42.メフィストフェレス
15年前――。
メフィストフェレスは悪魔召喚の儀式により、ニコラウスに呼び出された。
「オマエの願いを一つ叶えてやろう」
メフィストフェレスの言葉に、ニコラウスは、
「願いを三つに増やしてくれ」
と答えた。
あらかじめ願いの数を増やすことを禁じていなかったメフィストフェレスは、仕方なく三つの願いを叶えることにした。
ただし、一つ目の願いは、
『願いの数を変更した』
ことで叶えた旨を伝え、ニコラウスも了承した。
二つ目の願いは、先代教皇エドワードを殺してくれというものだった。
メフィストフェレスは即座に実行した。
「さて、最後の願いは何だ?」
メフィストフェレスが問うと、ニコラウスは魔導具の指輪を取り出し。
「大人しく、ここに封印されろ!」
と叫んだ。
メフィストフェレスは抗うことができず、指輪に封印された……。
***
「ふ、腹筋がちぎれる……! アホじゃ……間抜けじゃ……モブ悪魔じゃ~!!」
俺の執務室でメフィストフェレスの話を聞き終えたリリスは、再び大爆笑した。
「血も涙もないのか、オマエは!」
俺はリリスの脳天にゲンコツを落とした。
「……しかし、先代教皇殺しの黒幕もニコラウスだったとはね。ヤツが、どうしようもない外道だということはよーく解った」
「……その口ぶりから察するに、彼奴は他にも聖職者としてあるまじき行為を?」
メフィストフェレスの問いに俺は頷き、一連の出来事について語った。
俺の話を聞き終えたメフィストフェレスは、
「悪魔よりも悪魔的ですな」
と呆れた。
「いますぐにでも報復に向かいたいだろうが、少しだけ待ってもらえないだろうか? 人間の中にもマトモな連中はいて、ニコラウスを告発しようとしている。その時までは……」
「まずは人間たちにニコラウスを裁かせ、その後に我らが……という算段ですな!」
「魔族、人族の双方に被害者がいるんだ。どちらからも断罪されるのが当然の報いだとは思わないか?」
「おっしゃるとおりですな!」
メフィストフェレスは愉快そうに笑った。
◇
「な、なんという……魔封環獄の魔石が割れている……。メフィストフェレスが解き放たれた!」
ニコラウス教皇は顔面蒼白になって呟いた。
警備担当の皇国騎士の話によれば、宝物庫から話し声が聞こえ、賊が侵入したかと踏み込んだが、部屋の中に人影はなかったという。
ちなみにアストレア教団が直轄する聖騎士団は、代々の皇帝が認めておらず存在しない。
教団の力が強くなりすぎるのを懸念しての措置である。
(誰が犯人なのかは、どうでもいい。問題なのは、メフィストフェレスが自由の身となったいま、私の命が危ういということだ。あの悪魔は、必ずや復讐にやって来る)
ニコラウス教皇は恐怖に震えた。
(護衛はどうする……? 皇国騎士では、あの上位悪魔には敵わないだろう。……そうだ、勇者がいる! かつて魔王を屠った聖剣を持つ勇者なら、メフィストフェレスを倒すことができるだろう。皇帝陛下に、メフィストフェレスの封印が何者かによって破られたことと、勇者アオイを私の護衛任務につけるよう具申しなければ……)
帝城に着くと、謁見の間には、既に碧の姿があった。
ニック、エディ、カール、マイケルが射るような視線をニコラウスに向ける。
5人の前には、後ろ手に縛られたブラッド・オールマンが両膝を着き、頭を垂れていた。
「教皇ニコラウス、申し開きがあれば聞こう」
アレキサンドル皇帝の手には、ブラッド・オールマンから没収した裏帳簿がある。
人身売買に、ニコラウスが関係していたことを示す証拠だ。
「さて、何のことでございましょう?」
「とぼけないで! 魔人狩りで捕まえた子供たちを奴隷として、他国に売っていたことは分かってる。帳簿の中には、あなたに渡った金額も余すことなく記載されて……」
「そんなものは証拠にならん!」
碧の言葉をさえぎって、ニコラウスが怒鳴った。
「悪意により、私の名前を帳簿に残し、いかにも関係者だと思わせる手口ですよ。そんなことも見抜けないのですか?」
「そんな……俺を切り捨てるのか、ニコラウス!」
ブラッドの悲痛な声が響く。
「皇帝陛下、ここにいる者たちが何を訴えているのかは存じませんが、全ては世迷いごと。それよりも重大な報告がございます。大悪魔メフィストフェレスの封印が何者かの手によって解かれました!」
「なんと! それは真か?」
アレキサンドル皇帝が身を乗り出す。
「このように魔封環獄が壊れております!」
ニコラウスが取り出した魔導具を、近衛騎士が受け取り皇帝に渡す。
「メフィストフェレスは復讐のため、必ずや私の元へ現れるでしょう。その期を逃さず勇者アオイが聖剣を振るい討伐するのが最善の策かと……」
「あなたのような卑劣漢を護衛しろですって!?」
「拒否するのですか? 教皇である私が悪魔に殺されてもかまわないと……救えるはずの命を見殺しにして、あなたの心は痛まないのですか? 勇者アオイ」
「……ったく、つくづく下種な野郎だな」
ため息混じりの声がして、謁見の間の扉が開いた――。




