放課後のご褒美と、秘密の着替え時間
放課後。
今日は待ちに待った金曜日!
当初は、放課後になったら保健室へ向かい、オーちゃんと一緒におじさんの家に帰る予定だった。
だけど、お昼休みにケイちゃんから「実技試験でわからないことがあるから教えて!」と相談を受けた。
答えはもちろん「Yes!」
恩人であり、担任でもあるキーちゃんが「クラス全員が赤点を取らないよう助けてほしい」と言っていたし、大切なお友達のためにも、ここは一肌脱ぐことにした。
オーちゃんには、事前に「帰る前に、ケイちゃんと試験勉強してくるね!」と伝えてある。
ケイちゃんはしっかり者だ。
すでに実験部の部室を確保していて、入り口のホワイトボードには、力強い筆跡でこう書かれていた。
『実技試験対策中! 本日の課題:至高のデリシャス・ハンバーグ! 集中しているのでお静かに!』
ケイちゃんがもう中にいるのかもしれない。
ぼくは小声で挨拶しながら、そっと扉を開けた。
「ケイちゃん、お疲れ様……!」
「ん?」
「あれ?! ニコくん、どうしてここに?」
そこにいたのは、ケイちゃん……ではなく、ニコくんが所在なげに座って待っていた。
「オレも、ケイに勉強を教えてほしいと言われてな」
「そうだったんだ……」
ぼくがキョトンとしていると、「待たせたわねッ!」とケイちゃんがアダムさんを引き連れて現れた。
「みんなで支え合えば、試験なんて怖くないわ! さぁ、早速教えてちょうだい!」
やる気満々のケイちゃんに、ぼくとニコくん、アダムさんでアドバイスを送る。最初は魔法の加減を間違えて、黒焦げの炭塊が生み出されたけれど……三度目の正直で、魔法の光と共にじゅわっと肉汁が溢れ出す、美味しそうなハンバーグが現れた!
「これでいけたんじゃないかしら?」
「やったー! さすがケイちゃん!」
ぼくはケイちゃんと顔を見合わせ、力強くガッツポーズを交わした。
「これなら、赤点回避できるわよね?」
「うん。大丈夫だよ!」
「ありがとね、サラ」
「どういたしまして!」
ケイちゃんと喜び合っていると、ガラリと扉が開いた。
「サラちゃん、お待たせ……!」
「おぉー。みんな、頑張っているな〜。お疲れさん!」
オーちゃんとキーちゃん――大好きな二人が、ぼくを迎えに部室へやってきてくれた。
(嬉しい! って、急いで帰る支度しなくちゃ!)
アダムさんがキーちゃんたちと挨拶を交わしている間に、ぼくは手早く身支度を済ませ、みんなに手を振って部室を後にした。
* * *
校舎を出て、ぼくたちはキーちゃんの車に乗り込んだ。
運転席にはキーちゃん、助手席にはオーちゃん。ぼくは後部座席に座り、キーホルダーから本来の姿に戻ったルルを膝に乗せた。
本当は、オーちゃんと二人でバスと電車を乗り継いで、おじさんの家へ帰るつもりだった。
けれど、キーちゃんが「夜道は危ないから」と車を出してくれた。
(「至れり尽くせりスパダリ」って、まさにキーちゃんのことだ!)
「キーちゃん、送ってくれてありがとう。この前、二人に助けてもらったから、ちゃんとお礼がしたいんだ」
ぼくが話を切り出すと、キーちゃんはバックミラー越しにオーちゃんと視線を合わせた。
「サラちゃん、気にしないでくれ。今回はね、私も行く理由があるんだよ」
「えっ、理由? キーちゃん、何か予定があるの?」
「あぁ。今日は、オウレンの夢を叶えようと思ってね」
「オーちゃんの夢! 素敵だね、気になる! 知りたいー!」
「わたしも気になるわ!」
ぼくと同様に、ルルも興味津々な様子だ。
オーちゃんは少し照れくさそうに、それでも嬉しそうに、夢を語ってくれた。
「今日のお昼に、ピラティス講師の実技試験の結果が出て、合格したの。せっかくだから、今日、私のレッスンを受けてみない?」
なんとオーちゃんは、密かに目指していた目標を今日、見事に達成したらしい。夢に向かって、着実に歩を進めていたオーちゃん。そのお祝いを兼ねて、おじさんの家でレッスンを披露してくれるなんて――本当に優しい!
ちょうど運動したいと思っていたぼくにとっては、まさに渡りに船の申し出だった。
「わぁ、おめでとう! ぜひ受けたいよ、オーちゃん!」
「すごいわ、オーちゃん! おめでとう!」
「さすがだ。私も参加するからね、オウレン」
みんなでオーちゃんの合格をお祝いしている間に、おじさんの家に着いた。
車から降りて、期待に胸を膨らませながら、玄関の扉を開ける。
「ただいまー!」
すぐにリビングへ向かったけれど、そこにおじさんの姿はなかった。
「あれ……お出かけしてるのかな?」
ふとダイニングテーブルに目をやると、かわいいウサギのイラスト付きのメモが置かれていた。
『お友達から鮭を五人分もらってくるよ! 今日中に帰るからね。 by ニボル』
丁寧に『五人分』と書いてあった。
(おじさん、オーちゃん、キーちゃん、そしてルルの分も入れてるんだ!)
ぼくたちの分をちゃんと数えてくれているおじさんの優しさに、胸が温かくなった。
「鮭おいしそうだね〜、楽しみ!」
「えぇ。じゃあ、オーちゃんたちのところに行きましょう?」
「うん!」
ぼくはルルと一緒に、トレーニング用の部屋へ向かった。
ドアを開けると、すでに準備万端の二人が待っていた。オーちゃんは体のラインが強調されたピラティスウェア姿、キーちゃんも動きやすそうなスポーティな格好だ。
「オーちゃん!」
「サラちゃん。このお洋服、キハダさんと一緒に選んだの。貴女の分よ」
オーちゃんが紙袋を渡してくれた。
「えっ! いいの? ぼくの分も……」
「あぁ。毎日頑張っている君へ、私たちからのプレゼントだよ。ぜひ着てごらん」
キーちゃんがぼくの肩に優しく手を当てた。
二人の優しい言葉とお気遣いに甘えて、ぼくは洗面所で着替えることにした。
渡された紙袋を開けると、入っていたのは、くすみピンクのクロップド丈トップスに、黒いレギンス。
いつもと違う系統のお洋服にドキドキしながらも、着替えを済ませて、鏡の前に立つ。
「こ、これ……似合ってるかな?」
ちょっと恥じらいを覚えたと同時に、あることを思い付いた。
「あっ。せっかくだし……これから運動するから、ちょっと付けてみようかな?」
ぼくは制服のポケットに入れていた小さな香水スプレーを取り出した。
手首にワンプッシュだけ、香水をのせて、軽く擦り合わせる。
(うーん、気合い入れすぎかな? でも、ピラティスだから、華やかな気分になってもいいよね!)
深呼吸し、香水の柔らかな香りを纏いながら、みんなが待っている部屋へ足を踏み入れた。
【※ご挨拶】
あけましておめでとうございます。
皆様、いつもご愛読いただき、誠にありがとうございます。
「続きが気になる!」
「誰の香水?!」
「オーちゃんの教えている姿を見たい……」
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それでは、また次回。
次のお話も、どうぞお楽しみに。




