第2章 参上
すかさず美緒がゴンドラに飛び乗ろうとしたその時だった。
「逃がすか!」
先頭を走っていた狩人が無情にも寸前に追い付き、美緒の体を押さえ付ける。美緒の両手は瞬時に自由を奪われ、銃を向ける事も、スタンガンを持ち出す事も叶わなかった。所詮は、か細い女の力......筋骨隆々の男に押さえ込まれては、どうする事も出来なかった。
こんな所で捕まってたまるか! 一方美緒は全身をくねらせ、必死の形相で抵抗を見せる。しかし屈強な狩人達の呪縛からは、そう簡単に抜け出す事は出来ない。
終わりか......万策が尽きたと思い掛けた正にその時だった。
ヒュルルルル......突如、耳元で風を切る音がしたかと思えば、美緒に覆い被さっていた男の腕力が急に緩まり、次の瞬間には、バサッという大きな音を立てて雪の積もる地べたに崩れ落ちた。
一体何が起きたんだ?!......訳も解らず美緒が後ろを振り返ると、1人の長身の男が、消火器を撒き散らしながらこちらに向かって走り寄って来ているではないか!
「美緒サン、遅くなりマシタ! ただ今参上デス!」
辺りは消火器の粉末が四方に飛散し、まるで煙幕のように、視界を妨げていた。見れば、倒れた男の首の目には、フルコースのディナーで使用していたフォークが突き刺さっている。
「ちょっと来るのが遅いって!」
そう叫んだ美緒の顔には、助太刀が遅れた事への怒りと、助太刀に来てくれた事への喜びが合わさり、複雑な表情となって現れていた。
「美緒サン。ここは私が引き受けマシタ。さぁ、早くゴンドラで逃げてクダサイ!」
そう叫びながら一気に美緒の元へと掛け参じて来る。
「分かった」
美緒は一言そう答えると、すでに下降を始めているゴンドラへとジャンプ。その時美緒の目からは、大粒の涙が止めどめもなく流れ落ちていた。
遅いよ...... 怖かったんだから......
しかし暮れなずんでいる場合ではない。美緒はすぐに涙を拭い、ゴンドラの床で倒れている未来を抱き起こす。
上手く逃げてクダサイ......ポールは心の中で美緒にエールを送ると、ゆっくりと殺気みなぎる後方へと向き直った。気付けば廻りは全て狩人逹に囲まれている。
「ここカラ先は、一歩たりトモ通させはシマセン!」
鋭い視線を向けながらそう怒鳴り声を上げる。
「一体何なんだお前は?!」
すると長身ハーフ男はここぞとばかりに、
「ジブンはEMA探偵事務所一の色男、ポール・ボイドだ! 冥土のミヤゲに覚えとケ!」
名乗りを上げたのである。
「何だと、この外道が!」
狩人逹が一斉にポールを取り囲んでいく。狩人逹は総勢10名。それに対しポールはたったの1人。ポールは如何にしてこの難局を乗り切るつもりなのだろうか......




