仮面王子と剣術バトル〜オジョウサンノ、ナゾ、ナゾル〜
「戦う! ぼくは、貴方と剣術で戦う!」
考えるよりも先に即答していた。
「本当に? 俺は剣術検定一級保持者だが——」
「負けないッ!」
ぼくはニコくんのベッドから大急ぎで跳ね起きると、部屋の片隅へ駆け足で移動し、壁に置かれていた剣を手に取った。
シュッシュ……! と素振りで剣を十字に振ってから、仮面を付けたお兄さんの方を振り返り、戦う意志を固める。
お兄さんも、ぼくが目を離した一瞬の隙に、銀色の剣を左手で構えていた。
「わかった。俺に負けたら、見せてもらうか。君の全てを」
(ぼくの全てって……もしかして! アザのことを言っているの?!)
心当たりしかないから怯んでしまいそうだったけれど、恐怖心よりも負けたくない気持ちの方が上回っていた。
「じゃあ、ぼくが勝ったら、ニコくんを元の世界に戻して!」
「俺に勝てばな……」
カキンッ——!
お互いの刃が激しくぶつかり合う。
最初の衝撃だけで、手のひらにジンジンと重みが伝わる。
(この感触! ニコくんのお兄さんは……強い!)
だが、同じ一級保持者のダン先輩と、攻撃の型が全く異なるタイプだ。
ダン先輩は力任せで豪快な動きが多いけれど、お兄さんの剣筋は精密機械のように正確無比で無駄がない。
「ふーん、考え事をしているな」
「作戦を考えてたから……!」
「集中しろ、お嬢さん」
いきなりの指摘に、ぼくはムスッと口を膨らませる。
(挑発に乗ったらダメだ! 冷静に!)
ゆっくり息を吐き、両手で握った剣を左から振り抜こうとした、その瞬間。
キィイイン!
甲高い金属音と同時に、お兄さんの剣がぼくの動きを遮る。
「君は左から攻撃する癖があるな」
「ぁっ……!」
(うわぁー、当てられたっ!)
ぼく自身、この癖は良くないと、痛切に感じていた。
けれど、右からの攻撃だと、左胸に隙ができてしまう。
ぼくの場合、左胸に王族のアザがある。
さすがに、「第一王女」だという事実がバレるのはマズいから……。
(この癖は仕方ないんだ、直せるのなら改善したい……って、今は目の前のことに集中しないと!)
気持ちを切り替え、一歩後ろへ下がり、間合いを取ろうとしたところで——。
「次は距離を取るのだろう。不利だと思ったら」
「い、言わないでっ!」
お兄さんはわざわざ声に出して、ぼくの動きを誘導した。
悔しい……けれど、弟のニコくんと同じように口が達者だ。
(すごいっ! 本当に兄弟なんだ!)
ぼくだって負けたくない。
言い返したい!
「貴方はニコくんにそっくり!」
「……!」
刹那、お兄さんの動きが止まった。
僅かな時間であっても稼げたのは大きい。
ぼくの剣が、お兄さんが被っていたハットのツバに触れた。
今度はお兄さんが後ずさる。
「違う。似てない。俺とニコは……」
ハットのツバと仮面に手を当て、首を何度も横に振るお兄さん。
「どうして否定するの?」
「本当のことだからだ。ニコは俺と血の繋がりがない——養子だ」
カキィン!
お兄さんが鋭い音を立てながら、攻撃を再開する。
ぼくもその重い刃を受け止めながらも、話を続けた。
「でも似てるんだ、お兄さんとニコくん!」
「どこが似ている?」
「二人とも、ふーん、ってすぐに言っちゃうところ!」
「たまたま俺と同じ口癖だったんだろう」
「あっ、一人称も同じ『俺』!」
「偶然だ。それよりも、今は俺と戦うんだろう?」
その通りだ。
ぼくは剣をクイッと握り返す。
「もちろん! 戦うけど、これだけは言いたい! 素直じゃないところも、本当は優しいところもそっくり!」
つい大声で張り切って叫ぶと、お兄さんが「ふっ!」と吹き出した。
(えっ、笑った?!)
「くくっ……」
未だにお兄さんはツボに入っていた。
チャンス!
「お兄さん、ごめんなさいっ!」
謝りながら、ぼくは勝負を仕掛ける。
剣を持ち直し、前方から思いっきり飛んで、相手の手から剣を弾き飛ばそうと、絶え間なく攻撃を繰り返す。
しかし、何度攻めても、お兄さんの守りが堅い。
このままだと、ぼくの手から剣が滑り落ちてしまいそうだ。
(しっかり握ることを優先。全身に力を込めないと……負けちゃう!)
最近コンプレックスになりつつある、重たい下半身だけど、むしろ今はぼくの重心をしっかり支えてくれていた。
ひたすら刃をぶつけ合って、数十分が経った。
「お嬢さん、もしや君も。いや、もう聞かないでおこうか」
「はぁ……はぁ……っ!」
「よく頑張った。体が限界だろう。この性差による疲労は、努力で解消できるものではないさ」
情けないことに、ぼくは大量の汗をかいていた。
体力の消耗が激しい。
「休憩させてください……」
ぼくは床にぺたんと座り込み、剣を辛うじて構えたまま、両手を合わせてお願いした。
一方のお兄さんは息を切らさず、優雅に歩き、ぼくの前でしゃがみながら、手を伸ばした。
「レディファーストだよ、お嬢さん」
「今のぼくは男として生きているから、お気遣いは不要!」
差し出された腕を、またしても、ぼくは拒絶し、プイッとそっぽを向く。
「ふーん、本当に面白いお嬢さんだ。そのたわわな体つきで男というのは無理があると思うが……」
お兄さんは、ぼくの身体を頭のてっぺんから足の爪先までじっくり見つめるだけでなく、ありえないことに、ぼくの胸元を指差す。
ぼくは慌てて右手に剣を持ち替え、前屈みになりながらも、左手で胸元を隠した。
「エッチ! ジロジロ見ないでっ!」
「はぁ。最初から素直に、俺の手を握っていれば良かったのにな」
「嫌っ! ニコくんだけ残すのは、不平等だ!」
「……そこまで言うのなら致し方ない」
お兄さんが再び剣を握り、ぼくの胸元を狙って、剣先を向ける。
(胸はダメっ……! バレてしまう、ぼくが第一王女ってことが!)
大急ぎで立ち上がり、体を素早く回転させ、後ろを向くことで精一杯だった。
その反動で足元がおぼつかない。
ぼくは立っていられず、しゃがみ込んでしまいそうになった。
だけど、お兄さんが背後から右手で、ぼくの腰を抱え込むように支えてくれた。
本当は先に「なんで助けてくれたの?」って聞こうと思っていた。
なのに、背後にいるお兄さんの方が明らかに動揺していた。
なぜか、ぼくの背中に目を奪われている。
「あぁ……なんてことだ。どうして、そこに……ホクロがあるんだ……」
カラン……。
とうとうお兄さんが持っていた剣を床に落とした。
(今だ。ここで決めるんだ!)
「ご覚悟をっ——!」
ぼくは思いっきり片手で剣を円を描くように背後に振りかざす。
パキィン——!
仮面が割れた音と同時に、床に破片が散らばっていく。
ぼくは思いついた。
今、後ろを振り向けば、お兄さんの素顔がわかるはずだと。
でも、それは叶わなかった。
今度はお兄さんが左手でぼくの腰を強く引き寄せ、もう片方の手の指先で、ぼくの右肩甲骨あたりを何度もなぞっていたから。
「いやぁ……!」
「俺の方を見るな……君の勝ちだと認めるから……」
「えっ、本当に?」
嬉しい。ぼく、勝ったんだ……!
<余談>タイトルについて
・オジョウ→オウジョ→王女
・サン→第「3」王子
・ノ→第「一」王女
・ナ→「十」字と第「十」王子(サラちゃんにとって、お兄さんのような存在であるアダムさん)
・剣術バト「ル」とナゾ「ル」→従魔「ルル」
・ナゾ→第一王女の正体に関する「ナゾ」
・ナゾル→ホクロを「なぞる」
♡ᕱ⑅ᕱ次回もお楽しみにᕱ⑅ᕱ♡




