線で「前を向け」と言っているのがわかった矢先、
「こら!八神!!先生の話を聞いているのか!!」
教室内にやかましい声が響き渡る。
「はいはい、聞いてますよ。何ですか?」
「なんだその態度は?」
「聞いてるから聞いてるんですよ。先生」
別に、挑発している訳ではない。
単純にこいつに話す時はこうなってしまうのだ。
「ほお、じゃあワシの質問にも答えれるな」
「し、質問?」
やば、そこは聞いてなかった……。
チラッとあかりの方を見ると、あかりはノートに先生の質問が書いてくれていた。
「暁市の人口と100年の歴史だって 頑張れ 零ちゃん♥」
無駄に、ハートマークとか入れちゃって……サンキューあかり。
と言っても、人口なんか分かるわけねえよ……。
「……3万人……くらいですか?」
「むむむ、正解じゃ」
おお!当たった。
ってか、3万人くらいだったんだな。意外と少ないんだ。
「では、なぜ暁市は100年の歴史しか無いのじゃ?」
知らねえよ。
「ええっと、それは……」
あーでもない、こーでもないと考えを巡らせていると……
あかりも不安そうな顔をしてこっちを見ている。
「それは、ここが日本政府に作られた唯一の『特別区』だからです。100年前の戦争によって、この暁市は生まれました」
クラスの目線が俺から、入り口に近い場所に座っている『華月 瑠衣』に向けられる。
「そうじゃ、この暁市には歴史が100年しかない。それは、100年前の世界大戦の最中に起きたあの忌まわしい兵器『核』によって、この辺一体が無くなってしまったからじゃ。そして、戦争は終結。戦後、日本政府が核の恐ろしさと悲惨さを忘れない為に、ここを平和の象徴として『特別区』に指定し、新たに作り上げたのじゃ」
さすが、暁高校の生徒会会長!頼りになるぅ!
俺は、瑠衣にウインクする事によって感謝を表した。
その行為を、瑠衣は苦笑いで返しながらゴソゴソと先生に見つからない様に机の下で、何かしていた。
『才色兼備』って言葉は、瑠衣の為にある様な気がする程に綺麗で秀才。
腰まで伸びた黒髪を後ろで一つに結び、ぴーんと伸びた背筋もけっして曲がる事はない。
それもそのはず、瑠衣は弓道部に所属していて尚且つ部長。そして、全国1位の実績を持つ程の実力者。
生徒会選挙なんて初の100%と言う投票率を叩き出し選任された人気の持ち主。
本当にもう、凄いんです。
ブーーブーーブーー
携帯のバイブが鳴って、俺の元にメールが1通届いた。
【昼飯は、焼肉定食とラーメンとアイスクリームをご馳走しなさい】
絵文字もなし。最後の句読点もなし。紛れもない、瑠衣だ。
それにしても相変わらず、よく食べる事。
しかも命令口調。まあ、嫌いじゃないんだけどね。
【はいはい、わかりました】
と、こちらも返事を返す。
【よろしい。】
あっ、句読点付きだ。
それにしても、ちょっと財布の中身が心配だな。
また、依頼を受けて小銭稼ぎしないとな……。
キーンコーンカーンコーン
そうしている内に、4時限目終了のチャイムが鳴り、昼休憩の時間になった。
「うう〜ん! やっと終わった!!」
「零ちゃん、良かったね。瑠衣ちゃんのおかげだね」
背伸びをしながらあくびをしていると、瑠衣がこちらに近づいてくる。
「八神くん。約束通り、行きましょう」
瑠衣は俺の右の袖を掴みながら、上目遣いでこっちを見ながら食堂に誘ってくる
クラス内がちょっとザワザワしながら俺と瑠衣ともう1人の挙動を気にしていた。
「え? ちょっと、瑠衣ちゃん。何か零ちゃんと約束してたの?」
あかりがちょっとムッとした顔になって瑠衣に話しかける。
「あ、あかり。ごめんなさい。さっきの質問に答えてあげたから、お昼ご飯をご馳走になろうと思ってさっきメールしたの」
そう言って、俺の右腕から手を離しあかりに説明する。
もうちょっと、そうしてくれても良かったんだが。
「あ、そう言う事だったの。じゃあ、一緒に行きましょう」
「うむ、そうしよう」
「零ちゃ〜ん! 僕も奢って〜!」
「私も〜!」
マサルと美琴が、そう言いながら近づいてきたので
無視して、3人で食堂に向かった。
ーー
「やっぱり、混んでるな〜」
マサルが、食堂を見回しながら空いている席を探そうとしていた。
時計を見ると……まだ12時ちょっと過ぎた所なのに、この混みよう。
「あっ! あそこ! 自販機の前が空いてるよ!」
あかりが、自販機の前にあるテーブルを指差しながらその方向へ向かう。
6人がけのテーブルだから、大丈夫だな。
「オッケー、じゃあ順番にご飯を取りに行こう。ええっと、瑠衣は焼肉定食とラーメンで良かったっけ?」
「あ、うん。私も一緒に行くわ」
とりあえず、俺と瑠衣、あかりが先にご飯を買いに行く事になった。
ーー
「やっべ〜、この……牛肉モツ煮込み定食……もぐもぐ……美味すぎ!!」
マサルがそのプリンとしたモツを頬張り、ご飯と一緒に口に掻き込みながら舌鼓を打っていた。
俺は、この食堂の名物と言われるチーズカツカレー大盛りを頬張っていた。
「ちょっと、あんた。ちゃんと飲み込んでから話しなさいよ!」
「……ええ? いいじゃねえか、そんなの。あっお茶入れて」
「もう!」
美琴がマサルにブツブツ文句を言いながらも、お茶を入れる。
「あかりちゃんの、それなに?」
瑠衣が、焼肉定食を既に完食しラーメンに手を付けながらあかりのご飯を興味深く見ていた。
速っ……こいつの胃の中は一体どうなってるんだろ?
「え? 私はね、なんか今月からの新メニューでガーデン定食だって」
「それ! 私も気になってたの! 何が入ってるの?」
美琴も気になっていたのか、あかりに聞いている。
「ええとね、平手打ちのパスタの上にロールキャベツとソーセージが乗っててボリューム満点だよ」
「もぐもぐ……それも美味そ〜!」
「だから、口の中を空っぽにしてから喋りなさいってば」
「お行儀が悪い」
美琴と瑠衣に怒られながらもマサルは気にせず話続け、ランチタイムはたわいも無い話で盛り上がった。
各々がお昼ご飯を食べ終えた今はコーヒータイムに突入していた。
「はいよ、瑠衣。ハーゲンボーデンのココナッツ。これだったよな?」
「うん、ありがと」
食後のデザートもコミコミだったので、俺は瑠衣にこのクソ高いアイスクリームも奢ってあげた。
これで既に2人分で2000円近く使ってるぜ……。
他のメンバーは、マサルがイチゴ牛乳、美琴とあかりはホットコーヒー。
俺は、アイスコーヒーブラック。
食後はアイスコーヒーのブラックと決めているからな。
「はあ〜食った食った。もう腹一杯だぜ〜」
「で、昼から寝るんでしょ?」
お腹を摩りながら満足そうなマサルに、呆れながら美琴が言う。
「まあ……な?」
「何が『まあ……な?』よ。そのドヤ顔辞めなさい」
「もう!葛城君ったら……ん?……零ちゃんどうかしたの?」
マサルと美琴の夫婦漫才を全然聞いていなかった俺に、あかりは気付いたのかこちらを見ながら聞いてきた。
相変わらず、瑠衣はアイスクリームを食べていた。
「……ん?あ、いや、今日の朝の話しがずっと気になってて」
「話しって『バラバラ殺人事件』の事?」
「うん……そういや、美琴。おやっさん何か言ってなかった?この事件の事」
そう、何を隠そう美琴の父親は、暁署の署長で平さんの上司でもある。
俺があの事件で退学寸前になった時も平さんと一緒に助けて貰ったっけ。
「あ〜それがね、今回の事件の事はあんまり話してくれないんだ」
「話してくれない?」
「うん、いつもだったら『こいつが犯人だよ』とか言ってくれるんだけど」
おいおい、署長ともあろう人がそんな事言ってて良いのかよ。
と、ツッコミを入れたくなったが話の腰が折れそうなのでやめた。
「……なあ、触りでいいから事件の事を教えてくれないか?」
「うん、いいけど」
美琴が飲んでいたコーヒーをテーブルに置いて、静かに事件の発端を語り始めた。
「ええっと、私もあんまり詳しくないからね? まず最初は10月21日、西暁駅の裏手のマンションに住む40代の男性が、仕事帰りに同僚と飲むからって奥さんに連絡したらしいの。いつもだったら22時には家に帰ってるはずなのに、その日は帰ってこなくて、連絡もつかなくて、次の日の10時頃会社から無断欠勤していると連絡があったらしいの。それで不安になって交番に捜索願いを出す為に、外に出ようとしたら暁署から連絡があって……」
「……殺されていた」
「うん、暁公園の池のほとりで遺体となって発見されたって」
「第一発見者は?」
「ジョギングをしていたお爺ちゃんだって。あそこ結構広いじゃん? だからジョギングコースにもなってるみたい」
「……で、右足がなかったと」
「……うん」
まず、ここで警察は暁公園自体を封鎖するはずだ。
この暁市で殺人事件なんか滅多に起きないと言うか、聞いた事がなかったからな。
「2人目は?」
「2人目と3人目は一緒に見つかったんだけど、これはカップルね。ほら、暁公園の西側にちょっと夜の街って言うか、歓楽街があるじゃない? そこの店の従業員とお客さんみたい。10月27日、明け方暁公園のトイレで発見されて、男性が右足、女性が右腕だったかな?無くなった状態だって」
ここだ、犯人はどうして警備が厳重な暁公園にわざわざ持って行ったんだろ?
暁公園に何かそうしなければいけない目的があるのか?
「で、最後の4人目は……?」
「最後は……10月30日か、会社員の女性がまたしても暁公園の…・あの、でっかり森みたいな所あるじゃない?」
「暁の森ね」
それまで、アイスクリームを食べていたと思っていた瑠衣が美琴に答えた。
「あそこって、暁の森って言うんだ。初めて知ったよ」
「そうそう、そこで左腕がない状態で発見されたって」
発生時期と被害者の共通点も見当たらない。
性別の共通点もない。
あるとしたら、全てが暁公園で発見されているって事だ。
あと、バラバラにされているって事だ。
「これで、両手両足が無くなってるよな?今度続くと思うか?」
俺は、美琴に尋ねた。
「わからない……セオリーって物が適用されるなら、次は……頭だと思うけど、そんな犯人が考えてる事なんか分からないわ」
「まあ、そうだよな……」
そうだ、犯人が何の目的かわからないが、バラバラ殺人ってのは犯人の目的に沿って行われているケースが多いと聞く。例えば、右腕に異様な執着心を持った人間は右腕のみを集めるとか。
後は、見せしめか?しかし、身体の一部分を切り取って誰にアピールするんだ。
考えがこんがらがる……。
「でも無くなった身体の一部は見つかってないんだよな?」
「うん、まだみたい……あっそういえば」
「ん?」
美琴が何かを思い出したように、残りのコーヒーをグイッと飲み干して話し始める。
「父さんがね、今回の事件はちょっと異質過ぎるって言ってた」
「異質過ぎる?」
「うん、父さんって叩き上げの署長じゃない?だからそういう感みたいな物が働くみたいなんだけど、この事件は調べれば調べるほど、何かがおかしいって」
「何がおかしいんだろ?」
「う〜ん、明確な事は言ってなかったけど、犯人の癖って言うのかな?そういうのが一切ないって言ってた。普通ならおおまかなんだけど、心理的に◯◯タイプみたいに分けれるみたいなんだけど、なんか今回は『現実には考えられない』みたいな事言ってたけど……」
現実には考えられない?
どういうことだ?
「じゃあ幽霊の仕業とか!?」
それまで黙って聞いていたマサルがここぞとばかりに話に入ってくる。
「いや〜それは無いんじゃない?」
バッサリと切り捨てる美琴。
「いや、わからないぜ。現実には考えられないって事はそういう事も可能性としてはあるんじゃね? な、零?」
突然話を振るんじゃない。
「どうなんだろ、まあ俺もその可能性は低いと思うけど……」
「ええ! お前までそういうの!?」
がっくしという感じです下を向くマサル。
けど、《視える》俺にはどうも引っかかっていた。
「でも、今回はトラブルバスターとして解決できそうにないな」
「え?」
あかりがこっちを向く。
「零ちゃん、まだそんな危ない事してるの?」
こらこら、余計な事を言うから。
ちょっとあかりが怒ってるじゃないか……。
「いや、そんな危ない事はしてないよ! ええっと、財布を探してくださいとか、ペットが行方不明になったからとか、あの子に手紙渡してくださいとかばっかりだから」
「ぶ!っははは!!地味だね〜」
美琴が笑いながらテーブルをドンドン叩く。
おい、笑過ぎだろ……。
俺は瑠衣の方を向いて助けを求める。
「いいと思うよ、私は。結果、人の助けになってるし」
瑠衣は静かに俺のフォローに回ってくれた。
さすが生徒会長!頼りになる!
「本当に?」
あかりは腑に落ちない顔をして、何度も聞いてくる。
「本当だって、だから心配しなくて大丈夫だよ」
「そうだよ、宮本さん。零はめちゃくちゃ強いって知ってるでしょ? この前も…」
ああ!!ばか!!
「この前?」
あかりのこめかみがピキピキしているのが分かる。
ヤバイ……あかりは怒らせると怖いんだよ。
こないだだって、一緒に帰ってる時にちょっと目を離した隙にナンパされてて、止めに行ったら……そうそう、よくある「ダサい彼氏連れてんじゃねえよ」って言われたんだっけ。
まあ、よくある捨て台詞って奴なんだが、あかりの奴全然通じなくて、めちゃくちゃ怒って男の顎にナイスパンチ!『KO!YOU!WIN!』状態になってしまったからな。
だから、あんまり逆らわない方がいいんだよ。
「ああ、あれだ。この前は……うん、あれだ」
「零ちゃん、帰りじっくり話を聞くから」
「……はい」
ここは、大人しく聞いておこう。
こうして、ひとしきり事件の話を聞いた俺は、残った休憩時間を事件の整理に当てようと、みんなにそろそろ行こうかと話そうとした時だった……。
「……あの……八神さんですか?」
見知らぬ女生徒が、話しかけてきた。
1人称って難しいです。初めての小説執筆ですが、何か感想をいただければ幸いです。




