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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで
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お姫様は偽りたい〜仮面王子は見逃さない〜

 ニコくんがぼくのことを力強く抱きしめていた。


 ニコくんは筋肉質だ。

 全身の体重がぼくの体にかかっているせいか、とても重たい。


 このままだと、ぼくはぺたんこになって消えてしまうかもしれない。


「うぅっ……苦しいよ……潰れちゃう……!」

「……わかった」


 気まずさを感じながらも、ニコくんがぼくのことを解放してくれた。


 その際、モフモフした狼の尻尾が、手の甲に触れた。


「ひゃぁあ! くすぐったいっ……!」


 ぼくは鳥肌が立ち、身を翻して、胸を隠す。

 さっき、ニコくんに指摘されたことを思い返して。


 ぼく自身、本当は認めたくない。

 けれど、男の子のニコくんと体つきが全く違うから、嫌でもわかってしまう。

 

 例え、男として生きていくと覚悟を決めていようが、ぼくの身体は紛れもなく女の子なんだ。


(かといって、このまま流されたらダメだっ……!)


 ネガティブに考えるよりも、解決策を見出さないと。


 狼男のニコくんに勝てる方法は何だろう?


(あっ! そういえば、狼といえば……!)


 小さい頃に、オーちゃんが読み聞かせしてくれた絵本で、『狼の弱点はお腹で、くすぐると言うことを聞いてくれる』と書いてあったのを思い出す。


 かろうじて、今のぼくとニコくんの間には、リンゴ一個分のゆとりがある。


「ニコくん、ぼくの方を見てっ!」

「ん?」


 ぼくは隙を見て、ニコくんのおへそあたりを指でコチョコチョした。


「クッ……!」


 今度はニコくんが体を震わせた。


(やったー! 効果抜群だ! オーちゃん、あの時は読み聞かせしてくれてありがとう!)


 この調子で、「サラ。君に負けたから元の世界に戻る」とニコくんが諦めてくれたら、尚更良かったのだけれど。


「きゃあっ!」


 ゲーム世界でも、現実は甘くないようだ。

 

 ニコくんがやり返しと言わんばかりに、ぼくのおへそをクルクルと指でなぞってきた。


(悔しいし、むず痒いよぉ……)

 

 慌てておへそを手で隠そうとしたら、ニコくんに両手首をギュッと掴まれてしまった。


「残念だったな……」

「ニコくんの意地悪! 離してっ!」

「……仕掛けたのは君だろ?」


 ぼくの耳元でニコくんがそっと囁く。


「だって……!」

「オレの勝ちだ。それより、君を見ていたら、急にお腹が空いてきた……」

「えぇっ?!」


 ぼくを見て、いきなり食欲旺盛になっちゃうなんて!


 ニコくんの体調やメンタルが無事なのか、とても心配になってきた。


「ニコくん、大丈夫? どうしたの?」

「サラ、先に謝っとく。今日こそは君をいただく……」


 ぼくの鎖骨あたりを狙って、ニコくんの口が狼のように開いていた。


(うわぁ……。ニコくんって、やっぱりひとつひとつが大きい……って、食べられちゃうううう!)


 ぼくはパニックのあまり、頭が働かず、目を閉じることしかできなかった。

 抵抗したくても、両手首をおさえられていて動けなかったから。


 パクッ!


(あれ? なんか冷たい水滴がっ……!)


 全く痛みがなく、ジュワッ……と果汁を絞っているような音が聞こえた。

 

 不思議に思ったぼくは、恐る恐る目を開ける。


「ッ……!」

Stop(ストップ)。おやすみ」

 

 いつの間にか、口にレモンを咥えたニコくんがストンと横に倒れていた。

 

 その代わり、ぼくの目の前に現れたのは――漆黒のマントとスーツに、黒いハットを深く被り、目元を黒い仮面で隠した、素顔のわからない青年。


「ニコくんに何を?」

「『お(つか)レモン』という、このゲーム世界の眠りアイテムを使って寝かせただけだ。ご安心を」

「おつかれもん……?」

「あぁ、これがアイテムだ。調達していたから来るのが遅くなった」


 スーツのポケットからアイテムを取り出し、ぼくに見せてくれた。


 悪い人ではないのだろうけれど、ゲームのキャラクターなのか、現実世界にいる人物なのかわからないから聞いてみることにした。


「貴方は誰? この世界に住んでいるの?」

「エスプレッソ・ヘパリだ。俺はこの世界の住民ではないさ」

「エッ……」

 

 エスプレッソって――SNSで何度かやり取りをした【王妃様に感謝し隊】のエスプレッソ伯爵?!


 聞きたいところだけれど、人違いだったら、気まずくなる。


 ぼくは違う質問を聞いてみることにした。

 

「あの、どうしてここに?」

「俺と一緒に戻ろう。此度はすまなかった」


 彼は何度もぼくに頭を下げた。

 

 なんだか、エスプレッソ伯爵とそっくりで、紳士的な殿方だ。


 それにしても、助けに来てくれたのにどうして謝っているのだろうか。

 

 一応、本当に帰れるのか、しっかり確認しておこう。


「戻るって、現実の世界に?」

「あぁ」

「……ニコくんは?」

「俺の弟は君に迷惑をかけたんだ。しばらく寝てもらうさ」

「えっ……!」


 まさか!

 助けに来てくれたのは――「ニコくんのお兄さん」だったんだ。


 そのお兄さんは「行こうか」と言って、ぼくに右手を差し出してくれた。


 助けてくれたことはとても嬉しい。


 でも、目を仮面で覆って正体を隠しているから、本当にニコくんのお兄さんなのか確信がないし、そもそもニコくんを置いてけぼりにはできない。

 

「待ってください! ニコくんを先に元の世界に戻してください!」


 ぼくが慌ててお願い事を伝えた直後、ニコくんのお兄さんは口をムの形に変えた。


「ニコを先にか、ふーん……」


 不満そうに、お兄さんは顎に指を当てた後、ぼくの顔を凝視する。


「ニコは寝ているから無理だ。それより……ニコが君のことを恋人のように抱き締めていたが、君はニコとどういう関係だ?」


(嘘……お兄さんに見られてたんだ……!)


 穴があったら入りたい。

 真っ赤になった顔を背けたくなり、横を向こうとしたけれど、その前にお兄さんがぼくの頬を両手で包んだ。


「やだっ……どうして……!」

「知りたいからだ。はぐらかさずに答えてくれ」

「に、ニコくんは大切な親友です!」

「親友……本当に?」


 半信半疑といった様子だけど、ぼくもお兄さんと同じ心持ちだ。


 ぼくだって、真っ先に確認したいことがあった。

 

「貴方はこの後、ニコくんをどうするつもりですか」

「しっかり注意しておく」

「元の世界には?」

「本人が反省すればな……」

「そんな……!」


 冷淡なお兄さんだ。

 ニコくんを助けることよりも、注意することが最優先だなんて。


「行こうか、薔薇ひ――」


 お兄さんがぼくの手を握ろうとしたが、ぼくは振り払った。

 

「ニコくんが戻れないのなら、ぼくは行かない! 弟のことを心配する前に注意するなんて! もっとニコくんのことを大切にして!」

「そうか……そういうことか……」


 感情的になるぼくに対して、お兄さんは冷静に独り言を呟いてから、ぼくが直視できずにいた、真実に触れる。


「お嬢さん、このゲーム世界はニコが望んでいる世界だ。そして、君の衣装はシコンちゃんと同じバニーガール。ニコは君のことを『女の子』として意識している。だが、普段の君は男のフリをしているのだろう?」

「なっ……!」


 ぼくはフリーズしてしまった。


 ニコくんが望んだ世界で、今のぼくは髪が少し伸びて、ニコくんが選んだ女の子の衣装を着ている。

 

 そして、ニコくんだけでなく、お兄さんまでもが、ぼくの性別を知っている……の……?


「どうやら当たっているようだな。さて、俺の手を握らないのなら、ここで真実を全て洗いざらい吐いてもらおうか。それとも、剣術検定一級保持者である俺と、剣術で勝負でもするか? お嬢さん」

<余談>

エスプレッソ・ヘパリの「ヘパリ」は『ヘパリン』という抗凝固薬から。

なお、ダルテ・ブラッドリーの「ダルテ」は『ダルテパリン』という低分子ヘパリンが由来です。

(吸血鬼族なので血をサラサラにする薬【抗凝固薬】を名前の由来にしております)


もし続きが気になった際は、⭐︎評価・ブクマしていただけますと幸いです!


サラちゃん&ルルちゃんが喜びますᕱ⑅ᕱ♡


それではまたお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
今回もサラちゃんが大ピンチでした。 ニコくんに抱きしめられたり、くすぐり合いになったり、甘くて可愛い空気かと思いきや、「今日こそは君をいただく」で一気に危ない雰囲気になってドキドキしました(//̀Д…
 なんとかピンチを免れたサラちゃんにヒヤヒヤでした。  エスプレッソ・ヘパリさんーーダンテさんなのでしょうか?  それともーー。  続きを楽しみにしております♪( ´θ`)ノ  
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