No.4 目移りとピョンタグレープ
僕は彼女を怒らせた。
僕は彼女と学校の中庭で昼休みに一緒にお弁当を食べていた。勿論、彼女の手作り。彼女が出来た彼氏の嬉しいイベントの一つ。〔初めてのお弁当〕イベントが開催されていた。
しかし、嬉しい筈のイベントが、開始一分で〔彼氏、未知の物質と出逢う〕と言う、勇気が試されるイベントにタイトル変更されていた……
先人達の勇気に敬意を払う。現在の食べられるキノコや魚を見つける為には多くの犠牲があったのだ。僕はそれほど味にうるさい訳ではないが、美味い不味いはハッキリ言う方だ。それに、彼女も自信が無かった様子で『これからちょっとずつ上手くなるから』と僕の評価に納得していた。それでもお弁当は全部食べ、『作ってくれてありがとう』と笑顔で彼女に御礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑っていた。
問題が発生したのは、その後だ。中庭で昼食を食べていたのは僕達だけでは無く。他にも数人の生徒が昼食を食べていたのだが、僕達から少し離れた場所で昼食を食べていた三人の女子の内、体育座りをした女子のスカートの中が、丁度、正面いた僕に見えていた。
男の本能。性とでも言うのか、まあ、目が行くよね。普通だよね。仕方無いよね。
……でも、タイミングが悪かった。彼女と話している時に目が行ってしました。彼女は僕の視線を追うと、写真でも撮る様に笑顔でVサインを見せ。彼女の白い指先が僕の目に勝利する……
「……と言う訳なんだ」
「アハハハハハハ……それで帰りも一言も口を聞いてくれなかったのか?」
「……うん」
「アハハハハハハハハハハ……」
僕達以外、誰も居ない砂浜で大笑いをするオジサンと並んで、砂浜のコンクリートブロックに座る僕は、昼休みの出来事をオジサンに話していた。
「まあ、飲め」
そう言ってオジサンはポケットから缶を二本取り出し、一本を僕に渡す。今日はピョンタグレープだった。御礼を言って一口飲む。やっぱりこのグレープ味が一番好きだな。
「……まあ、男として気持ちは分かるが、タイミングが悪かったな。彼女が怒るくらい、余程、真剣に覗いていたようだな?」
「そっ、そんな事ないよ!」
慌てる僕にオジサンは、また笑い声を上げる。
「ククッ……それでは少年の今後を危惧して、一つ話しをしよう。浮気と二股。少年はどう思う?」
「……何だよ。その質問? 浮気と二股って。僕はしないぞ! 彼女に失礼だろ?」
「話しの最中に他の女子のスカートを覗いてた奴が強気だな?」
そう言われると、強気に出れない。少しムスッとして、オジサンの話しの続きを聞く。
「私の知り合いの女性が付き合った男性に言ったそうだ。『私と付き合うなら、浮気はいいけど、二股は駄目よ』と、これは、その女性の考え方であって、全ての女性が同じ考え方では無いからな? 勘違いするなよ。少年」
オジサンは頷く僕を見て、話しを続ける。
「その女性が言うには、浮気は自分の方が優位だから、いいが、二股は平等だからイヤだそうだ。精神的な問題だな。その相手の中で自分の占めるパーセンテージ。割合が他の女性より多いのなら気にしないが、二股は等価値。自分対他の女が、五十対五十は許せないそうだ。勿論、それ以下は尚更な………だが、これにはもう一つ。別の意味合いが隠れている。人間、悪い事は駄目だと言われると、ちょっと、やりたくなるだろう? だが、やってもいいと言われると、疑ってしまい。手を出さない場合が多いのだ。不思議な話しだ。女性の相手の男は二股は勿論、浮気もしなかったそうだ。相手の男に言わせれば、『面と向かって浮気してもいいと言われると、かえって浮気しにくいし、自分の事を信用していると思って、浮気する気が起きない』だ、そうだ。つまり、その女性は相手の男に、『私は貴方がちょっとくらい浮気しても、ずっと愛してる心の広い女なのよ』とアピールしているのだ。人の心理を上手く突いた作戦だな? 最も私に言わせるならば、『一人の女も満足させられないのに他の女に構っている余裕はあるのか?』と言う処だ。このピョンタも沢山種類はあるが、結
局はグレープが飲みたくなる。自分が一番好きなのに、たまに違う味を見つけると、手を出してしまう。人間は元々浮気症なのかもな? 少年はどうだ? 変わらないで一つの味を追い続けられるか?」
ニヤリと笑うオジサンを見てから、僕は手に持つピョンタの缶を見る。
僕はまだ自分の好きな人を見つけたばかり、代わりなんていない。たった一人を、これからずっと変わらず好きでいたいから、彼女に何度も謝ろう。
僕は缶を傾け、一気に飲み干す。
「オジサン。ご馳走様」
「お粗末様だ。少年、一つアドバイスだ。怒っている女性に謝る時は、謝る他に、相手の良い処を誉めたり、謝罪として食事やデートに誘うと誘い易いぞ。デートはまだだろう?」
「……試してみるよ。ありがとう。オジサン」
ニヤニヤ笑うオジサンに別れを告げ、僕は砂浜を後にする。
夜にでも彼女に電話しよう。精一杯謝って、許してくれたら、デートに誘ってみよう。
夕暮れの県道を歩き出しながら、僕は、彼女の怒った顔を思い出し、どんな風に謝るかシュミレーションを開始した。