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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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23/26

冗談にならない冗談

――篠原がやってきて二日後、再び事件が起きる。


迷宮から疲れ果てて、真央たちは戻ってきた。


普段なら、迷宮の圧に押しつぶされていた体が、外へ出た途端に軽くなり、

そのまま“飯を食べに行く日常”へ戻るはずだった。


だが今日は違った。

迷宮の外で警備していた兵士たちから、

「先ほど来訪者が現れた」と告げられ、飯どころではなくなった。


「来るとは思っていても、実際に来られるとマジでつらい・・・」


教会へ向かう道の途中、真央が弱々しく吐き出す。

篠原の件が、その思いを呼び起こすのだろう。

彩乃が背中を軽く叩いた。


「私たちがいるよ!!」


「そうそう~、イチゴに任せろ~」


イチゴの言葉に、真央と彩乃は

“いや、それは…”という顔をした。


教会裏へ着くと、すでに場は落ち着きを取り戻していた。

そこに篠原がいた。


「あ、あそこ・・・」


彩乃が篠原を見つけて指をさす。


三人が近づくと、近くにしゃがみ込んでいる制服姿の女が二人いた。

お互い抱き合って泣いている。


真央たちに気づいた篠原が手を上げ、口を開いた。


「立花、迷宮から戻ったんだね・・・」


「ああ・・・

――それで、彼女たちが・・・?」


真央たちが二人を見つめると、篠原が答えた。


「そうだよ。

・・・予測通り、同級生だった。

“榊原雫”さんと“朝比奈由宇”さん。


――彼女たちも成績上位者だね。」


彩乃が二人に近づき、そっと肩を抱く。


「二人とも、大丈夫・・・?」


二人は彩乃の存在に驚き、そのまま抱きついた。


「柏木さ~ん!」

「ホントに柏木さんだ! 篠原くんの言った通りだ~!」

「うわあぁ~~~~ん!!」


再会の涙がさらにあふれた。


―――


二人を連れて門番亭へ移動する。


テーブルは彩乃たちに任せ、真央はカウンターの方へ歩いていった。

コロナは肘をつきながら、まだぐずっている二人を心配そうに見ている。


「あの子たち、来訪者なの?」


真央は前回のことがあったので、頭を下げた。


「今日は騒がないようにしますんで・・・」


コロナが続ける。


「あんた達みたいな子供に怒ったりしないよ!

好きなだけ騒いでかまわないさ。


前回はヒステリックだったから屋上に追いやっただけだよ。

ねえ?」


コロナはカウンターの中にいる旦那のエルドンに目を向ける。


「ん。」


エルドンは、ほとんど喋らないまま頷いた。


「ごめんね。この人、ほとんど喋らないから。」


「初めまして。真央です。」


「ん!」


「・・・えと・・・」


「名前ぐらい言いな!

ほんとにもう・・・旦那のエルドンさ。」


「よろしくお願いします。」


「んっ!」


そう言うと、エルドンは厨房へ戻っていった。

真央は頭を掻いて苦笑する。


コロナは彩乃たちの座るテーブルへ目を向けた。


「来訪者、増えてきたね・・・しかも今回は女の子二人か。

こりゃ、この先どうなることやら・・・」


「・・・すいません。」


真央は、自分が原因だという思いもあって、コロナに頭を下げた。


「なんでマオが謝るんだい?

ウチは商売繁盛でありがたいってもんだよ。」


コロナは真央の腕をバシバシ叩く。


「ん。」


エルドンが厨房から戻ってきて、カウンターに大皿のパスタを置き、

顎をクイッとテーブルの方へ向けた。


「“泣いてる子に食べさせろ。おごりだ”ってさ。」


コロナが代わりに言う。

エルドンはうんうんと頷いた。


「えっ・・・」


真央は、夫婦ってすごいんだなと感心した。


「取り皿は飲み物と一緒に持ってってやるから、この大皿持っていきな。」


「はい、ありがとうございます。」


パスタの大皿を持って、テーブルへ戻っていく。

エルドンはカウンターに肘をつきながら、手をひらひらと振っていた。


「マオはなんか抱え込んでるもんがあるね・・・」


「ん〜…」


コロナはそう言いながら、取り皿とスプーンとフォーク、

それから飲み物をサービングトレイに乗せていく。


真央がテーブルに大皿を置く。

その皿に彩乃が目を輝かせ、手を細かくぱたぱたと叩いた。


「ベーコンのトマトパスタ!! 美味しそ~!」


榊原と朝比奈は、その彩乃に驚いた顔を向ける。


「落ち着いて、彩乃さん」


真央が制止すると、彩乃はムゥ…という顔になった。

真央は両サイドに座る彩乃とイチゴを紹介する。


「じゃあ、改めて・・・

オレは立花真央。知ってると思うけど、柏木彩乃さん。で、山下一護。

他にもいるけど・・・今は死んでるから・・・」


「えっ!? 死んでる?」

「ど、どういう・・・?」


二人が驚いたところで、彩乃が右肘を真央の脇腹に突き刺す。


「ゴフッ!!」

「こら、ゲーム脳! ちゃんと説明しろ!」


真央が脇腹を押さえて悶絶していると、

コロナが笑いながらやってきて、取り皿と飲み物を配った。


「アンタたち、ホント仲いいわね。

お嬢さんたち、私はこの店のコロナよ。

よろしくね。」


「あ、は、はい。」

「よ、よろしく・・・お願いします・・・」


二人は初対面のコロナに、少し引き気味だった。


「じゃ、じゃあ、飯食べながら、色々説明するよ。」


真央がそう言うと、すぐに彩乃が立ち上がり、

パスタを自分の皿へと取り分ける。

ついでに、ほんの少しだけ真央の皿にも乗せた。


イチゴがそれを見て、ケラケラと笑う。

彩乃は席に戻り、フォークにパスタを巻きつけていく。


「あ、彩乃さんって・・・そんなキャラだったの?」


榊原が苦笑しながら言う。隣の朝比奈も唖然としていた。

二人の顔には、先ほどまでの暗さがまったくなかった。


「そうねえ〜、地はこれだったのかも・・・

確かに向こうじゃ隠してたわね・・・

この世界に来て、弾けた感じかしら?」


そう言って、パスタを口いっぱいに頬張った。


「わ、私たちも食べよう!」

「う、うん!」


二人も自分の取り皿にパスタを盛っていく。


「僕なんて、柏木さんにはビンタ食らったんだよ。」


「「えっ!?」」


篠原の告白に、二人は目を丸くした。


「・・・これ、どうぞ。」


隣の席の榊原が、盛り終えた皿を篠原へ差し出す。


「あ、ありがとう。」


篠原は自分の取り皿を押し、榊原の方へ滑らせた。

榊原はそれを受け取り、パスタを盛りながら尋ねる。


「・・・篠原くんも、なんか雰囲気変わった?」


隣の朝比奈も、榊原の肩越しに身を乗り出して何度も頷く。


「え? そうかな? 二日で変わるとは思わないけど・・・

でも、この世界は遠慮なんてしてると損する気がするんだよ。」


榊原が席に戻り、フォークを手に取る。


「この世界が楽しいの?」


「もう夜だから一部しか見えないけど・・・

「明るくなった世界を見たら、人生観は変わるかもね。」


篠原はそう言うと、一度フォークを皿に置き、両手をテーブルに広げて

目をキラキラさせながら遠くを見つめた。


朝比奈はその視線の先を追うが、何もない。

もう一度篠原を見ると、まだ遠くを見ているので、もう一度そちらを見る。


「直ちゃんは今〜、眼鏡を作ってるんだもんね〜。」


「え? 眼鏡?」

「あ、そういえば眼鏡がない。

だから雰囲気が違うのかしら?」


篠原はその言葉にガクッと肩を落とした。


「見た目なのかよ・・・」


「そ、それで、眼鏡作ってるって?」


「ああ。この世界に来た時、眼鏡してなくてさ・・・

この世界にも眼鏡はあるけど、こんなのだから・・・」


篠原は棒を持つような手つきで、顔に当てる仕草をした。


「なにそれ?」

「視力検査?」


「ほら〜、やっぱり分からないよね〜」


イチゴがケラケラと笑う。


「中世時代の、あの眼鏡の格好してるんだってさ。」


真央がパスタを食べながら説明した。


「あ〜、あれか。」


朝比奈は気づいたが、榊原は首を傾けて想像している。


「まあ、眼鏡の話は置いといて・・・二人は朝に召喚されたの?」


真央が尋ねた。


「召喚・・・?」


「この世界に来る前、向こうの時間って覚えてない?」


「わ、私は朝ご飯食べてる途中だった・・・」と朝比奈。

「私は・・・朝食前に・・・洗面所で日焼け止め塗ってた気がする・・・」


「今回は朝か・・・だから二人とも制服なんだ・・・」


「あ、夏服だ」

「あ、ホントだ」


真央の言葉に、彩乃とイチゴが反応する。

自分たちは衣替え前だったので、夏服になっている二人に驚いた。


「やっぱ、時間軸が狂ってるのかな・・・?」


「立花、それって、この間言ってた話?」


篠原が尋ねる。


「う〜ん・・・オレたちはまだここに来て半月ほどだから、

そんな気がするって感じだけどね。」


「榊原さん、朝比奈さん・・・二人は誰かに恨まれてたってことない?」


彩乃がフォークで順に指しながら尋ねた。

上目遣いで会話に参加していた二人は、食べる手を止めて顔を上げる。


「恨み・・・?」


「うん。篠原くんもそうなんだけど・・・

この召喚は、とあるゲームに名前を書くと、その人がこの世界に来ちゃうのよ。」


二人は篠原を見る。


「僕もここに来て気づかされたんだけど、

そのゲームが立花のタブレットに入っていて、

そのタブレットを誰かが手に入れて、意図的に僕らの名前を書いた。」


「オレたちは〜、真央が書いたからここに来ちゃったんだ〜」


イチゴの説明に、真央は食べてたパスタが喉に詰まってウッとなる。

篠原が続けた。


「つまり・・・

立花がこの世界に来た時点で、召喚は終わらなきゃいけなかったんだ。

それが続いてるってことは、誰かがそのタブレットを手に入れた。」


「だから、恨みか・・・」


榊原が指を組んで考え込む。


「あるとすれば・・・」と朝比奈が口を開いた。


「「「!!」」」


全員が一斉に反応する。


「わかるのか!?」と篠原。


皆の真剣な視線に、朝比奈は両手を前に出して振った。


「たんなる予測だよ。手に入れたやつは分からないから・・・」


「それで、予測ってのは?」


篠原が促す。


「この三人じゃん。篠原、雫、あたし。学年トップ3だよ。」


「そうか・・・成績・・・」


「直ちゃ〜ん、どういうこと〜?」


イチゴが尋ねる。


「恨みがあるとすれば、成績を競い合ってる誰かだよ。

でも、僕たち・・・そんなギスギスした雰囲気ないよな?」


篠原は隣の二人を見る。


「確かに・・・学校の成績ってあんまり気にしてないね。

模試の判定だけは気にするけど・・・」

「そうね〜」


朝比奈はフォークを咥えながら言い、榊原も頷いた。

その会話に真央が呆れる。


「君たち、オレたちから見たらそれは変だぞ。」


「何?」


榊原が尋ねる。


「順位が下から上位を見たら、そりゃ普通に嫉妬はあると思うぞ。」


「そうね・・・嫉妬って、簡単に生まれるわ。」


彩乃が続ける。


「いやいや・・・そんな馬鹿な・・・僕たち人間同士だよ?」


「そ、それ。人間って黒い物あるのよ。

妬み、嫉妬、悪魔がささやくの・・・“契約しろ”って」


三人は彩乃の言葉に息を飲んだ。


「彩乃さん、それラノベの話じゃないよね?」


真央が頬杖をついて尋ねる。


「バレたか。」


彩乃は舌を出してとぼけた。

真央が苦笑し、イチゴがケラケラと笑う。


「ははは・・・・・・」


三人の口からこぼれたのは、乾いた笑いだけだった。

彩乃の冗談が、冗談に聞こえなかったのだ。


三人の乾いた笑いは、どこか“思い当たるもの”を含んでいるように見えた。


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