ソフィアの仕事
冷たい飲み物が体にしみる。
父からこう言われた。
「ちなみに、ここに書かれている所得税とは・・・なんだ?」
私が父に渡した予算表は簡易的に書いてあるもので、もっと具体的に書いたものは私の机の上に置いてある。
この予算表で父の感触を見た後、追加の説得材料として用意していたのだが・・・。
まさか、その前に話だったとは。
『その前に無いの所得税?』私はこの領がどうやって領民から税を取っているのか、気になってしまった。
「お父様、その前にお聞きしたいのですが。ドルトムン領はどのよにして領民から税を取っているのですか?」
「それは、当然・・・。農業・漁業・商業をしている者から一定の税を取っている」
「それだと、税を納めていない者がいるのでは?」
「あぁ勿論いるよ。子供やお年寄り、あとは農業・漁業・商業をしていない者だな」
「その税の取り方だと、領民から不平不満が出ませんか?」
「まぁ時には聞くが・・・他の領でも同じだしな。昔からそうだったから問題になった事はないな。それがどうかしたのか?」
平然と言われた事に私は驚いた。
そのような税の徴収でよく今まで領が回っていた事に・・・。
恐らく領民性がいいのだろう。
しかし、今の税の徴収の仕方では抜け道がある。その抜け道を利用する者が大量に出てきてしまうと、途端に領の運営が出来なくなる。
そんな、危険な状態をこのまま放置しておく事は出来ない。
『父に上手く説明できるだろうか・・・?』。
「お父様、この所得税とは簡単に言いますと個人の所得に対してかかる税の事です」
「個人?に対してか?」
「はい。私が計画しているこのプランは働くのは個人。その個人、個人に給料を渡します。そこから少額の税を徴収します」
「それだと、不満が生まれないか?」
「そうですね、徴収するだけでは生まれるでしょうね。しかし、そこに特典を設ければ不満は生まれないでしょう」
「特典?具体的には?」
私の話に父が食いついてきた。私は心の中で軽くガッツポーズをとり話を続けた。
「はい、特典です。まずは、住める家、もしくは居住施設を与えます。そして、教育・医療を受けれるようにします」
「待ってくれソフィア!!」
急に父が大きな声を出した後、続けてこう続けた「居住施設は、まだ分かるが・・・教育・医療は流石にやり過ぎだ」。
「それは分かっています。医療はすぐには提供出来ませんが・・・教育は提供します」
「いや、教育もやり過ぎだ」
『やはり簡単には納得してくれないわね』、予想は出来ていた事だったから私は怯む事なく話を続けた。
「何故?やり過ぎだと思うのですか?」
「教育や医療にはすごくお金が掛るんだ。それを簡単に提供することはできない。特に医療はこの国ではブルースダウニー家にしか行えないんだ、そのブルースダウニー家が平民相手に医療を提供するとは到底思えない。だからソフィアが言っている事は実現すること無理だろう」
「なるほど・・・でも、教育に関しての問題はお金だけなのですね?お父様」
「まぁそうだな。教育に関しては・・・」
「なら、教育に掛かるお金を工面出来れば提供してもいいですね?」
「出来るのか?」
「はい。出来ると思います」
それから私は父に税の改革案の話をした。
◆◆◆◆◆◆
ソフィアの口から出てくる言葉はどこか、別の言葉なんじゃないかと思うほど現実味がなかった。
ソフィアの話はまず、今の領の税の徴収の仕方の危険性から語られた。
私はソフィアの話を聞けば聞くほど今の状態が綱渡りのそれだと思ってしまった。
そして、ソフィアが語る税の改革案は革新的であり公平的でもあった。確かにこの案を実行しても領民から不満は生まれないだろう。
だが・・・問題がある。それはこの税の仕組みをどれだけの領民が理解出来るだろうか?不満は生まれないだろうが、不安が生まれるかもしれない。
そこまで考えた私は、一つの答えが生まれた。
だから、ソフィアは平民に対して教育を提供したいのか。
「話は大体理解できた。そして平民に対し教育がしたいというソフィアの考えも分かった。・・・本当ならもう少しソフィアが大人になってからだと思ってはいたが」
そして私は覚悟を決めた。
「この件は全てソフィアに任せる。ソフィアが思うままにやってみなさい」
「お父様、本当によろしいのでしょうか?」
「あぁやってみなさい。この領、ドルトムン領はお前に任せる。・・・ソフィア・ドルトムン!」
私は今出せる威厳を全てだし、私の娘ソフィア・ドルトムンの名を呼んだ。
すると、ソフィアも肌で感じたのか私の思いに応えるべく姿勢を正し短く返事をした。
「はい!」
「お前に、ドルトムン領の領主代行の責務を与える。そして、これは私からのお願いだ・・・お前は、領主権限を使いこのドルトムン領を今以上に発展させよ」
ご期待に応えれるよう、全力で務めます」
自信に溢れた強い目を、している。
これがまだ、7歳の子の目なのか・・・私の娘ながら信じられないな。
私は自笑気味に笑みをこぼした。
「では、今日の仕事はこのくらいにして夕食にでもしよう」
「はい、お父様」
先ほどまで大人の雰囲気を出していたソフィアが、今では可愛い子供の雰囲気になっている。
ソフィアと二人並んで執務室を出た。
こうして、並んで歩いたのはいつぶりだろうか?横に並んで分かったが身長が伸びているな。
この子も日々成長し、大人になっていくのだな。
「そうだ。ソフィア食堂に行くまでの間、久しぶりに手を繋がないか?」
「手をですか?」
「そうだ」
私がそう言うとソフィアが少し悩んでいる素振りを見せる。
『もうこのくらいの歳になると、もう手を繋いでくれないのか・・・』などと、考えていると。
ソフィアの右手がスッと私の手の位置の所まで、伸びてきた。
「お父様。恥ずかしいの食堂の前まで、ですよ」
頬を赤く染めたソフィア小さい声で言った。
『私の娘、可愛い』。
『こんなにも可愛いソフィアは、いつかどこかに嫁いでしまうのか・・・」私の悩みが1つ生まれた瞬間だった。
私はソフィアを小さな手を優しく握り、食堂に向けてゆっくりと歩みを進めた。
「ところで、ソフィア?そろそろパパと呼んでくれないか?もう仕事中ではないのだから」
「分かったわ、パパ」
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