出会い
――暖かな春風が、私の体を撫でてゆき。
――降り注いだ雨は、この錆びついた体を濡らして。
――灼けつくような光が、この滅びた世界を輝かせ。
――荒れ狂う嵐が、木々を揺らし。
――降り積もる雪が、世界を白に染め上げて。
――そしてまた、繰り返す。そう思っていた時――
私の体を長きに押さえていた瓦礫が、鈍い音を立てて崩れた。
私の幸運を祝福するかの如く、雲の間から光が差し込んでゆく。
その光に誘い込まれるかのように私は立ち上がる――
その時、目に見えた光景。
それは見渡すばかりの何もない地平線が広がっていた。
建物の瓦礫しかない、生命の息吹を感じない広い世界をただ見つめていた私は――
一歩を踏み出した。
軋む体に鞭を打ちながら。
一歩、また一歩と光の方向を目指して歩く。
歩く度にギシギシと関節から音が鳴り、その音が私に確実に歩みを進めている事を告げてくれる。
一歩、また一歩。
何のために歩いているのか、私は何故瓦礫に押し潰されていたのか分からない。
けれど、歩かなければならない。
そう言って体が言う事を聞かないのだ。
歩き続けていると何か起きたのか、私の視点は突然低くなってしまった。
私は膝を付いてしまったのだ。
足が重い。
体が思うように動かない。
私は助けを求めているのか、顔を左右に動かして人を探した。
だけど人っ子一人おらず、あるのはそこにあったはずの家々の土台。
誰かが乗っていたであろう、血の付いた潰れた車。
かつて多くの人がいたであろう倒れたビル。
苔に覆われた道路標識。
誰もいない、何もない地平線が広がるばかりである。
――救いなんてない。
こうなる事は想像出来ていたはずなのに。
私は7年程、瓦礫に押し潰されていた。
その間、ずっと季節の移り変わりを見てきた時から、いつ壊れたっていいと考えていたのに。
それなのに――
私の体は歩けと言っている。
私に生きろと言っている。
――ならば、歩かなければならない。
差していた光はすっかり傾いて、空は紅に染められていた。
後ろを見ると、私が付けた足跡がぼやけてしまう程の遠くの方まで付けられていた。
ここまで歩いてきて、歩かなければならないという意思はなくなったと思いたかったが、私の体は依然として私に歩けと告げてくる。
だが朝の時より体の軋みは一層酷くなって、足取りも何処かおぼつかない。
――そろそろ限界なのかもしれない。
それは逃れようも出来ない事実だ。
それでも私は歩みを止めず、いつかあるはずのゴールへと向かう。
揺れる体をどうにか真っ直ぐに保ちながら歩き続けていると、遠くに何やら大きなシルエットが見えてきた。
そのシルエットは私が歩みを進み続けるごとに大きく、そして鮮明になっていく。
遠くからだと縦に長い影が無数に並んでいるように見えていたものが、次第に形を持ち始めていく。
ぼやけていた輪郭がはっきりとして、それが何であるかようやく理解した。
「都市ダ」
口にして少し分かった気がする。
――ここが私が求めていたゴールなのだと。
地平線しか写していなかった私の目は、気付けば無数のビルを写しており、紅に染められた空は次第に闇に覆われていく。
光が届かないアスファルトの上を歩いて、歩いて、歩いて――
――すると、違和感が襲ってきた。
その違和感に気付いた時にはもう遅く、無数のビルに囲まれたアスファルトの上で私は倒れてしまっていた。
静寂が身を包み、夜の帷が下りた頃、私は足がもう動かなくなってしまっても前へ進む事を諦めていなかった。
この先にゴールがあると信じていたから。
そう思っていた時――
少し遠くで人影が現れる。
それは、人間の少女だった。
「どうしてここに機械生命体が……?」
その声はいつの日か聞いた事があって――
私は彼女に会うためにここまで来たのだと悟った。
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