1・5話 社畜机 前編
なんかランクイン記念ということで、2話につながる前の短編を書きました。
後編は今週中には投稿できるよう頑張ります。
また、1話と2話の間にもう一つ短編がある予定です。
こちらも楽しんでいただけると幸いです。
零細企業グレイブヤードには、朝礼や終礼などという習慣はない。
そもそも、普通の会社ではないのだ。社員たちはろくに挨拶すら交わすことなく仕事を始め、定時になると勝手に帰っていく。そういえば、タイムカードや出勤簿などもろくに用意していない。
社長である黒澤棺も、口うるさく言うことなくそれで済ませてきた。
だが、今日からは事情が違った。
「明日から、新人が入る」
終礼間際、黒澤棺は、オフィスにいる社員三名にそう告げた。
「新人」
と、唯一の女社員のチカが目を丸くして、隣の席の”とら”に聞いている。
「それってもしかして、この間社長ととらちゃんが六本木で会ったってコ? どんなコだったの?」
「そうですねぇ……」
”とら”はひとしきり首をかしげると、やがて特有の地を這うような重低音で、
「伝説の男ですね……」
と口にしたことで、社内はカオスに陥った。
「伝説!?」「伝説……?」向かい側の席にいるミケまでもが、特徴的な三白眼を大きくして珍しく食いついた。
「それ、にーさんよりケンカ強いとか、そういう意味スか?」
「ケンカは……どうかな……。でもガッツはあると思うぞ……」
「あらら。ミケちゃん負けてられないよー」
「いいッスよそんなん。対抗意識とかめんどくせーっすわ」
「あはは、そりゃそうだ」
ミケにそっけなくあしらわれても、チカは楽しそうに笑って言う。
「でもー伝説の男ってんなら、歓迎しなきゃね。歓迎会的なのやりません? 社長」
「歓迎会……。……みんながやりたいってなら、いいぞ」
「え〜〜そういうのやるんスか〜〜? めんど〜〜」
ミケは思いきり顔をしかめている。いわゆる今どきの若者風のミケは、こういった社内行事には否定的だった。
だが、反対に最年長のチカは乗り気で、ミケに絡んでいる。
「ミケちゃん幹事お願いね〜」
「フツーこういうとき言い出しっぺがやりません? チカさんやってくださいよ」
「あたしカタギの歓迎会わかんないもん。それにミケちゃん美味しいお店知ってるでしょー?」
言って、チカは楽しそうにミケに囁いた。
「……経費でごちそう食べられるいい機会だよ。それに今月の支払い、苦しいんでしょ? 幹事やれば、一時的に現金手に入るよ」
「社長。オレ幹事やりますわ」
すかさず立候補したミケは、早速レストランの予約サイトにアクセスしてる。いくつか候補をあげると、棺にPC画面を見せて尋ねた。
「社長、こんな感じの店どうです? 食べられないものとかありましたっけ?」
「油もの。口元が汚れるもの。臭いが強いや……」
言いかけて、棺は後ろを振り返った。
こういうとき決まって、姑のようにグチグチと「好き嫌いが多い」と言うデカブツが、いつの間にか姿を消しているのである。
「あれ? チカ、とらは?」
「なんか下いったよ?」
「おまたせしました……」
噂をすれば、”とら”がオフィスに戻ってきた。
古ぼけた”事務机”を抱えて。
「とらちゃん、なにそれ」
「新人用の席、足りねぇと思って……。倉庫から机、持ってきました……」
”とら”が持ってきたのは、一般的な事務机だ。あちこち色褪せたり古ぼけたりしてはいるが、机としては使える。ーーただし。
「お前これ、”件”じゃねぇか……」
「”件”? こんなモンあったんスか?」
予約サイトから目を離したミケが驚いて言う。
”件”ーー一般的に呪いの品と呼ばれる曰く付きのアイテム。棺の経営する会社・グレイブヤードの取り扱う商品だ。
棺は説明をする。
「ミケも知らなかったか……。これ、ヤードの立ち上げ当初に、品数揃えようと思ってとりあえず仕入れたヤツでな……。とはいえハングドマンの査定でも良い値がつかなくて、キャビンにも入らねぇから、売れ残って倉庫にしまってたんだ」
「へえー。初耳ッス」
「とらお前……なんで商品持ってくんだよ。新人には新品の机用意するからいいんだよ」
「あーちょっと社長、そのことなんだけど」
ここで事務用品・備品の管理をしているチカが、口を挟んだ。
「最近、ウチで使ってる事務用品の卸し、使えないって話、してましたっけ?」
「いや、初耳」
「先月起こった物流倉庫の火事で、全部の出荷ストップしてるんです。その、伝説の新人クンが来る日までは、間に合わないんじゃないかな」
「そうか、じゃあーー」
棺はちらりと”とら”を見た。
”とら”はドヤ顔で机をぺしぺしと叩くと、
「ね、言ったでしょ……」
と、言ってのけた。
ーー腹立つ。
こうして、ヤードのオフィス内に、”件”の事務机が置かれることになった。
しかし、そこは”件”。何が起きないはずもなくーー。
早速、翌夜。
騒ぎは、起こるべくして起こったのだった。




