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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
二章

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2話・12 ”盛況”

今回からジャンルを文芸→ローファンタジーに変えました。よろしくお願いします。

 ミニガン。


 一般的にガトリング銃と呼ばれる回転式銃器の、小型化された名称である。


 本来ならば車両に搭載、ないし地面等に固定設置されて使われる機関銃。1分で数千発の7mm弾をバラ撒ける、凶悪な装備だ。


 それを模した仕置銃、第三形態。

 通称、”破門(はもん)”。


 それを両腕に吊り下げ、トラックから降り立った宗谷寅は、


「邪魔するよ」 


 そう言って、腰だめに銃を構えた。


 銃口を向けられた住民たちは、固まって、一歩も動かなかった。


 息を呑む声すらも、悲鳴をあげることもなかった。「えっ、アレっ、あれっ、なにい? 撃つんじゃないよねぇ?」などと、ワイドショーでも見ているかのような、ボケた老女の声が聞こえたのみだった。


 東雲十三には、住人たちの思考が透けて見えるようだった。

 まさか、そんな、撃つはずがない、ここは日本で、日本は法治国家で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから!


 ーー本気でそう思っていたら、救いようがないバカだ。


 彼らの願いもむなしく、”とら”の手元の銃器が、火を吹いた。


 十三は、一歩も動かなかった。動くな、と”とら”に厳命されていたからだ。


 ”とら”が突き出した複数の長い銃身が、回転する。

 瞬間、軽快な音を立てて、無数の銃弾が放たれた。 

 ギュシュィイイインン。まるで散水しているかのような、けれどれっきとした、銃の発砲音。


 あれだけデカい銃を抱えているのに、とらの狙いは正確だった。

 集会所に集った村人たちを、水平に容赦なく撃っていく。棒立ちする十三だけを、キレイに避けて。


「うわあああッ!」「ぎゃああーーッ!」「逃げてッ! 走ってーッ!」

 ここでようやく悲鳴があがったが、それもわずかの間のことだった。


 仕置銃に撃たれた住人たちは、被弾箇所を反射的に抑えたが、次の瞬間には「うッ……」と呻いて目を見開くと、その場に倒れていった。


 急所を撃たれたワケでもないのに、小口径一発食らったにしては、違和感のある倒れ方。例の、ショック状態を起こして気絶したのだろう。現に、撃たれたにも関わらず、彼らの身体や衣服には銃弾の痕跡は一切なかった。


 これこそが、仕置銃の威力。証拠も残さない、現代的にいえば、コスパのいい武器だ。住民に対する武器として、仕置銃を選んだ”とら”の判断は正しかったといえる。


 射撃開始より、一分ジャスト。

 『……トタタ』と銃らしい余韻を残して、”破門”の発砲音はピタリと止んだ。


 ここで、運よく銃から逃げ延びた無事な住人たちが我に返り、四方八方へ逃げようとする。

「逃げろ! みんな逃げろ!」「警察! 誰か! 駐在さん呼んで!」


 だが、寺の主だった出入り口である山門は、トラックで塞がれている。逃げようとしても、どこへ逃げればいいのかとっさに判断がつかないのだろう。立ち止まり、逡巡する村人が多かった。


 すかさず、十三は動いた。


 ”破門”を撃ち尽くした”とら”の仕置銃には、ダウンタイムが必要だという。”とら”の見込みでは、およそ十分。この間は、初期状態であるハンドガン形態でも、発砲できないという。


 だから、もう一丁の銃を持つ十三が、やるしかない。


 まず、その場に伏せ、スマホを操作しようとしていた女の背中を、十三は撃つ。

 女は、「うっ!」と一瞬だけ叫んだが、即座に気を失って倒れた。


「ごめんよ」


 形ばかりの謝罪をした十三は、気絶した女の手から転がったスマホを回収する。

 それから、大きな声で元気よく言った。


「はーいみなさーん、落ち着いてー。落ち着いてくださーい。近くに転がってるお友達、よォく見てねー。息してるでしょー? まだ殺してないからねーちゃんと見てねー」


 怯える住民たちの元に、今後は”とら”が、トラックから引きずり出した荷物を放り出した。


 社用車に積んでいたズタ袋だ。そこから顔を出しているのは、”とら”が差し入れとして用意した、村の駐在警官だった。


「ちゅ、駐在さん……!」

 間近でへたり込んでいた主婦が、凍りついた顔で十三を見上げた。


「はーい、みなさんよォくご存知のとおり駐在さんでーす。見てのとおり、気を失って倒れてまーす。みなさんこんな風になりたくなかったら、スマホをこの場に置いて、速やかにそこの蔵に入ってください。押さない、走らない、騒がないでくださいねー。騒いだ途端、撃ち殺しますからねー」


 言って、十三は寺の境内にある蔵を顎で示した。


 それを聞いた住民たちの何人かは、半ば放心状態で、蔵に向かっていく。

 あのミニガンは相当インパクトがあったらしい。住民たちは完全に、抵抗する意思を失っていて、十三たちの強引な命令にも素直に従った。

 スマホをボトボトと手から滑り落とし、蔵のなかに入っていく。


 その背中に、十三は声をかけ続けた。


「はーい、よろしーい。無駄な抵抗はしないでくださーい。隠れてスマホを使ったら、すぐさま撃ち殺しまーす。蔵には爆弾が仕掛けてありましてぇ、警察や助けが来た途端に爆発させまーす。助けを呼ぼうなんて思わないでくださーい。女も子供も容赦しませーん。以上でーす」

 もちろん、嘘である。隣に立つ”とら”が、「オマエ……ハッタリの天才だな……」と呟いたが、十三は平然とした顔で聞き流した。


 あらかた住人が蔵のなかに入ったところで、外から閂をかけた。これで中から脱出は不可能だ。もっともいまの住人たちに、そんな元気はないかもしれないが。


 よし、と十三は胸をなでおろす。これで条件はクリアだ。十三は腰のベルトに仕置銃を差そうとしたーーそのとき。


 ”とら”の後方から、襲いかかる猛者がいた。


「りゃああッ!」

「!」

 ”とら”は仕置銃の銃身で、とっさに凶刃を防いだ。


 襲いかかってきたのは、組合長だった。


 ミニガンからも逃れ、うまく隠れてチャンスを伺っていたのだろう。茂みから飛び出してきた組合長は、興奮した状態で、ナタを振りかぶって襲いかかってくる。


「こ、これ以上! む、村に、手出しはさせねぇぞ!」

「とらさん……ッ!」

「まァ任せなさい……」

 ”とら”はあくまでも冷静だったが、対する組合長は興奮していた。


 目が血走り、ナタを振って威嚇しながら距離を詰めてくる。

 昨日はカバーがかかっていた新品のナタの刃は、ちゃんと剥き出しになっている。長さ、およそ二十センチ。薄刃だが、人の肉を裂くには充分だ。明確な殺意をもって、組合長は”とら”を狙っている。もちろん素人の動きだが、それでも刃物を振り回していれば危険であることに違いない。


 対する”とら”はーー。


 蔵の壁にかかっていた、古びた鍬を掴んだ。

 鍬を”とら”が持ち上げた、途端ーーすき刃がすっぽ抜けてその場に落ちた。


「あッ」

 十三は声を挙げた。

 古すぎて、金具が緩んでいたのだろう。刃がなければ、ナタの刃を受けることは不可能だ。


「とっ、ととととらさん!」

「慌てるな。落ち着け……」

 しかし、”とら”はここにあっても冷静だった。

 一メートルほどの棒を両手で持つと、組合長に対し正眼に構えた。


「俺にはむしろこれでいいんだ。重心が定まる……」

 ”とら”が言う間にも、組合長がナタを振りかぶってきた。


「うぉおりゃああああッ!!」


 対する”とら”は、言葉もなくその場で一歩踏み込むとーー貧相な木の長柄で、正確に組合長の手の甲を打ち据えた。


 ばしん、と爽快な音がする。


「ぎっ」

 組合長が、痛みに呻いた。


 その間にも、”とら”の攻撃は、更に続いた。


 流れるような動きで、長柄を一度持ち替えて、自分の身体の方にすっと引くと、今後は組合長の鳩尾を、鋭く突いた。

「ぐ、」


 組合長が数歩、後ろにのけぞる。急所を深く突かれ、手にしていたナタが落ち、ヨタヨタと足元がふらついていた。


 さらに、”とら”の連撃。


 ”とら”は長柄を両手に収めると、軽く手のひらのなかでバトンのように回転させて持ち直す。


 そこから更に、組合長の肩、ふくらはぎ、側頭部と立て続けに撃っていく。

 流れるような動きだった。組合長は防戦一方になっていたが、とても”とら”の動きにはついていけず、打たれるがままになっていた。


 全身を打ち付けられた組合長は、なすすべなく倒れた。

 まだ意識はあるようだ。かなり痛そうではあるが、「う……」とうめき声が聞こえる。


「すッげ……」

 十三は心の底から感心した。


 ”とら”の棒術は、目を奪われるほど鮮やかだった。朽ちている木の棒一本で、大の男をあっという間に無力化してみせた。さすが、暴力だけは得意だと自称するだけはある。


「あんまり感心するな。照れるだろ……。それより、こいつを撃ってくれ」

「あっ、ハイ。すみません」

 十三は慌てて取り出した仕置銃で組合長の額を撃った。組合長はびくりと身を震わせて、気絶したきり、動かなくなった。おそらく、”とら”に貧相な棒一本で制圧されたことも忘れてしまうだろう。


 これで組合長は再起不能だ。住民のほとんどは、蔵に閉じ込めている。

 残るはーー。


「六王子は……?」

 言っている間に、派手な袈裟が十三の視界を掠めた。


 軒下に隠れ、辛くもミニガンの掃射から逃れていた六王子は、本堂の方に走っていった。


「あああっ! 待てぇこのハゲーー!」

 十三の声に耳を貸すはずもなく、六王子は全速力で本堂へと逃げ込んだ。

 十三は”とら”と共にその背を追う。


 先に本堂にたどり着いた六王子は鍵をかけて立てこもろうとしていたが、慌てているせいか酒を呑みすぎたせいか、鍵をかけられずにモタついている。


 その間に、”とら”が扉ごと六王子を蹴り飛ばした。


「ぉワアっ!」

 六王子の身体が扉ごと吹き飛ばされる。


 尻もちを着いた六王子は鍵を探そうとしているが、先に鍵を見つけていた十三はそれを上から踏みつけて回収した。

「詰んだね、坊さん」

「ぐ、く、ううう……」


 進退窮まった、六王子がとった選択はーー。

 住職に残された最後の武器、説法だった。


「おまーーお前ら、こんなことをしてーータ、タダで、済むとーーば、罰あたりどもがーー仏の罰がくだるぞ……!」

「はぁ……。これは……いわゆるところの、”おまいう”ってヤツだな……シノ?」

「全くッスねー、とらさん。釈迦に説法反社に説教。馬の耳に念仏ならぬ、反社の耳に念仏スわ」


 呆れ果てた十三と”とら”は、互いの視線を交わすと、

 仕置銃の銃口を、二人揃って六王子に突きつけた。


 ”とら”は宣言する。

「坊さん。アンタは、住人たちとはここでサヨナラだ……。本部(VIPルーム)まで、来てもらうぜ」


「ハーー……ハハハハッ! アハハハッ! おっかしー!」


 突然。

 六王子は、ケラケラと笑いだした。


 ハゲ頭に珠のような汗を浮かべ、腹を抱えて笑っている。

「なんだこいつキんモ」

 十三は顔を歪めた。


 もはや、六王子に抵抗する術は何一つない。追い込まれた坊主は、往生際の悪さから笑っている。


 そう、思ったのも、束の間。


 六王子が、何事かを口ずさんでいる。

「滅ーー罪ーー増ーー現ーー界……」

 経文。

 六王子が唱えているのは、聞き覚えのない経文だった。


 住職らしい、唸るような威厳ある声の合間に、六王子は柏手を打っている。


「ーー柏手?」

 妙だ、と十三は違和感を覚えた。


 作法がめちゃくちゃだ。仏教と神道が混ざっている。”とら”さえも、眉をひそめていた。


「なんだ……? 坊さん、イカれたのか?」

「いや……これは……」

 十三にはーーこの違和感に心当たりがあった。


 オカルト界隈の噂話で、いつか聞いたことがあった。

 経文を逆さに読むと霊を呼ぶーー裏拍手は霊を呼ぶーーと。


 ーーそして、この状況。

 嫌な予感に、十三は声をあげた。


「まさかーー逆経文ッ!?」

「ハハハ、ただの逆経文ではないっ! オカルトに精通したこの俺が独自に研究した、俺だけの呪転経文(じゅてんきょうもん)よぉ!」


 六王子が勝ち誇った声をあげる。

 窮鼠は猫を噛む。追い込まれた坊主は、数珠を振りかざして口角泡を飛ばした。


「楽叉会の黒澤会長……あの女夜叉に捕まるぐらいなら、多少の損失もやむなしッ!」


 高らかに言った六王子は、仕上げとばかりに二拍を打った。


「さぁさ、目覚めませい”件”たちぃ! このチンピラどもを、ブチ殺してしまえい!」

 本堂に、六王子の声がこだました、その後ーー。


 無音。

 無音。

 無音。


「ん……?」


 沈黙に耐えきれなくなった十三が、キョロキョロと周囲を見回した頃ーー手元のハングドマンが、告げてきた。


巫蝕(ふしょく)、検知。現地点、半径数十メートル。かくされました。蝕値(しょくち)検出、侵度(しんど)レベル1』


 それとほぼ同時に。


 くすくすくすくす。きゃはきゃはきゃは。


 いないはずの、たくさんの子供の笑い声が、聞こえてきた。


「……嘘だろ……」

 十三は、呻く。


 六王子の後ろ。本堂に控えていたーー”件”。


 たくさんの人形たちが、カタカタ動きながら、笑い声をあげていた。


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