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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで

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ウサギの挨拶〜暴かれた秘密〜【※】

【※注意】身体的な接触表現あり(R-15:背後注意!)

「その声……」


 上から声が降ってくる。

 顔を上げると、険しい顔をした第3王子が目の前にいた。

 

(しまった。やっぱり聞かれてしまった!)


 慌てて口を押さえようとしたが、相手の方が早かった。

 距離を詰められたと思ったら、いきなり、鼻先に温かいものが触れた。


 目をぎゅっと瞑った弾みで、体全体の力が抜けて、立っていられなくなる。


(どうしよう! 誰か……!)


 恐怖を感じていたのに、あろうことか、ぼくは支えを求めて、第3王子の制服を掴んでしまった。


「あっ! ごめんなさい!」


 急いでお詫びを言って、目を開ける。

 すると、彼の鼻が、ぼくの鼻に触れていた。


 視界いっぱいに、彼の赤い瞳が迫り、熱を帯びた息がかかる。

 それに、さっきまで彼は両手でぼくの腰を支えてくれていたけれど、今はぼくの背中と肩に触れている。


 あまりにも近距離――恋人同士じゃないとこうはならない。


「やだっ! 怖い、離して……!」

「大丈夫だ。挨拶代わりだから、怖がらなくていい」

「挨拶代わり……?」


(鼻で挨拶するタイプ?! 初めて知ったかも……)


 キョトンとしていたら、第3王子の方から理由を教えてくれた。


「ウサギの場合、挨拶する時は鼻をくっつけて、匂いを確かめる」

「そうなんですか……」


 かろうじて、普通に返事をしたけれど、ウサギの単語が出てきて、内心ドキドキが止まらない。


 チラッと、ズボンのポケットに目をやる。

 不幸中の幸いで、キーホルダーのルルはポケットの中に入っていた。

 これなら、第3王子には気づかれずに済みそうだ。


「そうだ。安心できる相手なのか、判断している。後は探り合いも兼ねている」


 鼻先を寄せて、匂いを確かめるように息を吸い込みながら、ぼくに説明してくれた。

 

(ウサギって、奥深い……って、待って! この状況、恥ずかしすぎる。探り合いって何? もう無理! 適当な理由を言って離してもらうしか……)


「嗅がないで……! ぼくは今日のお昼にチョココロネを食べたから、チョコレートの匂いがします! だから、離してください!」


 咄嗟に口を衝いて出たものの、我ながら、弱すぎる理由に頭を抱えてしまいそうになる。


(ぼくのバカ! それにしても、この距離だと、まったく思考が働かない……)


 ダメだ。脳みそがパンクしそう。

 なのに、第3王子はなかなか離してくれない上に、ぼくの話が面白かったのか、肩を震わせて口元を緩めていた。


「フッ……面白いことを言うな」

「だって……」

「俺も面白いことを教えようか。そのウサギの探り合いだが、あれは確認行動だ。安心できる相手かどうか……要するに、いろんな意味がある」

「え!」


 なぜか、探り合いの詳細について、話を始めようとする第3王子。

 通常なら、早く解放して欲しいと思うところだけれど、ぼくは違った。


 ぼくはウサギが好きだ。

 単純に、その答えが気になってしまった。

 

(ルルの場合、確認といえば、ぼくの体調を心配してくれるんだよね。あとは、支度を手伝ってくれたり! 従魔というより、大切な家族に近い)


 ルルのことを考えていたけど、その思考は強制的に遮られた。

 第3王子が、触れ合っている鼻先を、さらにグイッと押し付けてきたからだ。


「な、何を……!」

「今のは、主張・要求を示す。他にも親密になると、ここを毛づくろいするんだ……」


 囁きながら、ぼくのおでこに彼の右手が触れた。


「ひゃあ!」

 

 その手のひらの感覚がむず痒くて、またしても、高い声が漏れてしまった。


「そんな、ウサギのように怯えなくても。いや、もしかして……」


 なぜかぼくのおでこに顔を近づける第3王子。


(まずいよー! このままじゃ、彼の唇が当たっちゃう!)


 胸騒ぎを覚えながらも、体をしっかり固定され、動けないぼくだったが――。


「何をしているのっ!」

 

 廊下の方から、聞き慣れた声がした。

 視線を向けると、そこには白衣姿の、シルクのようなクリーム色のロングヘアで尖った耳――ぼくの大切な人が立っていた。


「オーちゃん!」


 ぼくは呼んでから、「あぁ……!」とすぐに後悔する。

 条件反射で、「オーちゃん」と呼んでしまった。


 突っ込まれるかもしれないと思ったけれど、その前に、オーちゃんが助け舟を出してくれた。


「第3王子様……お願いいたします。離してください。その子は……私の大切な教え子なんです!」


 声は小さく、体も小刻みに震えている。

 そうだ、オーちゃんは男性が苦手だ。

 本当に怖いんだ。


 それでも、言葉を詰まらせながらも、「大切な教え子なんです」と言い切ってくれた。


「なるほど……わかりました」


 第3王子はオーちゃんの言葉を受け入れ、ぼくの背中や腰を支えていた手をすんなりと離してくれた。


(ようやく解放された。ありがとう、オーちゃん!)


 心の中でガッツポーズをして、オーちゃんのところへ行こうとしたけれど、第3王子は逃す気がなかったらしい。

 今度はぼくの右腕を掴み、聞かれたくないことを問いかけられた。低く、感情のない声で。


「随分と親しい間柄なんだな。オーちゃんと呼ぶなんて」

「……っ!」


 後悔先に立たずだ。ぼくはオーちゃんのことをオウレン先生と呼ばないといけなかったのに。

 助けてくれたのが嬉しくて、大好きなあだ名で呼んでしまった。


「それは……」


 なんとか言い返したかったけど、言葉に詰まり、視線が泳いでしまった。


 うまく説明できない。

 でも、親代わりだと第3王子には言えない。

 何を考えているのかわからないけれど、頭の回転が速く聡明だから、この調子だと……本当の両親について、聞かれるかもしれない。


 必死に言葉を探そうとしていたら、オーちゃんがぼくのところに来てくれた。

 

「私は……この学校の保健医です。この子は、一般科の大切な生徒さんです。どうして……特別科の王子様が、一般科の生徒と、これほどまでに……親しくなさるのですか」


 尋ねながら、オーちゃんがぼくの左手を両手で優しく握ってくれた。


 優しいオーちゃん。なのに、その両手はとても冷たかった。


(ごめん、怖いのに勇気を振り絞ってくれたのに……)

 

 この状態はオーちゃんにとっても、ぼくにとっても、精神的に辛い。


 誰か……と願った、その時。

 遠くから聞き覚えのある足音が聞こえてきた――。

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