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バッドランズ・グレイアウト  作者: 梅屋凹州
一章・幕間

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10/25

1・5話 社畜机 前編

なんかランクイン記念ということで、2話につながる前の短編を書きました。

後編は今週中には投稿できるよう頑張ります。

また、1話と2話の間にもう一つ短編がある予定です。

こちらも楽しんでいただけると幸いです。

 零細企業グレイブヤードには、朝礼や終礼などという習慣はない。


 そもそも、普通の会社ではないのだ。社員たちはろくに挨拶すら交わすことなく仕事を始め、定時になると勝手に帰っていく。そういえば、タイムカードや出勤簿などもろくに用意していない。


 社長である黒澤棺(くろさわひつぎ)も、口うるさく言うことなくそれで済ませてきた。

 だが、今日からは事情が違った。


「明日から、新人が入る」


 終礼間際、黒澤棺は、オフィスにいる社員三名にそう告げた。


「新人」

 と、唯一の女社員のチカが目を丸くして、隣の席の”とら”に聞いている。


「それってもしかして、この間社長ととらちゃんが六本木で会ったってコ? どんなコだったの?」

「そうですねぇ……」

 ”とら”はひとしきり首をかしげると、やがて特有の地を這うような重低音で、

「伝説の男ですね……」

 と口にしたことで、社内はカオスに陥った。


「伝説!?」「伝説……?」向かい側の席にいるミケまでもが、特徴的な三白眼を大きくして珍しく食いついた。


「それ、にーさんよりケンカ強いとか、そういう意味スか?」

「ケンカは……どうかな……。でもガッツはあると思うぞ……」

「あらら。ミケちゃん負けてられないよー」

「いいッスよそんなん。対抗意識とかめんどくせーっすわ」

「あはは、そりゃそうだ」

 ミケにそっけなくあしらわれても、チカは楽しそうに笑って言う。


「でもー伝説の男ってんなら、歓迎しなきゃね。歓迎会的なのやりません? 社長」

「歓迎会……。……みんながやりたいってなら、いいぞ」

「え〜〜そういうのやるんスか〜〜? めんど〜〜」

 ミケは思いきり顔をしかめている。いわゆる今どきの若者風のミケは、こういった社内行事には否定的だった。


 だが、反対に最年長のチカは乗り気で、ミケに絡んでいる。

「ミケちゃん幹事お願いね〜」

「フツーこういうとき言い出しっぺがやりません? チカさんやってくださいよ」

「あたしカタギの歓迎会わかんないもん。それにミケちゃん美味しいお店知ってるでしょー?」

 言って、チカは楽しそうにミケに囁いた。

「……経費でごちそう食べられるいい機会だよ。それに今月の支払い、苦しいんでしょ? 幹事やれば、一時的に現金手に入るよ」

「社長。オレ幹事やりますわ」


 すかさず立候補したミケは、早速レストランの予約サイトにアクセスしてる。いくつか候補をあげると、棺にPC画面を見せて尋ねた。


「社長、こんな感じの店どうです? 食べられないものとかありましたっけ?」

「油もの。口元が汚れるもの。臭いが強いや……」

 言いかけて、棺は後ろを振り返った。

 こういうとき決まって、姑のようにグチグチと「好き嫌いが多い」と言うデカブツが、いつの間にか姿を消しているのである。


「あれ? チカ、とらは?」

「なんか下いったよ?」

「おまたせしました……」

 噂をすれば、”とら”がオフィスに戻ってきた。


 古ぼけた”事務机”を抱えて。

「とらちゃん、なにそれ」

「新人用の席、足りねぇと思って……。倉庫から机、持ってきました……」


 ”とら”が持ってきたのは、一般的な事務机だ。あちこち色褪せたり古ぼけたりしてはいるが、机としては使える。ーーただし。

「お前これ、”(くだん)”じゃねぇか……」

「”件”? こんなモンあったんスか?」

 予約サイトから目を離したミケが驚いて言う。


 ”件”ーー一般的に呪いの品と呼ばれる曰く付きのアイテム。棺の経営する会社・グレイブヤードの取り扱う商品だ。


 棺は説明をする。

「ミケも知らなかったか……。これ、ヤードの立ち上げ当初に、品数揃えようと思ってとりあえず仕入れたヤツでな……。とはいえハングドマンの査定でも良い値がつかなくて、キャビンにも入らねぇから、売れ残って倉庫にしまってたんだ」

「へえー。初耳ッス」

「とらお前……なんで商品持ってくんだよ。新人には新品の机用意するからいいんだよ」

「あーちょっと社長、そのことなんだけど」

 ここで事務用品・備品の管理をしているチカが、口を挟んだ。


「最近、ウチで使ってる事務用品の卸し、使えないって話、してましたっけ?」

「いや、初耳」

「先月起こった物流倉庫の火事で、全部の出荷ストップしてるんです。その、伝説の新人クンが来る日までは、間に合わないんじゃないかな」

「そうか、じゃあーー」

 棺はちらりと”とら”を見た。


 ”とら”はドヤ顔で机をぺしぺしと叩くと、

「ね、言ったでしょ……」

 と、言ってのけた。

 ーー腹立つ。


 こうして、ヤードのオフィス内に、”件”の事務机が置かれることになった。

 しかし、そこは”件”。何が起きないはずもなくーー。


 早速、翌夜。

 騒ぎは、起こるべくして起こったのだった。


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