夏の友人 壱
※ミステリアスな夜陰くんのイメージを壊したくない方は、ブラウザバックを推奨します
夜陰視点のお話です。
彼が何を考えているのか分かりづらかったと思うので、書いてみました。
思った以上に、長いです。全8話です。全て書き終えているので、毎日23時に投稿します。
僕は、自分が嫌いだった。
黒い髪も目も、周りの子は怖いって言って近寄ってこない。僕が話しかけても、皆逃げていってしまう。
いつも、僕は独りだった。
僕の世界は全てが白と黒で出来ていて、季節なんてなかった。
あの子に会うまでは。
それは僕が6歳の頃だった。夏になると、僕は親の都合に合わせて祖父母の所へ遊びに行くことが多かった。僕は自分も嫌いだし、嫌いな人も多かった。両親もそれほど好きじゃない。
だけど、祖父母だけは好きだったので、学校というものに通うようになってから、大型連休というものを知り、まず決めたのはその休み期間はずっと祖父母の所にいるということだった。
両親とは喧嘩にもなったが、祖父母の所にいたいという僕の願いを最終的には叶えてくれてた。友達がいない僕を気遣ってなのかもしれない。とにかく、僕は大好きな祖父母との幸せな大型連休を手に入れた。
祖父母の所に遊びに行くと、喜んで迎え入れてくれた。それが嬉しくて、僕は祖父母にぎゅっと抱き着いた。両親はドライな所があるので僕は愛情表現はあまり知らないが、祖父母がぎゅっと抱きしめてくれるこれは、愛情表現なのだと理解している。
祖父母との再会を果たし、一息ついたので、僕は学校に通う前と変わらずに祖父母宅の近くを探検に出かけた。駄菓子屋や、妖怪の集会場みたいのが近くにあり、そこで遊んでいるだけでも暇を潰せた。
暇をつぶすと言っても、そんなに暇に感じていたわけではなく、僕は僕なりに楽しんでいた。集会場で楽しそうに遊ぶ妖怪の子供たちを眺めたり、駄菓子屋でお菓子を買ったり。それなりに楽しかった。
僕は一人遊びが慣れているのもあって得意なので、特に退屈はしていなかった。
そんなとき、面白いものを見つけた。
集会場の近くの神社に、不思議な隙間のようなものを見つけたのだ。本で読んだことがある、あれは空間の、次元の歪みのようなものだと。あれを通り過ぎると、人間の世界へ行くことができると。
ほんの少しの、好奇心だった。
僕がその隙間に手を伸ばすと、僕は知っている光景によく似た、全然知らない世界へと気付いたら立っていた。
さっきまでは青空が広がっていたのに、もう夕暮れになっている。これが、人間の世界。
どこもかしこも人間の世界とは、元いた僕の世界と似ていて、さほど違和感を感じなかった。ただ、所々が違うなって。僅かな違和感だけを感じるだけだった。
周りを見回していると、ベンチに座った同い年くらいの女の子が空を眺めていた。その表情はどこか寂し気で、気にはなったがまた拒絶されるのが怖くて一人遊びをすることにした。
さっさと帰ろうとも思ったのだが、どうせ暇だしせっかくの別世界を楽しむことにしたのだ。
いつものように一人遊びをしていたが、視界にちらちらと彼女が見える。
僕は気になって気になって、勇気を出して声を掛けた。
すると彼女はこちらが慌ててしまいそうになるほど物凄く驚いて、なんだかその姿が面白くて笑ってしまった。
「い、いきなりわらうなんてしつれいね!」
彼女が怒っている様子だったので慌てて謝ろうとするが、ここでも拒絶されてしまうのかと、躊躇した。僕がどうすればいいか迷っていると、何故か彼女の方から話しかけてきてくれた。
「ねえ、あたなひまなの?」
「え?あ、うん…そうなんだ」
「じゃあこなつがはなしあいてになってあげる!」
そう言って彼女は自分の座っているベンチの横を手でバンバンと叩き、ここに座れと強引に指示をしてきた。拒絶されない驚きがあってか、僕はそれをすんなりと受け入れた。
彼女は色々なことを話してくれた。家族のこと、友達のこと。でもどこか、少し寂しそうだった。
こんな僕を受け入れてくれた彼女にこんな顔をしてほしくなくて、僕も少しだけど自分の家族の話などをした。それを楽しそうに聞いてくれる彼女は、とても眩しかった。
「あの…君の名前は、こなつ、でいいの?」
「そうよ!お母さんがちいさいなつでこなつっていってたよ!」
「小夏ちゃん…」
「あなたもなまえ、おしえて?」
「え、僕は…夜陰。夜の陰って書いて、夜陰。まだ小夏ちゃんには難しいかな」
「むずかしくない!…うそいった、ごめんなさい。こなつにはわかんない」
「そっか。小夏ちゃんは今何歳?」
「こなつは5さいだよ!」
「じゃあ僕が一つ上でお兄さんだから、小夏ちゃんも僕と同じ歳になれば分かるようになるよ」
「ほんと!」
「ほんと」
「こなつ6さいになるのたのしみにしてるね!」
僕の名前が難しくてよく分からなくて。
でも自分も僕と同い年になれば分かると嬉しそうにしている彼女は、とても眩しい。
この世界にいると、いつもより色が鮮やかに感じた。
なんだか心配なので彼女の家まで彼女を送っていった。
神社に一人になった僕は、やることもないので隙間を通って元の世界に戻った。
明日はこの世界に来ないという選択肢は、僕の中にはなかった。
僕と彼女は、たびたびあの神社で出逢うようになった。僕は毎日彼女を探しに神社へ行ったけど、彼女はたまに来る程度だった。
でも僕が毎日神社に来てるよって言ったら、彼女も来てくれるようになった。
嬉しくて彼女を抱きしめると、最近覚えたての言葉なのか、「ひとはだがこいしいのねー」なんて大人のような顔をして言った。それがおかしくて笑うと彼女が怒るのは分かっているんだけど、どうしても笑ってしまう。
彼女が僕に本気で怒っていないことは分かっていたし、彼女が僕に怒ってくれるのが嬉しかった。
友人みたいだなって、思ったんだ。
彼女と過ごす毎日は、白黒だった僕の世界を鮮やかにした。
いつもは夏なんて、ないに等しかったんだ。でも、今年は違う。
彼女は、僕に夏を連れてきてくれた。彼女そのものが、僕にとっては夏だった。
オレンジジュースみたいって言う空も、夕暮れに染まった土の色も、木々の鮮やかな緑も、全部。
君がいるから、色付くんだ。
小夏ちゃんは名前の通り、僕に夏を運んでくれた、大切な友人になっていった。




