5話
バイトもすぐに復帰できる訳じゃない。
家にいても気が滅入るだけだった。
とりあえず外に出る。
いつも通り中古ショップで漫画でも読もうと思った。
「大!!」
突然名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声だった。
振り返る。
「・・・田中さん」
クラスメイトの一人だった。
こんな場所で学校の人に会ったことはほとんどない。
少しだけ嫌な予感がした。
田中さんは真っ直ぐ俺を見ていた。
怒っているようにも見える。
泣きそうにも見えた。
「アンタのせいで私の生活めちゃくちゃなんだけど」
開口一番、それだった。
俺は何も答えない。
「学校も休校になって」
「家の前には記者が来て」
「友達からも連絡来なくなって」
言葉が止まらない。
まるで誰かに聞いてほしかったみたいに。
「・・・そう」
それしか言えなかった。
すると田中さんは少しだけ声を荒げた。
「そうじゃないでしょ!」
周囲の人がこちらを見る。
「私たち仲良かったじゃん!」
その言葉に少しだけ違和感を覚えた。
仲良かった。
本当にそうだったんだろうか。
「話しかけてたじゃん」
「遊びにも誘ったじゃん」
「一緒に帰ったことだってあったじゃん」
確かにそうだ。
全部事実だった。
だけど。
俺が覚えているのは別のことだった。
遊びに行けば笑い者にされた。
話しかけられても周りはニヤニヤしていた。
断れば空気が悪くなった。
だから断れなかった。
「俺は仲良かったとは思ってない」
静かにそう言った。
田中さんの口が止まる。
「・・・え」
「ニュースで言ったことも本当だよ」
俺は続ける。
「虐められてたと思ってる」
風が吹いた。
周囲のざわめきだけが聞こえる。
「違う・・・」
田中さんが呟く。
「違わない」
「私はそんなつもりじゃ・・・」
「でも俺はそう思った」
その言葉だけははっきり言えた。
もう我慢する必要がないからだ。
田中さんは俯いた。
何度も首を横に振る。
「違う・・・」
「私は・・・」
だけど、その続きを言おうとしない。
言えないのかもしれない。
「もういいよ」
俺はそう言った。
「学校が再開しても、もう前みたいにはならないと思う」
そう言って歩き出す。
これ以上話すことはなかった。
「待って!」
後ろから声が聞こえる。
俺は足を止めなかった。
「大!」
必死な声だった。
「行かないで・・・!」
その声だけが妙に耳に残った。
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