10 侍女の日々
私はカーラ・レストン、今年で22になる。
背も低く童顔なのでよく子供と思われる事が多いが大人だ。
べルネリオス家に仕えるただの侍女、それも平民出身だ。
子供の頃からこの家に仕えてきたが、現当主デュッケンバルド様のお顔だけは未だに慣れない。
しかしあの子供のトラウマになるような顔がどうでもよくなる事態が起きた。
当主様が養子を取られたのだ。
まだ6歳になったばかりの女の子だそうだ。
貴族の世界ではよくある事らしいのだが、大丈夫だろうか?
当主様のお顔は本当に恐ろしい、私が初めてお会いした時は泣き出してしまったほどだ・・・。
けれど、それでも当主様のお優しさは理解しているし感謝もしている。
「カーラ。今度我がべルネリオス家に来る事になったアイリスに、お前を専属としてつける。」
「かしこまりました当主様。」
楽しそうにしていますけど本当に大丈夫なのでしょうか?
当主様が笑うと・・・その、ドラゴンも裸足で逃げ出す恐ろしさがあるのです・・・。
そしてお嬢様がやってくる日になった。
私が専属で仕える事になるお嬢様、一体どんな方なのか。
貴族出の侍女達の話からは男爵家の子でなかなかお転婆だとか。
けれどべルネリオス家は武門の家系、きっとそう言った素養があるのだろう・・・。
だからこそご結婚されていない当主様が養子に迎えるのだ。
「今日から娘としてよろしくお願いします養父様。」
「そう気張らずともよい!はっはっはっはっはっ!」
やってきたのは熊のぬいぐるみを抱いた女の子だった。
愛らしい顔をして人の家が珍しいのだろう、挨拶した後はきょろきょろと周りを見ていた。
正直な話・・・、この時は御当主様は児童性愛者なのかと思った・・・。
「さて、カーラはおるか!」
「はい、ここに。」
「アイリス。この娘がお前の専属だ。何かあったら言うとよい。」
「カーラ・レストンです。よろしくお願いしますアイリスお嬢様。」
ぺこりと頭を下げた時少し落胆していた。
こんなただ愛らしいだけの少女をべルネリオス家の養子にするなんて、顔と同じで化け物なのかと思ったからだ。
けど、顔を上げその少女の笑みを見た時に私は恐怖を覚えた。
「それじゃあ早速ですがカーラ。あなたに覚えて欲しい技術があります。」
それからすぐ私はお嬢様の部屋で勉強を受けさせられた。
本当にこの人は6歳なのか不思議でたまらない、目の前に置かれた指南書はお嬢様が書いたらしい。
私が渡された指南書、『隠型術』と書いてあるけれどなんて読むのかはわからない。
けれどその中身は・・・驚嘆の一言だった。
何なのだこの少女は、私が平民だからと言ったら自分を卑下するなと言ったり、この書に書かれている事も6歳児の書ける内容ではない。
それに体術もだ、体格差があるはずなのに私はお嬢様に指先ほども及ばない。
筋が良いなどと上から褒められている状態だ、私よりはるかに歳下なのに!
そうやって四年間お嬢様の世話と、お嬢様からの勉強と訓練で鍛えていると・・・。
このお嬢様の事が大分わかってきた。
規格外過ぎて理解の範疇に入らないという事が。
まず初めに、この人はかなりの変人だと言う事。
前に一度夜中に部屋を覗いてしまったのだが・・・、どうやらこの人は同性が好みらしい。
そういうのに理解はあるので差別的な目で見る事はないのですが、それの為に当主様を利用して、当主様もわかってて利用されているらしいです。
その件でこそこそ当主様と会話しているのは知っているが、どうも私まで巻き込もうとしている。
あまり巻き込まないでほしい・・・、私はただの侍女です。
そして武術面も常識から外れている。
王国警備兵の皆さんから教官殿と尊敬されている。
お嬢様がべルネリオス家に養子としてやってきた頃から変わった武具が王国警備兵の正式装備になっていた。
それもお嬢様が型を作り上げ、動きなども教え込んだらしい。
これで犯罪を犯した相手を無傷で捕らえれることが多くなったとか・・・。
本当に何者なのだろう?武芸の神の申し子だろうか?
知識面もありえないレベルです。
これも王国警備兵の方から聞いたのですが、お嬢様が行った書類の整理を見た宰相がすぐに雇うと言ってきたらしい。
色々と言いたい事がありましたが概ね事実だそうで、お嬢様が作ったマニュアルと呼ばれる指南書を売りつけたとか。
本当に何者なのですか?
そして先日のギルドに出かけた時の件だ。
まるで当たり前のようにゴブリンの角を切っていた。
普通貴族というのは使用人にやらせて自分は動かないのが普通だ。
なのにせっせと私が倒したゴブリンから角を取っていたのだ。
私がやりますからと言っても一緒に受けたのだからこれ位させなさいと言われてしまった・・・。
いや正論ですよ?反論できないほど正論です!
けど私は専属侍女なんですから・・・。
もやもやするーっと思いながらゴブリンを倒していると・・・倒し過ぎました。
もっと難しいと思っていたのですけどねぇ・・・、お嬢様の特訓の成果なのでしょうか?
お嬢様の奇行がピークになったのがその帰り道。
はぐれドラゴンが目の前に現れたのだ。
小型のドラゴンだったが、それでも私達にとっては驚異的。
あの大きさでも村一つ潰すのに時間はかからないだろう。
今の私でも・・・、戦う事は出来ないだろう。
私の命を使ってでもお嬢様を逃がさないと・・・
けどお嬢様は私の静止を無視して、あろうことかドラゴンに近づいていくじゃないか。
それもただの傷薬を持って、武器の一つも持たずに。
何がしたいんだこのお嬢様は・・・、ドラゴンなんて見かけたら即討伐、出来ないのであれば報告して討伐隊を編成しなければならない相手。
私がどうするべきか悩んで動けないでいるとお嬢様はゆっくりとそのドラゴンを撫でて、傷薬を塗り始めた。
ドラゴンは大人しくしているし、お嬢様はなんだか楽しそうだし・・・。
手当てが終わったら、私に仕えなさいと言う始末!
あぁ当主様になんとご報告すれば・・・、そもそもドラゴンが人に懐く事なんてありえません!
研究機関が冒険者ギルドに依頼してドラゴンの卵を用意して孵化させた時も誰にも懐かなかったとされ、孤高の種族とまで言われているのです!
もうだめです、お嬢様は・・・。と思っていたらドラゴンがお嬢様に懐いているじゃないですか・・・。
なんなのですかお嬢様は本当に・・・。
私はあなたが天の使いだと言われても信じますよ?
「信頼出来そうな良い子をパートナーに出来たわ、カーラも入れて二人目ね!」
「お嬢様・・・。」
そう言われて嬉しくないはずはないのですが・・・、さすがにドラゴンと同列はやめてください。
そんな事を考えながら、私はこのお嬢様のおかげで退屈のない日々を楽しんでいるのだ。




