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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第四章

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中央神殿 2

 呆然とする私から手を離したおっちゃんは、抜き身のままだった剣を鞘に納めた。白猫が私の手から逃れようと暴れ出す。はっ! ボーっとしてたら駄目だ! リーラ! 魔鉱石の短剣!


――うん。分かった!


 リーラが返事をすると、私の手の中に魔鉱石の短剣が出現した。驚いたように白猫が毛を逆立て、おっちゃんは目を見開いている。私は魔法陣を展開し、叫んだ。


「フォアラデュンク!」


 魔法陣の光が中心に向かって収束し、出現する一本のハリセン。私はそれを手に、迷わずおっちゃんに殴りかかった。


「どこよ、ここ! 答えろ! この、人攫いっ!」


「ま、待っ――! ぐぬぉ! いたっ! いたたたたっ! やめっ! 痛いっ! 説明する! しますから! だから、待ってって!」


 腕で頭を庇いつつ、おっちゃんはそう叫ぶ。私は一旦殴るのを止め、おっちゃんを睨み付けた。勿論、警戒は怠らない。ハリセンと短剣を二刀流のようにして構え、いつでもおっちゃんを殴れるようにする。


「で? ここはどこ!」


「中央神殿です」


「はぁ? それって、メーア大陸にあるとかいう?」


「はい。私とミーチャン殿は、貴女を探す旅をしておりました。ここへお連れする為に」


 私を連れてくる為? もしかしてこのおっちゃん、昨日目撃されたとかいう聖騎士?


「貴方、もしかして聖騎士とかいうやつ?」


「はい」


 何てこった! 私、聖騎士に捕まったのか! しかも、中央神殿に転移とか、最悪の状況なんですけど! どうしよう、どうしよう。ああ、どうしよう!


「今すぐ、私を元の場所に帰して!」


「それは出来ません」


「何でよ! 私はここに用は無いの! 今すぐ帰して!」


「貴女に用は無くとも、私共にはあるのです」


 強情め。人の良さそうな顔つきをしているくせにッ!


「だったら、私にも考えがある!」


 私は魔力を短剣に込め、魔法陣を展開した。発動するのはリヒト・シュトラール。これならおっちゃんを吹っ飛ばすくらい、朝飯前だ! 当たり所が悪ければ死んでしまうかもしれないが、この人は鍛えているからきっと大丈夫。うん。大丈夫、大丈夫。


「ま、待たれよ!」


 おっちゃんが私を制止しようと慌てて駆け寄る。しかし、待ってやる義理は無い。今の状況で待てって言われて待ったら、ただのバカだと思うの。


「リヒト・シュ――」


「ドンナー・シュラーク」


 私の魔術発動より一瞬早く、雷撃が私を襲った。目の前が真っ白になり、全身を衝撃が走り抜ける。身体に力が入らなくなり、取り落した魔鉱石の短剣が光の粒子になって消えた。脚の力も抜け、私はその場に仰向けに倒れた。その時に頭を打ったのか、目の前に星が散る。たんこぶ、出来たかもしれない……。しくしくしく……。


 見知らぬ男が部屋に入って来た。神官服だろうか、足首まである真っ白の長い服に、ゆったりとした白いズボンという出で立ちの男だった。長い銀色の髪と水色の瞳。顔のつくりはハンサムの部類に入る男だと思うのだが、如何せん、冷く神経質な雰囲気を漂わせている。氷のような瞳に見下ろされ、ぞわりと私の肌が粟立った。


「レイガス殿。流石に今のはやり過ぎです。何かあったらどうするおつもりか」


 おっちゃんは咎めるような目を銀髪の男――レイガスに向けた。レイガスはその視線を受け流し、私の顔を覗き込む。


「これがメーア様が異界より召喚した、最後の一人、ですか? やはり、珍しい毛色をしている」


「レイガス殿!」


「何を怒っておられる? あの状況で魔術を放たれては、これに逃げられていたかもしれないのですよ? 逆に感謝して欲しいくらいです」


「なっ!」


「それに。これには使命を全うしてもらわなければなりません。万が一があるような魔術を、私が選択すると思いますか? せいぜい、身体が痺れる程度のはずだ」


「そういう問題ではない!」


「そういう問題でしょう」


 おっちゃんとレイガスはあまり仲が良くないのかもしれない。私を挟んで睨み合いをしている。くそぉ~。身体が痺れていなかったら、この隙に逃げられるのにぃ!


「この後、メーア様がいらっしゃる。ガイ殿。くれぐれも、これを逃がさないようにして下さい」


 レイガスはそう言うと、くるりと踵を返し、部屋を後にした。パタンと扉の閉まる音が部屋に響き渡る。おっちゃん――ガイさんは面白くなさそうに鼻を鳴らすと、横たわる私のすぐ隣にどかりと腰を下ろした。


 部屋の隅っこで様子を窺っていた白猫が私のお腹の上に乗り、ふみふみと足踏みをする。この行動、私を起こすときの……。この子、やっぱり……。


「みーやん?」


 舌まで痺れて上手く呂律が回っていないが、ミーちゃんは自分が呼ばれている事に気が付いたようで、私のお腹の上から降りると、ザリザリと私の頬を舐めた。


「ミーチャン殿は、ずっとアオイ殿に会いたがっておられた。ずっと、貴女を呼んでおられた」


 ガイさんがミーちゃんの頭を撫でながらそう呟く。ミーちゃんは気持ち良さそうに目を細めながら短く鳴いた。まるで、ガイさんの言っている事に対し「そうだよ」と同意するように。


「らんれ……」


「……何で、とは?」


「らんれ、みーやんがいるろ?」


「……何でミーチャン殿がいるか、ですか? この世界にという事でしたら、貴女と一緒です。メーア様に呼ばれた」


 メーアに呼ばれた? じゃあ、ミーちゃんは、私と同時に召喚されたうちの一人?


「ほはのひとらちは?」


「……他の人達? ああ……。私やミーチャン殿のように、貴女を探し回っています。すぐにレイガスが伝令を飛ばすでしょうし、じきに戻って来るはずです」


「そぉ……」


 私はガイさんに撫で回されているミーちゃんに手を伸ばした。力が入らないけど、何とか腕は上げられるようになった。少しずつ感覚も戻ってきているし、この短時間でも痺れからだいぶ回復しているみたいだ。


 ミーちゃんはそんな私の手に纏わり付くように身体を摺り寄せた。柔らかい毛並み。ちっとも変っていない。ずっと会いたかった、私の家族。


「もう動かせますか。流石は勇者殿といったところでしょうか」


 ガイさんは驚いたように目を見開き、私の腕を凝視している。普通はこんなに早く動けるようにはならないのだろう。回復の早さも勇者補正? 勇者って便利。でも、私はこんな能力、望んでなんかいない。この世界に来る事だって、私の望んだ事じゃない。勇者としての使命なんて、私には関係無い!


「わらしは、ゆうしゃらんかりらららいかられ」


「勇者にならない? 何故?」


「あらららちらんかに、きょうりょく、しらくらい」


「私達に協力したくない、ですか……」


 ガイさんは少し困ったように笑った。ガイさんを見ていると、別に悪い人じゃない気がしてくる。でも、この人はメーアの側近だ。絶対に信用してはいけない。ミーちゃんは懐いているようだけど、餌付けか何かされたに違いない。うん。きっとそうだ!


「めーあにも、あわない」


「それは出来ません」


 ガイさんはそう言うと、小さく溜め息を吐いた。溜め息を吐きたいのは、こっちの方だってのッ!


「メーア様やレイガス――先程の男に、協力出来ないなどとは言わないで下さい。貴女の身の安全が保障出来なくなる」


「それ、おろしてるつもり?」


「いえ。脅しではありません。メーア様もレイガスも、目的の為なら手段を選ばない人間です。貴女に何をするか分かりません」


 そう言われても、素直に頷くなんて出来ない。私はガイさんからぷいっと顔を背けた。そんな時、ふと目についたのは一本のハリセン。魔鉱石の短剣は、雷撃の衝撃があった時に消えてしまった。もしかしたら、私の身体が痺れている間に取られたらマズイと、リーラが機転を利かせてくれたのかもしれない。あれを失くしたら、魔術が使えないからね。敵地のど真ん中で、対抗手段が無くなってしまう。


 私はよろよろと身を起こし、ハリセンを握り締めた。まだ身体に力は入らない。完全に回復した訳では無いみたいだ。麻痺が完全に治らなければ、リーラとは意思疎通が出来ないはず。という事は、魔鉱石の短剣や全身鎧は錬成できないって事だ。武器がハリセン一本では心もとないけど、仕方ない。無いよりマシだ。


「わらしはここにようはらい。もろのばしょにもろしてッ!」


「出来ません」


 このッ! ガイさんのつれない返事に、私の頭にカッと血が上った。手にしたハリセンで再度、彼を殴りつける。しかし、その攻撃は腕に力が入らないせいで、パシパシと軽い音が鳴るだけだった。悔しい!


 きっと、今頃シュヴァルツ、心配している……。ラインヴァイスだってアイリスだって、ローザさんだって、みんな心配しているはずだ。どうにかして離宮に戻らないと! 油断していたとはいえ、大した抵抗も出来ずに攫われてしまった自分が情けない。こんなんじゃ、何の為にシュヴァルツと実戦訓練をしてたんだか分からない。もう、自分自身が情けなくて涙が……。


「何故……」


「もろせ。もろせぇ!」


 ボロボロと涙を流しつつ、ガイさんを殴り続ける。彼は呆然と、そんな私を見つめていた。


「ほう。もうそんなに元気になりましたか。流石は異界人。我々とは身体のつくりが違いますね」


 レイガスの声が聞こえ、振り返る。いつの間にか開け放たれた扉の前に、レイガスと見知らぬ美女が立っていた。美女の年齢は二十代前半だろうか? 私と同じくらいっぽい。長い金色の髪と青い瞳。スッと通った鼻梁とぽってりとした赤い唇。ゆったりとしたワンピースのような白い服――巫女服から覗く華奢な手足。シミ一つ無い透き通るような白い肌。お人形のような容姿って、ああいう人の事を言うのだろうか?


「ガイ。これがそうか」


 美女がガイさんに問う。鈴の音を転がすような、耳に心地良い綺麗な声だ。ガイさんはその場に片膝をついて頭を垂れると、こくりと頷いた。


「ミーチャン殿も間違いない、と」


「そうか。捜索ご苦労」


「勿体無いお言葉です」


 そう答えたガイさんの声は固かった。これは……緊張? 畏怖? いや、違う。警戒してる。……何で?


「ガイ。下がって良いぞ」


「いえ。ミーチャン殿がアオイ殿の側を離れないと、そう言っております故……」


「ふん。そうか」


 面白く無さそうに答えた美女は、私へと視線を向けた。道具を品定めするような不躾な視線に、かなりイラッとする。何、この女。


「妾はメーアじゃ。力を貸せ、勇者」


 そうか。この女がメーアか。私をこの世界に召喚した犯人は、こんな顔をしていたのか。ず~っと会いたいと思っていた。会って、一発ぶん殴ってやりたいと、そう思っていた。こういうタイプの女で助かった。だって、手加減なんてする必要無いもん。


「お前かぁぁぁぁ!」


 私は叫び、メーアに飛び掛った。武器はハリセンしかない。しかし、今の私が魔鉱石の短剣を持っていたら、間違いなくメーアを刺しただろうから、逆に良かった。


 ガイさんが舌打ちをする。そして、私がメーアに殴りかかる寸前、後ろから彼にタックルされた。顔面をしたたか打つも、興奮しているせいか、全く痛みは感じない。


「野蛮な」


 メーアが冷めた瞳で私を見下ろしている。それが私の怒りの炎に油を注いだ。


「離せぇ! は~な~せぇ~!」


「ぬぉ!」


 のしかかっていたガイさんを撥ね退け、メーアの懐に飛び込む。そして、ハリセンを縦に持ち替えると、メーアの顎目掛けて力の限りそれを振り抜いた。ハリセン特有の乾いた音ではなく、鈍い音が響き渡る。


「お前のせいで! お前のっ!」


「アオイ殿!」


 倒れたメーアに馬乗りになってハリセンを振り下ろす私を、ガイさんが羽交い絞めにして引き離した。メーアは動かない。大方、最初の一撃で気絶したのだろう。このまま放っておけば、目を覚ました頃には顎が腫れ上がり、顔の形が変わっているはず。おたふくのように。ざまあみろッ!


「メーア様!」


 レイガスがメーアに駆け寄り、手を翳す。すると、メーアを包み込むように魔法陣が展開され、淡い光を発した。あの光とパターンは治癒魔術の魔法陣! ちっ! 余計な事をッ!


 メーアの治療が終わったのだろう。レイガスがこちらに視線を動かした。私はガイさんの腕から逃れようと、未だ大暴れ中である。だって、あの女だけは許せないんだ! 一発殴ってやるって思っていたが、二、三発ぶん殴った今も全然気が済まない。もっとボコボコにしてやるッ! 見るも無残な顔形にしてやるッ!


「野蛮人め」


 レイガスは忌々しく呟くと、ガイさんの腕の中で大暴れする私の額にトンと触れた。突如、瞼が開けられない程の強烈な睡魔が襲ってくる。寝たらメーアをボコれないッ! 寝たら駄目だ! そう思うのに、私の意志とは関係無く、瞼が下がってくる。ここで私の意識は途切れた。

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