123 魔王様と三種の神器
「神様を召喚する方法っちゅーのがなぁ」
「え、神様呼び出すのか?」
本題に入ろうとした所で悪いが、早速俺は話の腰を折った。
神様に「会いに行く」事ばかり考えていたから、神様に「来てもらう」という考え方は無かったのだ。
「そら求める方が出向くのは礼儀かもしれんけどな、そもそも魔法で“自分が他所に行く”ってのは異世界や無うてもムズいんよ?」
魔者の中には空間移動できる奴とか居るらしいけどな。と付け足したアリクが腕を組んで語る。
「勇者かて“喚ばれた側”やろ?うちも空間移動出来るならいくらでも遠方の顧客増やし放題や」
できたら便利。とは前々から思っていたのだろう。
染み染み語るアリクには言い知れぬ説得力があった。
俺も身近にいるシノも、アリクの言う“空間移動できる魔物”なので、あまり気にしたことが無かったが、言われてみれば人間って魔物でも勇者でも「召喚」してるな。
あれって自分達が行けないから呼んでたのか。
「と言ってもウチは魔法使いでも研究者でもないんでな、魔法に詳しいわけや無い。今のは適当や。ウチが仕入れてないだけで、神様に会いに行く方の手段が無いとは言い切れんしな」
俺が真に受けていると知ってか知らずか、アリクはあっさり手のひらを返した。
適当な言葉に真面目に納得してしまった。
これが商人のなせる話術か。
そっちは入荷待ちって事で。と笑うアリク。
仕入れたら十中八九買うであろう顧客が目の前にいる以上、商魂逞しいアリクなら近い将来に有益な情報を仕込んできそうだ。
「召喚魔法と言っても、魔法技術云々と言うより伝承に近いモンでな。呪文だ魔法陣だの話やない。ほら、よくあるやろ?あの石は封印の祠やから近付くなーとか、かつての賢者の遺産をすべて集めると願いが叶うーとか」
この世界の言い伝えには明るくないが、漫画とかで見そうな話になんとなく納得して頷く。
「神様もな…どちらかと言うと後者寄りの話か。“神器を三つ集めると降臨する”っちゅー話や」
そう言いながらアリクはピン、と指を三本立ててみせる。
「神器っていうと、剣と鏡と勾玉みたいな感じか?」
「冷蔵庫と洗濯機、それに白黒テレビかも」
俺がここぞとばかりに日本式三種の神器を口にしたらユウも乗ってきた。
折角の知識も他の面々にはハテナでしかないから、反応してもらえて嬉しい。
家電ってこの世界に有ったら充分凄いアイテムだけど、神様がそんな家庭的な物で喚ばれるのはなんか嫌だな。
でももし家電で神様が召喚できるなら、最初に神様と対面するのはきっとマキナイルの伯爵だろう。
その伯爵はリーフェリアじゃなきゃ神様だってお呼びじゃないだろうけど。
「と、それで神器がなんだって?」
セルフで脱線した会話を修正して先を促す。
「それがな、明確な“物”ってわけじゃないんや。随分と抽象的なんよ」
少し困り顔をしたアリクが言葉を続ける。
「“神の知識”と“神の力”、それから“神の身体”を揃えた時、ノカトリア様はこの世界に降臨するそうや。まさか本当に概念や神様の身体がこの世界に落ちてるとは思えん。だから神の力に等しい魔導書や武器、あるいは神様が降りれる依代的な物のことを指すと、ウチは踏んでる。…ま、そんな値段の付けられん代物はウチじゃ取り扱ってないけどな」
そう言ってアリクは言葉を切った。
知識と力と身体、ねえ。
それが揃うと神様がこの世界に来れる。
逆に言えばそれがないと、神様本人が来たくても来れないのかもしれないな。
いくら感情を持たない機械的な存在だと云われても、ミクニとの仲は悪くなさそうだし。
ノカトリア様だってミクニと直に会えればそれなりに嬉しかったりするんじゃないだろうか。
「よし、観光のついでに探してみよう!」
「マオ、一応僕等の目的は魔王討伐だからね?」
ついうっかり口を滑らせたらユウからそっと注意が入った。
ミクニとメメは当の魔王を見て苦笑している。
「ニシシ、勇者ともなると魔王討伐が観光気分かいな。そら頼もしいわぁ」
幸いここにいる民間人代表アリクは、俺の言い間違いに怒る様子もないし、良かった。
「さて、と。それじゃあウチはそろそろお暇させてもらいます」
「もう行くのか?」
すく、と立ち上がったアリクに俺は問う。
「ええ。勇者さんは冒険に観光に忙しいでっしゃろ?あんま長く引き止められへんよ」
お陰様で体調もこの通り。と元気アピールしてくるアリクに、死の影の後遺症はなさそうだ。
「しっかし期待に沿える商品が少のうて申し訳ないわぁ…次お会いする時はもっと商品を充実させておきます」
困ったように笑うアリク。
しかしその目はやる気に燃えていた。
「あ、じゃあさ」
俺はそんなアリクに「マキナイルヘ行って欲しい」と頼んだ。
「全然ええですけど、何がありますの?」
「伯爵って知ってる?あいつさ、遠方での連絡手段とか作れるかもしれないんだ。だから商人なら有用かなって」
「は!?あの魔導具の賢威さん、研究再開してますの!?しかもウチがパイプ繋げるとか!」
目に見えてテンションの上がるアリク。
情報の共有も携帯電話みたいな道具も、複数人の使用者がいないと成り立たない。
そんな使ってよし、売ってよしな魔導具、商人のアリクならば普及に努めてくれるだろう。
「って、はぁぁ…ウチがお客さんから情報貰ってどうすんや…」
「そんなアリクにダメ押ししていい?」
そう言ってポケットから出すのはご存知缶バッチ。
昔ながらの商店が絵本のようなタッチで描かれているシリーズなのだが、これは駄菓子屋さん。
結構細部まで描かれているから、日本を知っていれば「このお菓子もしかして!?」とか思えるかもしれない。
当然そんな話題で盛り上がれる奴はユウしかいないが。
「絵の描かれた装飾品だよ、異世界のお店。向こうの技術を広めたいから知り合った奴らに配ってるんだ」
「ほうほう、この細かいんこれ全部商品かいな。こんな店持てたらひと目引くこと間違いなしやなぁ」
移動店舗としては向かないな。けど腰を据えて商売できるようになったらこんな店も有りやな。とアリクは立ったままバッヂを摘んで凝視する。
「それ、アリクにやるよ」
「は!?こんな異世界のレア物を!?無償で!?」
「言ったじゃん、配ってるって。あれだよ、サンプル?だから店舗のデザインでも缶バッヂ自体でもこの世界で布教してよ」
「おぉぉ…そー言うことなら…」
反応の面白いアリクだが、あげると言ったら俺の服に付いているバッチと見比べいそいそ身に着けだした。
安全ピンの構造を自主的にそんなに早く理解した奴はアリクが初めてだ。
その行動力といい、数年後には本当に地球的デザインの建築物がこの世界に登場するかもしれないな。
「値段と商品のイラストを載せたコレを貼り出せば、口頭で説明するよりスムーズにお客さんに取り扱い商品を認識してもらえるな。商品入れ替え時の付け外しも簡単やし…しかし今やとコレを作る単価の方が高なってまう…。そや、魔導具の新しい運搬方法の提案なんてどうや?服に鞄にぶら下げられるのは便利やん?この金具の量産ができれば単価も安なるし…」
ブツブツと缶バッヂの利用法を頭に駆け巡らせだしたアリクはハッとして俺達を見渡し、自分の世界に入り込んでいた事を詫た。
これだけ興味を持ってもらえたのは俺としては万々歳である。
「ホンマ何から何まで有難うな。それじゃ、改めてうちはお暇させてもらいます」
すちゃ、と手を上げたアリクは改めて扉に手をかけ、今度こそ出ていった。
「さて、僕等もそこそこでこの町を出ようと思うけど…次はどこ行こっか?」
「まおうじょう、じんきさがし、ヒトクイさがし、ぜんぶおなじほうこうの、かのうせいがたかいね」
「そうね、魔王城の方へ行くほど未開の地は多いもの、神器が眠っているならそっちの方かもなの」
おおよそのルートは変えなくても皆の目的が達せそうだ、と話が一先ず付いたところで俺はそっと挙手した。
「ん?どうしたの、マオ」
「俺、行きたい所が有るんだけど…」
「?何処なの?」
「異常個体作ってる奴の所」
……………………
…………
(Side:シノ)
死の影が“虚仮威し”に降参してくれて良かった。
先の戦闘の片が付いた時、ただそれを思うばかりでござった。
拙者が最後に出現させた武器の数々。
あれは拙者が目にした物に違いない。
しかし、あれ等と“相対した”わけでは無い。
始まりの町で冒険者共に特訓を付けている時に目にした物が大半でござった。
始まりの町で拙者が教えるのは【思念伝達】の使い方。
“実技”ではレティ殿の計らいで、拙者の正体がバレる可能性を下げるため、ガイ殿や他の冒険者が殆ど付き添いを努めていたにござる。
拙者の教えを我が物とした者が増えれば尚更。
故に拙者は武器こそ見ていれど、それを使っている様はロクに見ていなかったのでござる。
となれば、剣の動きくらいは多少の再現性こそ有れど、死の影に渡り合えるレベルとは程遠いこと必至。
それ以前に扱い方のわからぬ物も無数でござった。
だから勝手にあの武器をすべて扱える。と勘違いして貰えなければ、今頃降参するは拙者の方でござったであろう。
「シノちゃん」
影の中。
二人しかいない空間で、横でニコニコと満面の笑みを浮かべる死の影が拙者の名を呼ぶ。
拙者は人間に興味も好意も持って自我を得たが、そうでなくとも“現象”が“魔物”として、生き物として認識される程度には自我を得るのだな。と、柄にも無く考えた。
否、人間には興味なくとも、拙者にはそれ等の感情を当時から向けていたか。
そこまで考えて、隣からの疎ましい程の熱い視線に「考えるんじゃなかった」と後悔した。
「シノちゃんと居られるの、思ったより嬉しいですねぇ。そうは思いませんかぁ?」
「思わないでござる」
マオ殿の言う「ウザい」という感情に納得しながら、ばっさり切り捨てる。
それでも言葉程度の刃では全くダメージを受けていない様で、死の影の態度は変わらない。
「ところで、良いのでござるか?」
「ん?何がですかぁ?」
シノちゃん連呼を断ち切るため、拙者の方から質問を投げかける。
「異常個体を生み出す者の居場所をマオ殿にリークしていたでござろう?」
「なにか問題ありますかぁ?」
一応は先の主ないし恩人でござろうと問おうとして、此奴にそんな義理人情など無いか。と自己納得した。
マオ殿に汚名を着せる怨敵に同情する謂れはないが、折角捻り出した話題が終わってしまったのは困る。
「向こうだって僕を利用しようとしたんですから報復の一つや二つされても文句言えませんよぉ。それに、人間て訪問先に手土産持っていくんでしょぉ?」
何か話題はないか。と悩んでいると、どうでも良さそうに死の影が言葉を続けた。
まさか此奴にそんな礼儀が有ったとは。と驚いたが、この人間の真似は拙者の真似なのでござろう。
フローラの真似をされるよりよほど良い真似でござるな。
「それにしても見事ですねぇ」
改めて死の影が拙者の顔からつま先までまじまじと見つめる。
「確かに成長している。しかし面影は残っている。なんとも見事な加減で再現されているものです」
感心を隠さない死の影が、何度目かの素直な感想を述べた。
フローラの姿自体を褒められているわけではないが、これはこれで悪い気はしない。
「しかし、拙者の想像なんてまだまだでござった。…本物は、大人になったフローラは、もっと美しかったでござる」
「?…っ、貴女まさか、実際に会ったのですか?」
一瞬拙者の言葉の理解に遅れた死の影が、怪訝な顔で口を開く。
「でござる。正確にはフローラの魂たる魔素を多大に含んで産まれた人間、でござるが」
「…転生体、ってやつですかぁ」
顎に手を当てて呟く死の影に無言の肯定を示す。
「彼女自体は拙者が会う前に既に死者となっていたでござる。しかしその魂をベースに魔物へと更に転生していた」
「…」
「彼女が転生した魔物、ゴーストは剥き出しの魔素で構成されていると言っても過言ではない。故に拙者と対面した時、彼女のフローラとしての琴線に拙者の存在が触れて記憶が断片的に蘇ったようでござる」
と、フローラの記憶の蘇りについて、拙者等が再会した時に共にいた、最近知り合った「この顔好き仲間」の男が考察していた。
あの男はフローラの、否、今の名はリーフェリアでござったな。
リーフェリアの大切な者。
更にはマオ殿の部下にもなったと聞く。
人間の頃の不遇なリーフェリアを支え、魔物と化した彼女にも態度を変えぬあの者には頭が下がるばかりでござる。
間違っても「死の影」の餌食にしたくない。
だからこそ拙者も、死の影として強くなりたい。
「この姿は確かにフローラをベースにした姿。しかしこの世のどこにもいない、拙者の姿でござる」
他の姿になることに抵抗はない。
何なら「なりたい」とすら本能が叫んでいる。
それを見て見ぬふりしてきて今に至る。
拙者の生き方に後悔はしていないが、そろそろ潮時だとも思っていた。
「この姿は最早フローラへの未練ではない。単に馴染んでいる拙者の姿だから、手放し難いほどに気に入っているのでござる。その姿に愛着を持っている貴様と同じでござるな」
紳士の姿で帽子のツバに手をやる死の影に言葉を投げ掛ける。
「別に便利だから使ってるだけで愛着とかは…いえ、シノちゃんと同じですかぁ。ふふ、それなら愛着でいいです」
死の影でもわかりやすいように説明しただけのつもりだったが、死の影は思ってもいない所で食いついていた。
わかっているのかいないのか微妙でござるが、納得しているなら構わない。
「まぁ、今の僕は機嫌が良いですし、少しはフォローしてあげましょう」
「?」
ニコニコと杖を振って隣を歩く死の影がピンと指を立てる。
「フローラの事を殺したのは間違いなく僕です。と言うより、君は姿こそ模せど彼女へはその効力を一度も発したことがないんですよ」
怪訝な顔をする拙者に死の影は「ずっと見ていたからわかるんですよぉ」と相変わらずな口調で言った。
「君の栄養源はあくまでも他の町の人々です。僕の知る限りでは君はフローラに手を付けてはいない。姿を模して人を食らう我々ですが、姿を模すだけだってできるんですよぉ。人間だってフォークとナイフを握っただけで食物を口にした事にはなりませんよねぇ?」
武器にカトラリーが含まれていたように、死の影は食事をしている人間の前に現れて食ったこともあるのだろう。
むしろ拙者の方が人間の食事にピンとは来なかったが、言いたいことは何となくわかった。
「君はフローラに様々な人間の姿を見せるために結構な量の人間を食らっていました。だから満腹な状態で会うフローラにまで手を付ける必要がなかったのでしょう」
指をクルクルと回しながら死の影が拙者の認知できなかった拙者の行動を語る。
「だから弱っていった時も最期の時も、君はフローラの死には関与していない」
笑顔で覗き込んで来る死の影が結論を述べる。
「…そうで、ござるか」
「あれ?喜んでもらえると思ったんですがねぇ」
浮かない表情で返す拙者を見た死の影が、拙者の予想外の反応に首を傾げる。
確かに今の死の影はただの善意で、拙者が大切な人間の死に関わっていないことを教えてくれたのでござろう。
しかしそれは安堵する反面、少し残念だとも思ってしまった。
彼女の生きる楽しみに、拙者はなれていたと思う。
なのに。
フローラの“死”に関わりたかった。
彼女の“最期”になりたかった。
そう思うのは拙者が死の影故なのだろうか。
「シノちゃんを喜ばせるのは難しいですねぇ」
「貴様に喜ばせてもらう必要はないでござる」
不満げに口を尖らせる死の影に、拙者は素っ気なく返す。
結果はともかく先程の善意がありがたかったのは事実だ。
だから少しは優しくしてやろうとは思ったのだが…無理だった。
まぁ良いか。こやつ、それでも嬉しそうでこざるし。
「シノちゃんシノちゃん」
「何でござるか」
尚も口を閉じない死の影に少しめんどくさくなりつつも律儀に反応を返す。
「僕も名前が欲しいな」
そしたら突飛な要望が飛び出てきた。
「種族名じゃないのでシノちゃんに呼んでもらいたい」
「勝手に名乗れば良いでござろう」
「えー。折角ならシノちゃんが決めてくださいよぉ」
拙者の周りをグルグルと回って絡んでくる死の影に少しイラっとする拙者。
こやつ、敵でも厄介でござるが味方は味方でウザいでござるな。
とはいえ魔王城に住む以上、名前は確かにあった方が便利だ。
城の者は名前必須。ではないが、普段は呼ばれぬと言えど拙者も死の影。
同じ種族が複数集まる場合は識別名が無いと紛らわしいことも有るでござろう。
勿論、その名を拙者が考える必要は皆無でござるが。
「なんでもいいですよぉ。シノちゃんが決めてくれたものなら“イヌ”でも“ヒト”でもいいくらいです」
「ほら、もう魔王城に着くでござるよ」
「影を通るのにすぐもまだもないじゃないですかぁ」
空気の読めない死の影がブー垂れるのを横目に見ながらため息を漏らす。
こんな事なら話す時間を設けず、さっさと魔王城に出てしまえば良かったでござる。
「ね?ね?何でもいいんです。どうしても決めてくれないって言うなら、シノちゃんが次に発した言葉を名前ってことにしますよぉ?」
拙者のダメージが如何程がよくわからない謎の脅しを受けつつ魔王城への入り口を開ける。
入り口にしたこの影の持ち主は勿論、他にも上には誰かしらいるだろう。
拙者が監督するからには、こやつの紹介も拙者の仕事でござるな。
「ま、考えておくでござる」
ここで8章は終了となります。
ここまでのご拝読誠にありがとう御座いましたm(_ _)m
次章は執筆中(2023/02現在)になります。
今回も章の最後まで書けてから更新を再開しますので、その時はまた宜しくお願いいたします。




