第105話 奴隷商エリザベート商会
「クリスタルラビット2体」
ベアトリーチェが不満そうに言った。野営の見張り中に狩った魔獣の数の事である。ディアナが見張りをしている間に3体のシルバーウルフが現れたが、他の冒険者に討伐を譲った。
朝食はまた作り置きのサンドイッチとコーヒーをインベントリから出して食べ、馬車に揺られること3時間、やっと王都のノーブルに辿り着いた。御者と行商人二人に別れを告げ、銀貨3枚の通行税を払って門を潜った。
「また、銀貨3枚か〜税がかからないルーキウスって天国だわ」
ルーキウス王国では、入国税も通行税も徴収していない。おまけに、物価も安く徴税率も1割と低い。だから、他国からやってくる行商人も多い。移動の交通費を使っても、ルーキウス王国内で安く入手した商品を、他国で売れば儲けは充分に出るらしい。
二人は、グラディウス商会のローザリア支部を目指した。
ノーブルは王都だけあって、街は綺麗に整備され、露店も多く立ち並び活気があった。だが、ふ…と路地裏を覗くと浮浪者らしき姿もちらほら見えた。
「もしかしたら、孤児院の類もあるかな…?」
ベアトリーチェが眉を顰めた。
グラディウス商会のドアを開き、受付嬢に「ディアナ・グラディウスです」と名乗り、支部長に会いたいと告げると、支部長室に案内された。
「ディアナ様、ベアトリーチェ様、お久しぶりです」
以前、王都支部の副支部長だったマルクス・ガブリエルとは5年振りの再会である。
「まあ、あのやんちゃだったお嬢様方がこんなに立派になられて…」
「やんちゃって…」
「木登りに失敗して二人して額から流血したり、王城の池で国王様が育てていた鯉を釣り上げたり…二人揃うと色々やらかしてくれるので、ハラハラしてましたよ」
ディアナとベアトリーチェは、その頃を思い出して苦笑いした。
「今も、たいして変わりないかも…」
ローザリア支部の小会議室とイオニア本部を繋いだあと、お茶を飲みながらローザリア迄やってきた理由を明かした。
「では、そのスルーエから連れ去られた人を助け出す為にわざわざ?」
「ええ、何か情報が入ってませんか?」
「いえ、何も。ですが、紹介したい方がおります」
「ん?」
「奴隷商人のエリザベート様です。あの方なら何らかの情報をお持ちかと…」
「奴隷商人…?」
「勘違いなさらないで下さい。あの方は奴隷解放の為に、奴隷商人になったのです」
「どういう事?」
ルーキウス王国に奴隷制度はないが、この世界には一般的に借金奴隷と犯罪奴隷の2種類の奴隷がいる。
犯罪奴隷はその名の通り、犯罪を犯したものが刑罰として鉱山労働やインフラ整備をさせられるもので、期間が決まっていて政府が管理している。
借金奴隷とは、借金を返せずに身売りした奴隷の事で、借金の原因は賭博だったり冒険者が依頼不達成の違約金を払えなかったりと理由は様々である。
問題があるのはこの借金奴隷の扱いだった。
「金貨20枚で買われたのだから金貨20枚分働けば解放される」なんて事は無く、死ぬまで無償で働かされるのがオチである。
それを目の当たりにした奴隷商の娘・エリザベートが親から事業を引き継いだ時にシステムを変えたのだと言う。
そのシステムとは、購入した奴隷をエリザベート商会の職員とし、その奴隷の得手不得手や能力・スキルに応じて最適な場所に貸し出すのだと言う。得られた賃金はエリザベート商会に支払われ、その1割は「自分を買い戻す為の返済金」として当てられ、あと1割を「仕事の斡旋料」として商会の取り分とした。残り8割は奴隷の持金となる。
「人材派遣会社みたいなものか…」
「解放時にひと財産築く者もおりますし、早い解放を望むのであれば返済金の率を上げればいいのです。衣食住はエリザベート商会の寮でサポートしております。これほど画期的な奴隷商は無いと思いますよ」
「商会長に会いたい」
「ご案内いたします」




