↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/114

御前試合予選 1

 円形闘技場の中央に用意された石のリンクに、見慣れた人影が姿を現した。赤いフワフワの髪が、歩く度に揺れている。アイリスだ。今日は実況をする為か、少しお洒落をしている。いつも通りメイド服とエプロン姿なのだが、フリフリレースがいつもより三割増しになっている。ああいう格好、元の世界で一時、一部の人に流行った気がする。


 アイリスってば、右手と右足、左手と左足が一緒に出てる。ぎこちない歩き方。あ。こけた! だ、大丈夫かな? 泣かないでよ、アイリス。


 ハラハラとする私を余所に、アイリスは何事も無かったかのようにむくりと起き上がると、リンクの中央に立った。そして、ぺこりと頭を下げ、アダマンティンの杖を掲げる。すると、先程ブロイエさんが開催の挨拶をした際に用いた魔法陣と同じものが虚空に浮かび上がった。


「こ、これより、御前試合を始めます。まず、ルル、ルール説明をさせて、いたいた、頂きます!」


 アイリスの声、震えてる。相当緊張しているみたいだ。ああ、大丈夫かな? 失敗して泣かないでよ。心配だなぁ……。


「ええっと、しょ、勝利者は、リリ、リンクの上に立っている者、一名となります。場外や、身代わりの護符が砕け散った場合は、し、しし、失格となります。戦闘不能の際はリタイアも認められていますので、そういった場合は、い、いい、意思表示をしてくだしゃい」


 あ。噛んだ。アイリスってば、赤くなっちゃって、可愛いんだから。今すぐ抱きしめに行きたい。むふふ。


 にしても、場外と護符の大破は失格なのか。この試合で使われる護符って、確か結界術と呪術を組み合わせたマジックアイテムだ。ダメージを魔石へと投影させて、護符の装着者を守る代物。護符が無事な間は肉体に傷はつかないけれど、あれ、痛みはしっかりと感じるんだよねぇ。騎士団での訓練に用いられているらしく、私とシュヴァルツとの訓練にも最近、用いられるようになった。実際の戦闘にも必ずと言って良いほど用いられる、極々一般的な護符らしい。この護符、致命傷クラスの大ダメージを受ければ簡単に砕け散るし、小さなダメージの蓄積でも砕け散る。護符が砕けると肉体の痛みは徐々に消えて行ったけど、砕けた直後は痛みで動けなかった。まあ、RPGでも出てきそうな、身代わりアクセサリーとか復活アクセサリーとかに近い代物だ。


 今回の御前試合は単純明快なルールだ。予選は一対多数、本戦は一対一だけど、どちらにしても、勝つ為にはリンクの上に残り、相手を倒すか押し出すか、か。押し出す方が楽そうだけど、飛行能力があったりする相手だと少し厄介だし、倒すにしても――。


「審判はブロイエ様が行って下さいます。皆さん、良い試合を期待しています」


 アイリスがぺこりと頭を下げると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。アイリスを見守る観客の皆さんの目尻が下がっているような……。最初はどうなる事かと思ったけど、これなら大丈夫そうだ。アイリスが泣いたら泣いたで、観客の皆さんが励ましてくれそう。


「それでは、第一ブロックの予選を始めます。選手の方は準備して下さい」


 アイリスがそう言うと、リンクの上にわらわらと人が集まってきた。その中に、全身真っ白の人影も見える。ラインヴァイスだ。茶色い上着に黒いズボンという出で立ちの人ばかりだから、白ずくめの彼は物凄く目立っている。


 ラインヴァイスはリンクに上がると、アイリスに何か話し掛けたようだった。そして、アイリスの頭をポンポンと軽く叩く。おお。リンク上の人達からどす黒い殺気が! 観客の皆さんからも……。みんな、顔が怖いよ! だ、大丈夫か、この試合……。ちょっと心配になってきた。


 アイリスがこくりと頷き、リンクを後にすると、ラインヴァイスがリンク中央に立った。そのラインヴァイスを、他の参加者が囲んでいる。この立ち位置、他の参加者がラインヴァイス狙いなのがはっきりと分かる。全員で協力すれば、ラインヴァイスがいくら強くても倒せると、そう踏んでいるのだろう。


「では、試合開始ー!」


 ブロイエさんが杖を掲げながら叫ぶと、会場中にその声が響き渡った。開始のゴングは、審判のブロイエさんが担当らしい。


 試合開始の合図と同時に、リンク上の全員が剣を抜き放った。そして、リンク中央のラインヴァイスへと飛び掛る。ラインヴァイスはと言うと、悠然と剣を空に掲げた。彼の剣を中心に、魔法陣が展開される。


「シルト!」


 ラインヴァイスが魔術発動の言葉を叫ぶと、ドーム状の薄い皮膜のような物が出現した。あれは防御障壁だ。初級魔術で習ったなぁ。見た目は薄い皮膜だが、触ってみると、見た目の割に物凄く硬い。物理攻撃をほぼ完璧に防げるという、とても使い勝手の良い結界だ。確か、あれを突破する為には、攻撃魔術で破壊するか、さもなくば――。


「おおっと! ラインヴァイス選手が防御障壁を作り出しました! 三人が障壁にぶつかり倒れています! 他の選手は警戒するように剣を構えています!」


 やはり、他の出場者にとっては、ラインヴァイスが最大の脅威なのだろう。アイリスの実況通り、他の出場者はラインヴァイスの次の行動を警戒して、彼から目を離せないようだ。でも、ラインヴァイスは結界術師だし、他の攻撃手段なんて限られて――。


 私がそう思った瞬間、ラインヴァイスが動いた。いや、正確には彼自身は動いていない。動いたのは魔法陣だ。ゆらりと一瞬ぶれる様に光を発したかと思うと、爆発的に広がっていった。こ、これ……。


「ああ! 防御障壁が凄いスピードで拡大していきます! 防御障壁にぶつかり、選手が次々と弾き飛ばされています!」


 ちょっ! こんな展開あり? 逃げ場も無いのに、どうやってこれに対応しろってのよ!


「最後の一人もリンクの外に弾き飛ばされましたぁ!」


「勝負あり! 勝者、ラインヴァイスー!」


 アイリスの実況に答えるように、ブロイエさんが判定を下す。名を呼ばれたラインヴァイスが剣を鞘に納め、リンクの上で優雅に一礼をすると、歓声と拍手が巻き起こった。


 ラインヴァイスの今の試合、えげつないなぁ。まさか、防御障壁を爆発的に拡大させるとは……。凄い勢いで迫って来る透明の壁に弾き飛ばされるとか、想像するだけでも痛い。弾き飛ばされた人達、リンクの外でぴくぴくしてるよ……。それに、この攻撃、魔術が使えなかったら防ぎようがないじゃん。……あれ? でも、逆に言えば、魔術さえ使えれば防げるのか……。魔法陣の展開をしようとした人もいたみたいだしなぁ……。攻略が完全に不可能ってわけでも無い。でも、圧倒的な試合だった。何でだ? う~む……。


「ラインヴァイス」


「ただいま戻りました」


 私が腕を組みながら首を捻っていると、シュヴァルツの呼びかけに呼応するようにラインヴァイスが姿を現した。恭しく頭を垂れようとしたラインヴァイスを、シュヴァルツが手を上げて制す。


「なかなか面白い試合だった」


「は。ありがとうございます」


「あの戦術、どういう心境の変化だ」


「進むべき道、目指すべき目標を、私に示して下さった方がいらっしゃいましたので。その結果です」


「そうか。誰に、とは、聞くまでも無いか」


「ええ。ご想像通りの方かと思います」


 シュヴァルツとラインヴァイスは顔を見合わせ、フッと穏やかな笑みを零した。この二人が談笑する姿、なかなか珍しい。普段は上司と部下みたいな関係だけど、こうして笑い合っていると、仲の良い兄弟にちゃんと見える。


 ラインヴァイスが私の視線に気が付き、にっこりと可愛らしく微笑んだ。私も微笑みを返す。


「予選突破、おめでとう。ラインヴァイス」


「ありがとうございます。これでも近衛師団長ですからね。予選くらいは危なげなく突破できなくては、皆に示しがつきません」


「それもそっか。にしても、結界って、ああいう使い方も出来るんだね。知らなかった」


「あはは。結界は本来、ああして使うものではないのですけどね」


 ラインヴァイスは照れたように頭を掻くと、私の隣の椅子に腰掛けた。


「この御前試合、色々な戦術を見られる、またと無い機会です。定石通りの者、トリッキーな者。そういった者達と、アオイ様ならどう戦うか、戦術を立てながらご覧頂くと、魔剣士としての戦い方も自ずと見えてくるかと思います」


「うん。みんなの戦い方、参考にするね」


 私がそう答えると、ラインヴァイスが微笑みながら頷いた。ラインヴァイスのこうやって助言してくれるところ、先生って感じがする。しかも、答えをストレートに教えてくれるのではなく、自分で考えさせるスタイルなのが、私としては好感が持てる。シュヴァルツがラインヴァイスに、学校を作って先生になれって言いたくなった気持ち、物凄くよく分かる。……子ども達に囲まれて読み書きを教えるラインヴァイスかぁ。うん。似合う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。