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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第四章

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中央神殿 3

 目を開けると、見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。白一色で統一された、豪華な部屋。どこ、ここ? 真っ白い天蓋付きのベッドから身を起こし、部屋をぐるりと見回してみる。う~ん。全く見覚えが無い部屋だ。


 私はベッドから降りると、出入り口の扉らしき、大きな白い木の扉を引いてみた。ガチャリと音がし、開かない。押してみても同じ結果だった。鍵、掛かってる……。


 きょろきょろと部屋の中を見回すと、ふと、窓が目についた。窓辺に寄り、外を見る。結構高い位置にあるらしいこの部屋からは、夕焼けに染まる街並みが一望出来た。中世ヨーロッパみたいな石造りの街並みと、大通りを行きかう人々。港町らしく、遠くの方には港と、そこに停泊している船が見える。はて? ここはどこだ。全く見覚えが無いぞ。


 私は、意味も無く部屋の中をうろうろした。まるで動物園の虎のようだ。さっきから何だか落ち着かない。真っ白いソファとローテーブル。試しに、真っ白いクローゼットを開けてみると、そこは空っぽだった。奥行きも見た目通り。ん? 見た目通りって、当たり前じゃないのか? 私、何でそんな事……。


 この部屋、ソワソワする。ここにいたらいけない気がするのに、その理由が分からない。何で? どうして? ……とりあえず、落ち着こう。一旦ソファにでも座って、ゆっくりと一番新しい記憶を思い出してみよう。私はどこにいた? 何をしていた? う~ん……。


 あ! そうだ。吹雪の中にいたんだ。大学からの帰り、吹雪になって、それで……。道を見失ったような……。一面見渡す限り、白銀の世界になって……。私、遭難して倒れていたとかなのかな? だとしたら、ここは病院とか? いやいやいや。外、明らかに日本じゃない。それに、雪だって無かった。暖炉に火が入っていないのに部屋の中は過ごしやすいし、季節は冬じゃない。一番新しいはずの記憶から、場所も季節も変わっているのに、何故か私はあまり驚いていない。という事は、私はそれを知っているって事? ここで過ごしていたのだろうか? でも、この部屋は落ち着か無し、知らない場所のような気もする。突如、部屋の扉がノックされ、私はビクリと身を震わせた。


「だ、誰?」


「失礼します」


 鍵を開けて部屋に入って来たのは、穏やかな顔つきのおっちゃんだった。知らない人だ。白い上着と白いズボン。腰には剣を帯びている。ふと、おっちゃんの足元に目をやると白猫がいた。ミーちゃんみたいな真っ白い猫。ここ、部屋といい、おっちゃんの服といい、猫といい、白ばっかり……。


 白猫は私の膝に飛び乗ると腰を下ろし、ゴロゴロと喉を鳴らした。ミーちゃんみたいな行動をする猫だ。こうして私がソファに座っていると、ミーちゃんは必ず私の膝をソファにして寛ぐんだ。白猫の喉をくすぐるように撫でてやると、それは気持ちよさそうに目を細めた。リラックスしているみたい。可愛い。


「やはり、ミーチャン殿はアオイ殿と一緒にいたいのですね……」


 私と白猫を見て、おっちゃんが少し寂しそうに笑った。ん? ミーちゃん?


「ミーちゃん? この子、うちのミーちゃん?」


「ええ」


 おっちゃんは穏やかな笑みを浮かべ、こくりと頷いた。何と! この白猫、ミーちゃんっぽい猫じゃなく、正真正銘、実家にいるはずのミーちゃんだった! ミーちゃんの脇の下に手を入れ、目線を合わせるように持ち上げて見る。ミーちゃんは「やめてよ」とでも言うように、一声鳴いた。


「そっかぁ。ミーちゃん。アンタ、何でこんな所にいるの? お父さんとお母さんは?」


 ミーちゃんは私の問いに答えるように鳴いているが、もちろん私にはその言葉は分からない。でも良いんだ。これがいつも通りだから。私が何かを問いかけると、ミーちゃんは必ず答えてくれる。猫語で。


「今はここにいないと、そう答えておられますよ」


 私は驚いておっちゃんを見上げた。ミーちゃんの言葉、分かるの?


「あの……この子の言葉、分かるんですか?」


「分かりますよ。これのお蔭で」


 おっちゃんは微笑みながら、自身の左手の甲を私に示した。そこには、何かの植物っぽい緑色の模様。何、これ? 刺青?


「これは?」


「精霊の紋章です。私の精霊は元エルフでして、こうして獣の言葉を理解する事が出来ます」


「エルフ……。でも、エルフって人嫌いのはずじゃ?」


 そう口にして、私は、はて、と首を傾げた。この情報、どこから仕入れた? う~ん……。ゲームとかラノベとかの情報なのかな? そんな設定、最近見たかなぁ? エルフが仲間になるRPGなら、だいぶ前にやった気がするけど……。


「そうですね。種族同士の関係性は良くありません。しかし、精霊は人族と契約しなければ消えてしまいます。私との契約も、必要に駆られてなんですよ」


 ああ、そうだ。精霊は魔力が枯渇すると消えちゃうんだった。そんな話をいつかどこかで……。ふと、私は自分の手に視線を落とした。左手の甲はまっさら。何も無い。いや、それが普通なんだけど。何故か違和感が半端無い。そして、左手の中指には、真っ黒い石の嵌った指輪があった。この指輪……何だっけ? 何かを思い出せそうな気がするも、頭にもやが掛かったみたいに上手く思い出せない。頭、痛い……。


「どうされました?」


 おっちゃんが私の顔を心配そうに覗き込む。私は何でもないと、首を横に振った。


「いえ……。それよりも、貴方はどちら様でしょうか?」


「ああ、そうでしたね。ガイと申します」


「ガイ、さん?」


「はい。ミーチャン殿とアオイ殿の世話係です」


「世話……係……」


 この人が、私の、世話係。世話係……。世話係って……? 何か、重要な事を忘れているような……。


「ええっと……。私、何でここにいるんですか? ここ、どこですか?」


「ここは……」


 ガイさんは少し困ったように視線を彷徨わせた。何でこんな反応? 普通の質問だよね? そんな、答えにくい事は聞いてないと思うんだけど……。


「中央神殿の一室です」


 ガイさんの代わりに答えた声に驚いて扉の方を見ると、開け放たれた扉から、一組の男女が入って来た。男の人の声だったし、今の答えは銀髪の男性の方だろう。


「ええっと……。あなた方は?」


「レイガスです。お忘れですか?」


 銀髪の男性――レイガスさんは悲しそうに目を伏せた。何故、そんな顔をする。私が何か悪い事でもしたみたいじゃないか。


「レイガス、さん?」


「そうです。貴女の恋人の、レイガスです」


 恋人……。恋人……? ここ、恋人! ちょっと待て。恋人って、誰が? 私はレイガスさんの顔をジッと見つめた。綺麗な銀色の髪と、透き通るような水色の瞳。顔は整っているが、どこか冷たそうな印象を受けるし、神経質っぽい感じもする。好みか好みじゃないかと聞かれたら、全く好みじゃない。この人と恋に落ちるとか、絶対に、絶っっっ対に無い! 無理無理無理。絶対に無理!


「ちょっと! 恋人って! 私、貴方の事、知らない!」


「そんな……。将来を誓い合った仲だというのに……」


 レイガスさんはショックとでも言うように肩を落とした。……悪い事をしてしまっただろうか? 彼の言う通り、本当に恋人同士だったら、知らない人と言われて傷付かない方がおかしい。発言には気を付けよう……。


 それにしても、この人が恋人、ねぇ……。神経質そうな人だし、良く考えてみても好みのタイプじゃない。……あ。この人から言い寄ってきた、とか? いや、それにしたってなぁ……。う~ん……。


「そもそも、何で私に貴方の記憶が無いの? 恋人の顔を忘れるって、尋常じゃないと思うんですけど?」


「頭を打った時に記憶を失くしたとしか思えません……」


 頭を打った? 言われてみれば、後頭部が痛い。触ってみると、そこには大きなたんこぶが出来ていた。ビックリするくらい大きなたんこぶだが、これくらいで人の記憶って無くなるの?


「本当ですか……?」


「ええ。それ以外、考えられません」


 ここまできっぱり言い切られると、そうだったんだろうと思ってしまう。そっか。私、頭打って記憶喪失になったのか。どこのマンガの主人公だって突っ込み入れたくなるよ。とほほ……。


「ところで」


「はい?」


「そちらの方は?」


 ずっと沈黙を守っていた美女に視線を移し、私はレイガスさんに問い掛けた。レイガスさんはフッと笑みを浮かべる。美女も笑みを零した。この二人の笑い方、どこか私を小馬鹿にしているように感じてしまう。あまり好きじゃない。というか、イラッとする。


「妾はメーアじゃ」


「メーア……」


 私は美女の名を口の中で呟いた。長い金髪と青い瞳の美女は、レイガスさん同様、どこか冷たそうな印象を受ける。それに、自信満々というか何というか、高飛車な感じがする。好きか嫌いかと問われたら、間違い無く大っ嫌いと即答するタイプだ。それに、メーアって名前。何故か、聞いただけでムカッとした。


「そなたは異界より妾が召喚した勇者じゃ。妾の望みを叶えよ。力を貸せ」


 うん。言い方もムカつく。こういう言い方をされると、ついつい反発したくなる。もっと下手に出てくれたら、私だって考える余地があるのに。この人、私の扱い方を全く分かっていない。


「それが人に物を頼む態度でしょうか?」


 私はにっこりと満面の笑みを浮かべ、メーアに言ってやった。ちょっとスッキリ。メーアは顔を赤く染め、わなわなと震えている。怒ってる、怒ってる。ぷくくくく……。


「それに、異界から召喚って……。どうせ、私の意志なんてガン無視だったんでしょ? 私、異世界に召喚されたいとか思った事、一度も無いし。一方的な召喚なんて、アンタ、それ、誘拐だから。この誘拐犯! 人攫い! や~い。人攫い、人攫い! 犯罪者ぁ!」


 ……あれ? そう言えば、私、何でこんなにイライラしてんだろう? メーアが命令口調だったから? それもあるけど、きっとそれだけじゃない。うむむ……。あっ! 記憶を失う前から関係性が良くなかったんだ! うん、きっとそうだ!


「このっ!」


 突如、メーアがつかつかと私の座るソファまで来た。そして、鬼のような形相で私に平手をかましてくれる。殴られた左頬がジンジンする。私は頬を押さえ、俯いた。


 メーアめ。良い度胸、してんじゃないの。この葵ちゃんに喧嘩売ろうってのね。……買った。


 私は無言で立ち上がると、メーアに平手を返した。一瞬、グーで殴ってやろうかな、なんて思ったけど、一応相手は女性なので自重した。メーアが男性だったら、迷い無く顎に一発、入れてやったのにっ!


 メーアは頬を押さえ、わなわなと震えていた。と思ったら、次の瞬間、私に飛び掛ってきた。髪を引っ張られたので、お返しに引っ張り返してやる。


 メーアとつかみ合いになった私は、彼女の足に足を引っ掛けた。そして、バランスを崩して床に転がったメーアに馬乗りになる。ふふん! これは勝った! そう思っていたら、ガイさんとレイガスさんに両脇を抱えられ、無理矢理メーアから引き剥された。


 その後、何故か私だけが二人に怒られた。初めに手を出してきたのはメーアなのに! くそぉ! 納得いかないっ! 覚えてろよ、メーア。この恨み、いつか晴らしてやるからな!

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