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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

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さよならバカンスの記憶1

 今日は僕らの夏休み最終日。海上列車ブル・シエル号の021便に乗って帰宅する手はずである。予定通り、荷物の支度を終えて、駅へ向かうと、別れを惜しむ人々でいっぱいだった。中は、家族などの親しい人を送り出す人や、旅人の新たな出発を祝う声など、様々。受付を済ませた僕らも列車を待つ間、観光客や帰省客たちと同じ列に並ぶのだった。


 列で待機していると、夏の間に仲良くなったカレンとリュートに、料理人と世話係として雇っていた男性陣、さらには……人見知りな庭師のマダムまで、わざわざ駆けつけてくれた。詰めかけた一同をみて僕はこの夏とのお別れがいよいよ迫っているのを感じた。


(思い出しても今年は楽しい夏だったなあ……)


 印象的な思い出がいくつもあった。当日の日記を脳内で回想する。


 まずは、紺碧虫の森でアイゾメカブト取りに励んだ日のこと。

 早朝、森にでかけた僕らは、前日の雨のせいでできたぬかるみに足を取られ、なかなか目印の場所に到達できなかった。やっとたどり着いた頃にはすでに太陽が登っていて、蜜を仕掛けた樹木には目当ての昆虫が一匹もいなかった。

 カレンはこれ幸いと町に戻ろうと提案した。

 ところが、リュートがしたり顔でどこかへと案内を始めた。

 そこで僕らは、森の奥深いところに現れた、秘密の庭園を目にする。

 リュートが足繁く通いながら、根気よく野花の手入れをした一画には、花々が咲き誇っていた。昨夜の雨のせいか、昆虫たちもここに避難し、思い思いに花の蜜を楽しんでいるようだった。

 岩陰や木の裏を捜索すると、居た。立派な兜のアイゾメカブトがお互いの陣地をかけて争っていた。

 その闘争に胸を熱くした僕らは、切り株の上に選んだカブトを乗せて、競わせた。戦い合う昆虫たちの激闘を間近で目撃した僕らは当初の予定を反故にし、アイゾメカブトを獲って帰るのをやめたのだった。


 その帰り道、なぜかカレンが蝶々に追いかけ回された。

 なにかリボンが彼らの琴線に触れたか同族意識を持たれたのか、はたまた逆に天敵と勘違いされて憤ったのか、無数の蝶が彼女に群がって追いかけっこになった。


「もーなんなのよー!」

「おー、すごい!!」


 アイゾメカブトを捕獲するはずだった網の中は網をカレンが振り回したおかげで、蝶が一網打尽だった。

 僕らは拍手を交えて彼女を迎えた。生還した彼女の頭には、天使のような羽を持つラッパスイチョウの白い鱗粉がふりかかっていた。粉まみれと相違なかった。


 すべての蝶をキャッチ・アンド・リリースで放すと、鱗粉を振りまいてかれらは花畑へと飛んでいった。僕らも芝生に寝転ぶと花粉が鼻について、僕はリュカ様に笑われてしまった。鼻先をちょんとつつく、リュカ様。


「ついてるぞ」


 警戒して鼻を守るが、そこをこすったのは彼の指。思わずキスでもされるのかと動揺した僕だったが、そもそもだれが花粉を食べるのかと、自分でも呆れてしまった。

 こうして恥ずかしい勘違いに一人悶絶するのだった。

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