表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/114

御前試合 2

 御前試合の準備は急ピッチで進められ、とうとう試合開催日となった。一ヶ月程の準備期間で、トーナメント表や優勝賞品なども発表され、城の中は御前試合の話題で持ちきりだったらしい。この一ヶ月、私は限界まで魔術と剣術の研鑽に励んだ。だって、折角出るなら優勝狙いたいし。それに、優勝賞品、絶対に欲しいから。


 優勝賞品は私の案が採用された。豪華馬車での旅にご招待。行き先は、シュヴァルツ達のお母さんが一時期使っていたという離宮。相当豪華な造りの城らしいけど、建物自体にはあまり興味が無い。問題は、その離宮にあるという湖だ。ブロイエさんの話では、竜王城の中に飾ってある、湖と山の絵が描かれた場所で、とても綺麗な所らしい。それに、その湖の近くに、件の絵を描いた画家さんが隠居していたという家があるらしい。画家さん自身は数年前に亡くなっているから、今、その家は無人との事だが、もしかしたら絵の具が残っているかもしれないと、これはシュヴァルツが教えてくれた。絵具がゲット出来、尚且つあの場所の夜の絵が描ける! そう思うと、俄然やる気が出た。ちょっとやそっと辛いのなんてヘッチャラだった。比喩ではなく血反吐を吐いたけど、それだって、強くなる為だって思えて頑張れた。


 朝食を食べ終え、そろそろ着替えようかというところで、いつも通りシュヴァルツが着替えを手渡してくれる。今日はいつものドレス風ワンピースとは少し違うみたいだ。広げてみると、ブラウスみたいなデザインのシャツと、シュヴァルツやラインヴァイス、ブロイエさんが着ている軍服っぽいデザインの洋服だった。勿論、スカートではなくズボンだ。そして、色はリーラの鎧と同じような薄紫色だった。


「シュヴァルツ、これ……」


「ドレスでは締りが無いからな。アオイの騎士服だ。今日はこれを着ていろ」


「うん。ありがとう」


 こういう服をくれるって、何だか認められたみたいで嬉しい。それに、少しこそばゆい。私は騎士服を胸に抱きながらシュヴァルツに頭を下げ、洗面所へと向かった。


 手早く着替えを済ませ、洗面所を出る。すると、既にシュヴァルツの姿は無かった。朝からアイリスもラインヴァイスもいないし、部屋に残っているのはローザさんだけ。この服着たところ、シュヴァルツに真っ先に見てもらいたかったのにな……。


「良くお似合いですね。凛々しいですよ」


「えへへ」


 ローザさんが優し気な笑みを浮かべながら褒めてくれる。褒められて悪い気はしない。私が照れながら頭を掻くと、ローザさんが手で鏡台を示した。


「御髪、結いましょう」


 ああ、髪の毛……。リーラの鎧を身に付けている時、髪の毛は特に邪魔にならないけれど、折角なので結ってもらう事にした。だって、この服装なのに髪の毛を下ろしたままだと締まらないから。折角、シュヴァルツがこういう服を用意してくれたんだもん。髪型だって凛々しくしておきたい。


「じゃあ、お願いします」


 私がそう言いながら鏡台の椅子に腰掛けると、ローザさんがにこりと笑みを浮かべながら頷いた。そして、慣れた手つきで髪をポニーテールのように結ってくれる。あっという間に結い終わり、仕上げに服とお揃いの色のリボンを結んでくれ、ローザさんは出来上がりに満足したように笑みを零した。ゴムが無いこの世界、紐だけでよくここまで綺麗に髪がまとまるよなぁ。この技術、是非とも教えてもらいたい。


「準備が出来ましたら移動しますけれど、忘れた事などございませんか?」


 ローザさんが小首を傾げながらそう問い掛ける。私は少し考え、クローゼットから白マントを取り出した。シュヴァルツから貰った、モコモコのファーが付いた白マントだ。


 まだ夏だし、別に寒いって訳では無い。ただ、こういう服にはマントが必要だと思ったから。それに、これは魔術を防ぐ防具としても使えるらしいし、本気で優勝を狙うには絶対に必要だから。あとは、ヒドラ革のグローブも嵌めて――。


「準備、出来ました!」


「では参りましょう。アナタ。アナタ! そろそろ来て下さい!」


「はーい!」


 ローザさんの呼び掛けに答えるようにブロイエさんの声が聞こえたかと思うと、私達の目の前にブロイエさんが姿を現した。そうか。契約印は旦那さんを呼び付ける事も出来るのか。また一つ勉強になった。今度、私も――。と思ったけど、シュヴァルツを呼び付けるとか、無いわぁ……。


「おお、アオイさん。騎士服似合ってるね。凛々しい!」


 ブロイエさんが私の姿を見て、感心したようにそう言った。この夫婦、何だかんだで似た者同士だ。褒め言葉が一緒。


「えへへ。それほどでもぉ!」


 何度褒められても悪い気はしない。たとえ、それがさっき聞いた言葉だとしても。私は照れながら頭を掻いた。この調子だと、きっとシュヴァルツも褒めてくれるだろう。会場で会うのがちょっと楽しみだ。


「じゃあ、行こうか」


 ブロイエさんはそう言うと、手に持っていた杖に魔力を込めたようだった。杖の先端の魔石に光が灯る。魔術で会場まで移動するのかな? あれ? でも、転移魔術って、術者と一緒に転移出来るの、一人だけじゃ……。私の心配を余所に、ブロイエさんの杖を中心に、床の上に魔法陣が広がっていく。初めて見る魔法陣だ。これ、空間操作術の魔法陣なのかな? うーむ……。魔法陣をよく観察しても、複雑すぎて内容がよく分からない。


「ゲートも開いたし、行こうか?」


 ブロイエさんがそう言いながら、私とローザさんの方へ笑顔を向けた。ゲートという事は、この魔法陣はやっぱり空間操作術っぽい。魔法陣の上に乗るブロイエさんに倣い、私も魔法陣の上に乗った。転移以外の空間操作術見たの、初めてだ。ちょっとワクワクしちゃう!


 魔法陣が強い光を発し、立ちくらみのような浮遊感に襲われた次の瞬間、私は円形闘技場が見渡せる場所にいた。この闘技場は今日の試合会場だ。って事は、ここは私の席……? そう思って周囲を見回すと、見慣れた面々が椅子に腰を下ろし、興味津々といった面持ちで、落ち着きなくきょろきょろとしていた。


「リリー! フランソワーズ! ミーナ! みんなも! 来てくれたんだ!」


 私が駆け寄ると、孤児院のみんなも立ち上がって駆け寄って来た。実は、ブロイエさんとシュヴァルツに許可を貰い、孤児院のみんなへ、御前試合に来てくれるよう招待状を渡していた。魔人族と人族との関係を考えると、断られる公算の方が大きかったけど、駄目で元々と開き直って招待してみた。まあ、リリーとミーナは絶対に来てくれると思っていたんだけど。まさか、みんな揃って来てくれるなんて! 俄然、やる気が出てきたぞ!


「アオイ。この度はお招き下さり、ありがとうございます」


「いえいえ。こちらこそ、来てくれてありがとうございます」


 リリーが代表して私に頭を下げる。私もぺこりと頭を下げた。そして、二人同時に顔を上げ、顔を見合わせて笑みを零した。


「アオイの今日の服、なかなか良いじゃないか」


 そう声を掛けてきたのはフランソワーズだ。彼女は何故か、全身がすっぽりと隠れるような、フード付きの黒いマントを羽織っている。私もファー付き白マントを羽織っているから人の事は言えないが、暑そうな服装だ。巨大てるてる坊主が目の前にいる。


「そ、そうかな? 初めて着たんだけど、似合ってる?」


「ああ。良く似合っている」


「へへ。ありがと。にしても、フランソワーズのその服装、どうしたの?」


 私は率直に疑問を口にした。最近は涼しい日も増えてきて、夏の盛りは過ぎたようだ。しかし、まだまだ汗ばむような日だってある。今日だってそうだ。そんな日に、頭から足首まで隠れるようなマントを着ていたら、どうしたのか聞いてしまうのは人の性だろう。


「き、気にするな」


 フランソワーズは赤くなりながらもじもじしている。何だろう、この反応? はっ! まさか! マントの下は全裸とか? ……んな訳、無いか。変態さんじゃないんだから。


「いや、暑いでしょ? マント、脱いだ方が――」


「む、無理! 絶対に無理だ!」


 赤くなりながらブンブンと激しく首を横に振るフランソワーズを見て、リリーとミーナが苦笑を漏らした。この二人は、フランソワーズのこの変な格好の理由、知っているみたいだ。


「ねえ? 今日のフランソワーズ、どうしたの? みんなお洒落してるのに、何で一人だけこんな格好なの?」


 私は首を傾げながら、苦笑しているミーナに問い掛けた。ミーナはトレードマークの赤い三角巾はそのまま、いつも着ている服よりお洒落な、と言うよりお高そうな赤いワンピースに身を包んでいる。いや、ミーナだけじゃない。リリーも他の子達も、皆普段よりお高そうな服を着ている。一張羅なのかな? お城に招待されたからか、みんな普段よりお洒落だ。


「恥ずかしいんですって。時々、ノイモーント様、フランソワーズに会いに来られるんです。あ! 勿論、ヴォルフ様とフォーゲルシメーレ様も、そういう時には一緒にいらして下さるんですけど。それで、アオイさんから御前試合に招待された事をお話したら、服を用意して下さったんです。フランソワーズのだけでなく、全員分」


 そっか。みんながお洒落しているのは、ノイモーントが気を利かせて服を用意してくれたからなのか。でも、何で一人だけ巨大てるてる坊主になってんの? まさか、このマントを用意したとかじゃないだろうし、ノイモーントってば、いったいどんな服を用意したんだろう……?


「そうなんだ。ノイモーントがねぇ」


「そうなんです。私達の分まで用意して下さるなんて、とてもお優しい方ですよね。女の子の服は、特にこだわって作って下さったみたいで、それぞれ似合う色や、スカートの長さを選んでくださったんですって。フランソワーズの服はその中でも特にこだわって作って下さったみたいで、凄く似合っていて、とても可愛かったんですよ。それなのに、こんな、台無しな感じにしちゃって……」


「……うん? もしかして、もしかして、なんだけど……。フランソワーズってば、今日、女装、してるの? そのマントの下」


「じょ、女装……。ま、まあ、女の子らしい格好をしていますね。髪の毛だって、珍しく下ろしてますし。でも、お城に向けて出発する直前になって、やっぱり恥ずかしいって騒ぎだして……」


「そ、そっか。それでこの格好……」


「この時期にこんな格好している方が、普通は恥ずかしいと思うんですけどねぇ」


 ミーナは残念な物を見る目でフランソワーズを見て、盛大に溜め息を吐いた。フランソワーズは顔を茹蛸のように赤く染め、目に涙を溜めている。穴があったら入りたいって、フランソワーズの顔に書いてある。


「ノイモーントも報われないねぇ」


「私が用意した服を着て来てくれた。それだけでも報われたと、私は思っていますよ。例え、着た姿を見る事が叶わなくとも、ね」


 ノイモーントの声がし、私が弾かれたように振り返ると、苦笑しながら階段を下りて来るノイモーントと目が合った。彼の後ろにはフォーゲルシメーレとヴォルフもいる。彼らは揃って臙脂色の騎士服と黒いズボン、腰には剣といった出で立ちをしており、普段より凛々しい印象を受ける。特にヴォルフ。彼が上半身もちゃんと服を着ているの、初めて見た。


「そろそろ予選が始まります。どうぞ、アオイ様は竜王様の元へ。リリー達は私共が護衛致しますので」


 フォーゲルシメーレが微笑みながら頭を下げた。そっか。私の席、ここじゃないのか。辺りを見回すと、だんだんと空席が少なくなってきている。試合開始に合わせ、人が集まってきているのだろう。


 私がブロイエさんとローザさんの方を振り返ると、彼らは既に魔法陣の上に立っていた。孤児院のみんなが来てくれたから、ブロイエさんが気を利かせて挨拶する時間を取ってくれたのだろう。優しいし、気が利く。流石は宰相さん。これでマイペースなところが無かったら、完璧なのに。


「お待たせしました。時間取って下さってありがとうございます、ブロイエさん」


「いえいえ。シュヴァルツもお待ちかねだろうし、そろそろ行くけど、良い?」


「はい」


 私はみんなに手を振ると、そそくさと魔法陣の上に乗った。一瞬、立ちくらみのような浮遊感が襲い、次の瞬間には別の場所にいた。ボックス席みたいな個室に、椅子が五個用意されている。そのうち一つには既に人が座っていた。見慣れた後ろ姿。


「シュヴァルツ」


 私が名を呼ぶと、彼は立ち上がり、こちらを振り返った。そして、私へ右手を差し出す。私がその手を取ると、自身の肘の辺りに私の手を誘導するように持っていった。エスコートされているみたいだ。初めてのシチュエーションに、私の顔が熱くなる。


「なかなか似合っているな」


 そう言って、シュヴァルツが目を細めた。くぅ! 更に顔が熱くなったじゃないか! こういう場面で微笑むの、やめてよ! 何故だか物凄く恥ずかしい! 慣れない服を見られるのが恥ずかしいっていうフランソワーズの気持ち、今、少しだけ分かったよ!


「んじゃ、ちゃっちゃと始めようかー?」


 ローザさんと腕を組み、そう言ったブロイエさんは、徐に杖を虚空に翳した。杖の先端が光り、虚空に小さな魔法陣が出現する。これも空間操作の魔法陣なのかな? 初めて見る魔法陣だ。


「みなのものー! これより御前試合を始めるー! 己の実力を竜王様にご覧頂く機会であると心得、粉骨砕身、正々堂々、試合に臨むようにー!」


 会場中にブロイエさんの声が木霊する。すると、割れんばかりの歓声が巻き起こった。地鳴りのようだ。この魔法陣、使用者の声を響かせるような魔術なのかな? マイクを使ったみたいになったなぁ。にしても、ブロイエさんの今の話し方、締りが無いと思う。語尾を伸ばすんじゃない、語尾を。もっとこう、威厳のある話し方、出来ないのだろうか?


 シュヴァルツが五個用意してある椅子のうち、中央の椅子に腰を下ろす。私はその隣の席に腰掛けた。シュヴァルツの向こう側にはブロイエさん、ローザさんと続いている。私の隣の一個空いている椅子は、きっとラインヴァイス用だろう。そう言えば、ラインヴァイスの姿が見えない。


「ラインヴァイスは?」


「第一ブロックだからね。下で準備してるんじゃないかなー?」


 私の問い掛けに、ブロイエさんがそう教えてくれる。そっか。ラインヴァイスは第一ブロックなのか。自分のブロック以外、確認してなかった。私は最終ブロックだし、勝ち進んで決勝までいかないとラインヴァイスとは当たらないのか。結界術師の彼に、私の攻撃魔術がどこまで通用するか試したかったのに。お楽しみは決勝までお預けだ。残念!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ