9話
祖母が立ち上がった。
「少し飲み物を買ってきますね」
そう言って病室を出ていく。
俺と叶だけが残された。
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気まずい。
正直、何を話せばいいのか分からない。
俺は元々人と話すのが得意じゃない。
ましてや初対面に近い相手だ。
すると。
「・・・私」
叶が小さく口を開いた。
「学校嫌いだったんです」
少し意外だった。
だけど何となく分かる気もした。
「そうなんだ」
「はい」
叶は窓の外を見る。
「友達もいなくて」
「クラスでも一人で」
「話す相手もいませんでした」
どこか聞き覚えのある話だった。
⸻
「だから」
叶は続ける。
「クラスメイトが嫌いでした」
その言葉は少し強かった。
「みんな楽しそうで」
「友達がいて」
「放課後に遊びに行って」
「笑ってて」
自嘲するように笑う。
「私、嫉妬してたんです」
「・・・」
「なんで私だけなんだろうって」
病室が静かになる。
「だから」
叶は俯いた。
「本当は性格悪いんです」
「そんなことないと思うけど」
思わず口から出た。
叶が少し驚いた顔をする。
⸻
「俺も似たようなもんだから」
そう言うと叶は目を瞬かせた。
「・・・え?」
「いや」
少し考える。
「嫉妬とは違うかもしれないけど」
俺も羨ましかった。
普通のクラスメイトが。
普通に笑って。
普通に学校へ行って。
普通に家へ帰る。
そんな当たり前が。
「だから分かるよ」
そう言うと叶は少しだけ笑った。
本当に少しだけ。
⸻
「大さんは」
叶が聞いてくる。
「クラスメイトのこと嫌いですか?」
嫌い。
その言葉だけなら簡単だった。
実際、許せない。
一生許せないと思う。
だけど。
「・・・分からない」
気付けばそう答えていた。
「嫌いなのは確か」
「でも」
言葉を探す。
「嫉妬もしてたと思う」
「え?」
今度は叶が驚く番だった。
「友達とか」
「家族とか」
「そういうの」
俺は苦笑する。
「結構羨ましかった」
⸻
しばらく沈黙が流れる。
だけど不思議と嫌じゃなかった。
すると叶が小さく呟く。
「私もです」
窓から差し込む夕日が病室を照らしていた。
その時初めて。
俺は叶と少しだけ話せた気がした。
お互いに失ったものは違う。
抱えている傷も違う。
それでも。
どこか似ているのかもしれない。
そう思った。
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