第7話 リュックの場所まで
「ノア……聞きたいコトがある」
「どうしたの?」
「あの大きなロボット……いや、機械生命体と言うべきカ……?……ソイつを倒したあノ時、ノアは何故私を見ていたんダ?」
「あーそれは……」
私はあの大きな機械生命体との戦闘後、ノアが私を覗き見ているのを見た。
いや、戦闘後ではなくそれより前から見ていたのかもしれないが、そうだとして何の目的で覗き見ていたのだろうか。
「リュックを置き忘れてたからだね」
リュックと言えば、始めてノアと会った時、ノアが背負っていたものがあった。
あのリュックを、あの追いかけっこの時にノアは背負っていなかった。
というより、ノアを起こそうとしていたあの時にリュックをそのままに逃げていた事を思い出す。
「ゼロから逃げた後、ふと思い出して……慌てて取りに戻ったんだけど……なんせあんなに戦闘してるものだから中々取りにいけなくて」
「申しワケない」
「謝罪なんていいよ。レッカーとはゼロの装備だと戦闘するしかないからさ」
「レッカー?」
「うん。あの大きな機械生命体の名前はレッカー。先生がつけたの。レッカーはとにかく硬いし、衝撃波も持ってるから普通ならどうしようもないんだよね」
普通なら……?
私の導き出したあの決着の答え。
もし何かがあったのなら、あれ以外の勝ち方があったというのか。
「レッカーは単純なんだよ。だから音弾とか、閃光弾とかで注意を引いているうちに、逃げればいいの」
「音だマ?センコウ弾?」
「あーえっと、音弾と閃光弾はね……ポリヴァラン銃に装填して使う……」
「……」
「……見て貰った方が早いね。はやくリュック取りに行こっか。何かの間違いでなくなっちゃったら嫌だし」
音弾、閃光弾は恐らく見た事がない。
けれど、ポリヴァラン銃というのは……始めてノアと会ったあの時の銃だろう。
私を気絶させた弾、そして今ノアが言った音弾に閃光弾。
なんとなくだが、ノアがレッカーのような機械生命体がいる世界でここまで生きてこれた理由が分かった気がした。
そして、そのような物が入ったリュックを置いて来てしまったというのは、恐らくノアにとってとても恐ろしい事なのだろう。
それはさておき、ここは始めてノアと会ったところから随分と離れてしまっている。
「……リュックの場所ガ分からなイ」
ノアにその旨を伝える。
すると、ノアは「大丈夫だよ」と言って、私から視線を外して歩み出す。
そして少し歩いたところで立ち止まり、振り向いた。
「この都市の事はあらかた把握してるから任せて!付いてきて!」
そう言ってノアは目的地の方向へと体を向ける。
その背中を私は追いかける。
私たちは道路であっただろうところの真ん中を横並びに歩いていた。
道路の端にはビル群が建っている。
歩く度、小さな軋んだ音が足から響く。
先程まで立ち話をしていたので、当然足を動かさない訳なのだから軋んだ音なんて聞こえない。
そのため、今こうして歩くまで自身の足から軋んだ音がするという事実を忘れていた。
その小さな音は、ノアの耳には届かない。
私自身でさえ、自身に伝わる少しの衝撃と合わせて始めてそれを音と判断した程なのだから。
「そういえばゼロってどこまでの記憶がない……というより、分からないの?」
ノアは唐突にそう口にした。
何処までと言うと、何処まで答えればいいものか迷うものである。
言葉は忘れていないし、ある程度この地球という世界の原理、生命の事などは理解している。
だが、この世界に何が起きたのか、機械生命体とは何なのかまでは分からない。
「基本的ナ事は理解している。だが、コノ世界の今ノ状況、機械生命体の事ナどは理解してイナイ」
「なるほど……一般的なコミュニケーションで求められる事は理解しているという解釈でいいかな?」
「問題ナい」
「じゃあ……機械生命体の事から説明していこうかな」
現時点で機械生命体について理解している事は、ロボットであろう事、そして危険な存在な事だけだ。
何故そのような存在がいるのだろうか――
「機械生命体はね、一般的にaAIって言うのを搭載しているロボットの事を言うの」
「aAI?」
「aAIって言うのは、感情がないけど複雑な思考が出来るAI……だから世界がこのようになるまで、人間は機械生命体を……強い言葉を使うと……奴隷……のように使ってきたんだ……」
複雑な思考には、感情というものが付き物である。
感情をもつ事は道具であるAIには不要なもので、邪魔なもの。
だからそれを無くしたaAIというものは人類にとって画期的なものであった事は想像に容易い。
「そんな扱いをしてきたせいなのか、ある時機械生命体による反乱が起きたの……その反乱は最初は小規模のものだったんだけど、次第に勢力を増して、やがて世界へと広がったの」
aAIには感情を持たないという制限がある。
それなのに感情を持った。
人類はその誤算に気付く事がなかったのか?
そんな疑問が頭をよぎる。
だが、今すべき質問ではない。
後でゆっくり話す時に話せばいい。
「その世界へと広がった反乱は、戦争へと形を変えて、そしてその戦争に人間が負けた結果……」
ノアは立ち止まって、周囲をなぞるように手を差し動かしながら言葉を紡ぐ。
「人間はほとんど死んじゃって、こんな誰もいない、静かな世界になったの……」
私はその手の動きに視線を追った。
その先には、生命の気配なんてない、静寂という言葉に押し潰された夜の都市がそこにはあって。
その上には遮るものが何もない、夜の星空が広がるばかりだった。
ノアは手を止めて下ろすと、私に顔を向ける。
「これが機械生命体と……この世界の今の状況……だね」
その瞳は何処か悲しげで、空虚だった。
「……なんかしんみりしちゃったね!行こうか……」
ノアは再び歩み出す。
その歩みに合わせて、私もまた歩みを進めた。
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