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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
一章

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1章7話・1

 それでも。


 東雲十三の心は、まだ、あった。


 十三はいつの間にか、見知らぬ場所の、道ならぬ下り坂を歩いていた。


 そこが、果たしてどこなのか。十三には全く見当がつかなかった。


 全く、見覚えがない空間が、十三の行く先に、延々と続いていた。


 そこは、例えるなら洞窟と呼べるような、左右を岸壁に包まれた閉塞感のある下り坂だった。


 分かれ道がない一方通行の道だ。

 果たしてどこまで坂が続いているのか、全く先が見通せない。

 道は薄暗く、電気もなければ道標もなかった。


 東雲十三は今、なぜか、そこに在った。


 そこにいて、下り坂を、ひたすら歩いている。

 自分の意思とは、まるで関係なく。


 しかし、十三は一人ではなかった。


 十三の前に、同じように歩く人々の列があった。みな一様に俯きがちで、言葉もなく、ひたすらに坂道を下り続けている。


 人々の姿に、十三は見覚えがあった。


 オークション会場にいた、ハイブランドを纏ったあの客たちだった。


 全員、”件”によって燃えて、死んだはずの人間たち。


 十三が裏切った、課長の背中も、そのなかにあった。


 ──そうか。と十三は得心する。


 これは、死者の列だ。


 そこにいるということはつまり、自分もまた、死んだのだ。


「ふ……、ふふ……はは……」


 十三の足は、自らの意思とは無関係に、歩き続けている。


 歩くことから、抗えない。十三の身体は勝手に、冥府への葬列を歩み続けていた。


「死んだ……オレ、マジで死んだんだ……」


 呟く十三の頬を、透明な涙が流れていた。


 本当に、自分は死んだ。スーツのまま、社畜のまま、人生で何もなさぬまま死んでしまった。

 なんて惨めなんだろう。


 歩きながら、十三は我もなく泣き叫んでいた。


「なぁッ……なんでだよっ! オレ、頑張ったんだぞ!? 人生頑張った! もっと報いがあってもいいだろ! なぁ!?」


 わめきながらも、十三の歩みは止まらない。


 勝手に歩いていく。坂の先へ。──完全な死の世界へと。 


「生きたい……! まだ生きたいんだ! 死にたくない! まだかわいい女の子と付き合ってない! じゅうぶんセックスしてない! カネ稼ぎたい! 奨学金……! 返してない! 母さんに怒られる!」


『──いいえ、オマエは完全には死んでいません』


 そのとき。


 誰かの声が、十三の耳に確かに届いた。


 奇妙な抑揚のついた声。──機械音声。翻訳機能をかけた、という感じの。


「──……ハングドマン!? アンタ、なのか?」


 十三は声が聞こえてくる方向を探った。


 その声は、十三のスーツのポケットのなかから聞こえてきた。


 十三がポケットをまさぐる。

 スマホのセンサーが、光っている。

 内部のセンサーが、十三の声に反応しているようだった。


 十三は急いでスマホ画面を操作する。

 見覚えのない「刑死」というアプリが、十三のスマホにいつの間にかインストールされていた。


『愚者よ。アナタに機会をくれてやりましょう。それは最後のチャンスです』

『ああ! オマエはわたしを感動させました』

『弱者の克己は心を打つことがあります』

『その一幕は、駄作を名作に変える力がある』

『オマエの惨めな敗者的人生を、勝者へと変えることができます』


「──なんだ!? なにを言ってるんだ!」


 十三は叫び問う。


 だが、機械音声が返答を返してくれることはなかった。

 意思の疎通がうまくいかない。

 最近、似たようなことがあった。

 誰だっけ、いつだっけ。考えても、十三には思い出せない。


 だから十三は、いま一番聞きたいことを、聞くことにした。


「ハングドマン! オレは……、オレはまだ、生き残れるのか!? まだチャンスはあるってことか?!」


『さぁ、振り向きなさい。新しい人生があなたを待っています』


 そのAIの言葉は、十三の耳にはっきりと聞こえた。


「振り向く? 後ろを振り向けばいいのか?! それだけでいいのか!?」


 AI音声が答える。

『そう。それだけで──おまえの魂は転じるでしょう。まっ逆サマに。──選択は?』


「生きたい! ──オレは、生きてやる! 生きて奨学金のない、勝ち組になってやる!──黒澤社長の部下として、生きてやるッ!!」


「ならば、さァ、語り伝え答えなさい。オマエの後ろの正面に誰がいますか?」


 ──後ろの、


 ──正面。


 十三は、振り向いた。


 瞬間、十三の足に何かが絡まった。


 足首に巻きついたロープ状のものは、糸のように細かった。まるで、蜘蛛の糸のように。


「うわぁああああっ!」


 糸に足に絡みとられたまま、十三の身体は持ち上げられ、宙吊りになった。


 宙吊りになった身体が、その慣性のまま揺らめいて、回転する。


 十三は宙吊りになったまま、背後を振り向いた。


 ──そこにあったのは。


 AI音声が、嗤っている。


 それは嘲笑だった。ドッキリにかかった愚か者を嘲笑うかのような、嘲り笑う声だった。


 ハングドマンは、言う。


『一緒に、逝きようぜ』

10月8日にエピローグとなります。

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