第176話 理想の息子
リンドバーグ領にある3つのダンジョン全てに、ホテルへの入り口を作り終えたディアナは、一度王都の屋敷に戻った。そして、ベアトリーチェと沙織の熟練度上げに丁度いいダンジョンとして、囚人の塔のマップをオクタヴィア邸に持って行き、沙織に手渡した。
「ミスリルスパイダーがちょっと厄介だけど、聖属性特化の沙織と光魔法が使えるベアトリーチェなら、難無く踏破出来ると思う」
「そうですね。スケルトンキングと戦いたいです」
「やっぱり、沙織って好戦的よね?」
「あはは!でも、二人ならスケルトンキングも簡単に倒せるよ」
そして、ディアナはアンデッドを倒す際に、回復・浄化・光・聖属性魔法で倒すとそれぞれの魔石が入手出来る事を明かした。
「その3種の魔石と聖属性の魔石をギルドに納品して欲しいの」
「貴重な魔石なんですね?」
「そうなの。用途は沢山あるのに、聖属性魔法を使える人が少ないから、不足してるのよね。浄化の魔石なんかあると、上下水道の設備が簡単に作れるんだ」
「あ、今の井戸生活から蛇口を捻れば水が出てくる生活になる?」
「そう云うこと」
「沙織!ちょっと頑張っちゃおうか?」
「もちろんです!」
ベアトリーチェと沙織は、「おう!」と雄叫びをあげ腕を掲げた。
そんなふたりの姿にケタケタ笑っていると大公妃が参加してきた。
「もうなんなのよ、あなた達は!」
「!?」
「いい年頃の女の子が揃いも揃ってダンジョン攻略の話ばっかり!同じ攻略するなら、恋でしょ恋!」
「い、いや〜その、なんですよ…」
3人共にすい〜っと目を泳がせた。
「ディアナ!!」
「は、はい?」
「一度聞こうと思っていたのだけど、何で陛下なの!?」
「へっ!?」
「へっ!?じゃないわよ!どうして、親子程も年の離れたアンドレア様が好きなの?婚約者の父親でしょうに!」
「げほっげほっ…」
紅茶がむせた。しばらく咳払いをしていたが、落ち着くまで大公妃ソフィアはディアナからの答えを待っていた。
「刷り込みでしょうね…」
「刷り込みって、鳥なんかに見られるアレのことよね?」
「そうですね…」
5歳の頃から国王陛下の執務の手伝いをしていたディアナだったが、中身が30歳以上でも体は5歳なのだから、体力的な面でついていけずに会議中にうとうとしてしまう事が多々あった。
そんな時、いつも国王が膝に乗せて抱きしめてくれていたり、客室のベッドまで運んでくれていたりした。
思うように体が動かず苛立ったりした時や、自棄を起こして暴走しそうになった時も、あやしたり止めたりしてくれたのは、いつも国王だった。
当初は、第一王女並びに第二王女を失った国王にとって、自分はその代替え品だと承知の上だった。だが、いつの間にか「この人のそばで眠ってもいいんだ」が「この人のそばが一番安心できる」に変わり、それが17歳になった今でも続いている。
「いつしか、『この人じゃなきゃダメなんだ』と云う風になってしまいました」
「家族じゃだめだったのかしら?」
「私が家に帰るのは、ひと月に一度あるかどうかでしたから…」
そもそも、ディアナの記憶には幼い頃の家族との思い出なんてものは、ほぼ存在しない。それ位に、王城に捕われていたのだ。
「ゼノンはどうなの?」
「二人きりで話した事なんて、婚約破棄の話をした数ヶ月前に一度きりです」
「!?」
「あはは。あの二人は親子だけあってよく似てる。思慮深いのに不器用で、優柔不断に見えるところとか、もうそっくり!」
「それなら、ゼノンでも良くないかしら?」
「だから、包容力の差でしょうね。安心感が違い過ぎる…それに、私には34年分の前世の記憶と経験値があります。そんな私にとって、ゼノン殿下は『理想の息子』だと感じてしまうのです」
それを聞いた3人は、微妙に納得し始めていた。
「そんなに陛下のことを好きなのね…」
「ええ、隙あらば押し倒して襲ってしまおうかと思う位には」
「ぶふっ!」
「ちょ、想像すると笑える」
ベアトリーチェの言葉に、それぞれが頭にディアナに襲われる国王陛下を思い浮かべ笑い出した。
「た、たしかに…」




