世界がバグっても腹は減る
初投稿です!
魔法が使える異世界で、あえて物理演算をハックして飯を食う物語を書いてみました。
低レイヤー知識がある主人公が、どうやって異世界を「デバッグ」していくのかお楽しみください!
「システムエラー:物理演算書き換えを確認」
視界のど真ん中に、鬱陶しい赤いウィンドウが浮かぶ。
「……またかよ」
どうやらまた、どこかの設定ファイルを触ってしまったらしい。無意識で。
俺はそれをスマホの通知を払うみたいに指で弾いた。
視界がクリアになる。
代わりに広がっていたのは、横に流れる川と、斜めに立つ森、それから空に“落ちていく”岩だった。
半年前までは、俺だってこんなことはできなかった。
この『エテルナ』で生まれ育った、ごく普通の十六歳。
魔力量も平均、剣術も平均、成績だってまあ中の上くらい。
周りからは、俺の成績を基準にされることもある程度には“普通”。
そんな俺が“壊れた”のは、十六歳の誕生日だ。
あの日、頭の中に突然流れ込んできた。
前世の記憶。
ラノベと、ゲームと、低レイヤー技術に人生の大半を溶かした、救いようのないオタクの記憶が――今の俺の武器だ。
「まあ、こういう時はチートで無双するのがテンプレだよな」
そんな俺は今、大ピンチである。
腹が空きすぎて死にそうである。
正確には、あと数時間で本当に倒れる気がする。
魔物の森に来てから、食料と水は三日前に尽きた。
見渡す限り、木、木、木。あと空。
「どうすればいいんだよ……」
ラノベならこのあと、仕方なく魔物を狩って――
「うめぇ……!」ってなる展開だろ。
なのに。
「いないんだよな、魔物が」
最初の方は、うんざりするほどいた。
なのに森の中央に近づくほど、気配が消えていった。
……まるで、何かから逃げるみたいに。
昨日の朝から、一匹も見ていない。
「……いや待て」
ふと、思い出す。
「俺、世界いじれるんだったな」
「……もう限界だ、肉ならなんでもいい」
その時だった。
茂みを割って、猪を巨大化させたような魔物が一直線に突っ込んでくる。
「悪いな、今それどころじゃないんだよ」
反射的に剣を抜き、首元を下から上へと切り裂く。
血飛沫と共に、魔物はそのまま地面に転がった。
「……いや、今のじゃ足りないな」
もっとデカいのが欲しい。
視線を上げる。
「お、いるじゃん」
巨大な岩の影から現れたのは、この森の主とも言える存在――『キング・ベア』。
立ち上がれば五メートルはあろうかという巨体。鋼鉄のように硬い毛皮。
本来ならBランク冒険者パーティーが相手をするレベルの化け物だ。
だが――
空腹の俺にとっては、ただの“巨大なステーキ”にしか見えない。
「さて、どう料理してやろうか。……まともにやり合うのは、面倒だな」
俺は空中に指を走らせる。
見えないコンソールを開き、この世界の『物質生成』の関数を呼び出す。
引数に指定するのは 『鋼鉄の長剣』。
「ループ処理:回数10。座標指定、急所全点 実行」
シュッ と風切り音がした。
キング・ベアが咆哮を上げる暇すらなかった。
頭上、背後、左右。
虚空から唐突に現れた十本の長剣が、寸分の狂いもなくその巨体を貫く。
「……あ、座標計算ミスった。一本、尻に刺さってる」
常識的に考えて、魔法で空中に剣を生成して突き刺すことは可能だ。だが、それにはとてつもない魔力量と、緻密な魔力制御が必要になってくる。 そんな優秀さを、俺が持っているはずもない。
俺がやったのは、魔法なんて高尚なものじゃない。 ただこの世の理(物理演算)を少しだけ壊して、魔物の数センチ上に剣を「置いた」だけだ。 あとは重力が勝手に仕事をして、剣が自由落下で奴を貫く。
「……っ、やっぱ来るか」
頭に、ズキリとした鋭い痛みが走る。 無理やり世界の数値を書き換えた反動――いわゆる、脳のオーバーヒートだ。 出力は最大だが、それを制御する俺自身の『器』がまだ追いついていない。
「理論上は百本くらい一気にいけるはずなんだけどな……十本でこれかよ」
膝をつきそうになるのをこらえ、俺は仕留めた獲物へと歩み寄る。 魔物の返り血が、斜めに立つ森の木々に飛び散っている。 ハックは成功したが、戦闘としては三流だ。もし最初の一撃で仕留め損なっていれば、今頃俺のほうが肉塊になっていただろう。
「ま、倒せたから結果オーライだ。……さて、問題はここからだ」
俺は倒れたキング・ベアの、岩のように硬い毛皮に手を触れる。 普通に解体しようとしたら、俺の安いナイフなんて一瞬で折れるだろう。
「どうしようかな..とりあえず、いじってればどうにかなるか」
空腹で鳴る腹の音をBGMに、俺は再び、世界の裏側に手を伸ばした。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
初投稿なので拙い部分もあるかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回はついに「異世界バグ飯」編に入ります。
物理演算をいじった料理、ちゃんと美味しくなるのか……?
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