No.3 オジサンと乾杯
僕は今日、彼女が出来た。
昨日、告白された返事を、朝の公園で待っていた女の子に伝えると、その両目から涙を流し、嬉しそうに笑っていた。
そして、昨日、砂浜で出逢い。僕の背中を押してくれたオジサンにその事を伝えようと、学校からの帰り道、僕は今日も砂浜にやって来た。
砂浜に着いて、辺りを見回すが、近所の小学生が数人遊んでいるだけで、オジサンの姿は見えなかった。
(……折角、御礼が言いたかったのにな……)
「どうした、少年?」
突然、後ろから声を掛けられ慌てて振り向くと、あのオジサンが、僕の後ろに立っていた。驚く僕を気にせず、オジサンはコンクリートブロックに座ると、此方を見る。
「何だ? 昨日の相手にフラれたのか?」
少し悲しそうな顔をして僕を見るオジサンに、首を振り、オジサンの前まで歩いて頭を下げる。
「オジサン、ありがとう。僕、彼女と付き合う事にしたよ」
笑顔でオジサンに今朝の報告をすると、オジサンは隣のブロックに手を向け、僕に座るように勧める。それからコートのポケットから缶を二つ取り出し、昨日と同じように僕に一つ渡してくれた。
「受け取れ、御祝いだ」
昨日の事もあり、僕が缶を確認すると、『甘酒』だった……
「御祝いに酒はつき物だからな」
ニヤリと笑うオジサンに曖昧な表情を向け、オジサンと缶を軽く合わせてグビグビと甘酒を飲む。
微妙な甘さと米の粒の食感が何とも言えない。半分程飲み、オジサンを見ると、缶を逆様に傾け、一気に飲み干していた。
「……ねぇ、オジサン。あの娘は僕の何処が気に入ったのかな?」
ポツリと僕が呟くと、缶を傾けたまま、チラリと目だけ此方に向け、僕を見る。
「……ズズッ……少年は彼女の何処が気に入ったのだ?」
甘酒を飲みきったオジサンは、逆に僕に質問してくる。昨日、告白されたばかりで、まだ何処が気に入ったかなんて分からない。僕が悩んでいると、オジサンが海を見ながら話し始めた。
「これから付き合い始める若者にアドバイスをしよう。少年はスカート捲りをした事があるか?」
……このオジサン、何言ってんだ? 付き合うのとスカート捲りに関係あんのかよ?
「俺が若い時、小学生の時だったかな? 毎日スカート捲りしていた。日本の男子はスカート履かないだろ? 女の子が何であんなの履いてるのか不思議でなぁ。知的好奇心ってヤツだ。毎日毎日捲っていたらな、同学年の女子は全員捲って、コンプリート。上級生まで捲り始め、二百人位捲る内に、その日最初に捲る女の子にある共通点がある事に気付いた。……それは脚だ! 脚のラインが綺麗な女子を俺は最初に捲っていたんだ………その時、気付いたよ。俺はスカート捲りが好きじゃなくて、脚を見るのが好きなんだと!」
……このオジサン、アホだ……駐在さん、呼ぼうかな?
「それから俺は脚の綺麗な女性が好きになった。……相手の全部を好きになれとは言わない。何か一つでも好きな処があれば、相手をずっと好きでいられる。それが脚でも胸でも顔でも性格でもな。手紙の相手は少年に告白する程、少年の何かに魅力を感じた。少年も彼女に告白された時、彼女の何処かに魅力を感じた筈だ。そうでなければ彼女になどしないだろう?………少年は彼女の何処が気に入ったのだ?」
アホなオジサンが何だか格好良く思えてきた………相手の好きな処を見つける………か。
今朝から彼女になったあの娘の事を思い出す。
「……真っ直ぐな処かな?」
僕の返事にオジサンが微笑む。
「おめでとう。少年。これから彼女の好きな処を、一つずつ増やしていけば良い」
そう言ってオジサンは、空の缶を僕に向ける。僕がその缶に飲み掛けの缶を軽くぶつけると、コン。と軽い音が砂浜に響く。
「ありがとう。オジサン」
夕陽に染まり始めた砂浜で、僕とオジサンは二度目の乾杯をした。




