第205話 ゼノン12
ゼノンは、意を決して国王の私室を訪ねた。
「父上、お休みの所申し訳ありませんが、内々の話がありまして」
「あぁ、構わない。久しぶりだな、お前が部屋を訪ねてくるのは」
寝室に繋がる居間には本がずらりと並んだ本棚があり、本が入っていない棚には小さな額が立てられていた。その額に入っていた絵を見て、ゼノンは「あ…」と声をあげた。その絵は、ゼノンが幼い頃に描いた父親の似顔絵だった。ゼノンは額を手にとった。
「父上、これは…」
「あ〜恥ずかしいな…」
国王は、顔を赤らめ「しまったな」と云う風に頭をぼりぼりかいた。
ゼノンは他にも、つるりとした石がいくつか入った皿を見つけた。
「あ、それはメラニアが庭から拾って来た『宝石』、こっちの押し花はベアトリーチェがディアナと一緒に庭から摘んできてくれた物で…」
10年以上も前の子供達からのプレゼントを大切に飾っている事に驚いた。
「こんなものを…」
「でも、大切な宝物なんだ…」
国王は顔を赤らめたまま、ぷいっとそっぽを向いた。
ゼノンは、いつだったかベアトリーチェが言った「お父様は愛情が希薄なのではなく、表現の仕方を知らないだけなの」と言った事を思い出した。
「で、内々の話とは何なのだ?」
これ以上恥ずかしい思いをさせられるのはかなわんとばかりに、国王が口火を切った。
「ディアナとの婚約を解消しようと思います」
「…!」
「どちらもやらなければならない事が多すぎて、関係を進展させられないのですよ」
「いや、でも落ち着いてからでも…」
「いつまでかかるか判らないのに、長期間に渡って婚約と云う形で拘束するのは忍びないと思いまして」
「ディアナとは話したのか?」
「はい。双方合意の上です」
「そ、そうなのか…」
国王は俯いた。
「父上、ディアナはとても正直です」
「ん?」
「真っ直ぐに私を見て『私は、陛下を愛しています』と。父上も、気持ちを素直に表してもいいのでは?」
「ゼノン!!」
「ディアナを側妃に迎えれば『息子から婚約者を奪った国王』と呼ばれ、私やディアナにも傷をつけることになるとお考えなのでしょう?」
「そこまで解っていたのか…」
「いったい、いつから?」
「いつからと尋ねられたら、約10年前としか言いようがないな…」
「え?」
「私は一度、ミレーネとの離婚を考えた事があったのだ」
ベアトリーチェの廃嫡問題の時のミレーネの言葉に傷つき、自分を精神的に追い詰め、自殺しようとしたのだと告白した。
「そんな!確かにあの時、母上はそう云う仰言り方をなさいましたが」
「死にかけた私を見つけて、助けてくれたのがディアナだった…」
以来、ディアナが国王の支えになっていたと言う事に、またゼノンは驚いた。
「代わりに、あの娘があの娘でいられる様に支えてやろうと思った。あの破天荒でやらかし体質のあの娘を護ってやろうと思った。幸いにして、そうできるだけの地位が私にはあったから…」
ミレーネ王妃を女性として愛せなくなり、職業としての『王妃』としか見れなくなった事が拍車をかけたかも知れないと国王は言う。
「いつしか、ディアナを愛してしまっていた」
「父上…」
「すまない、ゼノン。お前の婚約者なのに」
「それで、デビュタントの時に婚約発表をすることで、忘れようとなさったのですね?」
「あぁ、だが無理だった。自由になったあの娘は、それまで以上に手の掛かる娘になった」
「あはは!わかります、わかります」
二人で大爆笑した後、国王はゼノンを見つめ問いかけた。
「ディアナを保護する為に一方的に決めた婚約だったが、お前はディアナの事を愛していたか?」
「それなりには…。ですが、女性としてと云うよりも『妹』に近い感覚だったと思います。何しろ、色気が皆無でしたから」
「ぶほっ!」
ゼノンは、父親の手を取った。
「何か方法を考えましょう?私は、父上にもディアナにも幸せになってもらいたい」




