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戦闘力ゼロのおっさん、人間界をクビになって魔王軍にヘッドハンティングされる  作者: コバチ


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第1話 戦闘力ゼロのおっさん、人間界をクビになって魔王軍にヘッドハンティングされる

「戦闘能力が皆無? 魔術適性もなし? 四十を過ぎただけのおっさんなど、我が国には必要ない」


それが、ギルド長であり王国侯爵でもある男の言葉だった。


この世界では、転移者は何かしらの強力な固有魔術や、戦神の如き加護を持って現れるのが常識とされている。


魔獣が跋扈し、魔王軍との戦争が続くこの世界で、誰がどんな戦闘能力を持っているのかが何よりも重要になるからだ。


特に、現代から突如として呼び出される「転移者」には、国を救う英雄としての役割が期待されていた。


ちなみに人間界で求められる能力は二種類。


前線で魔獣を屠る圧倒的な攻撃力。もしくは、傷ついた戦士を一瞬で前線に復帰させる癒しの魔術だ。


一方、戦いにおいて「役立たず」と呼ばれる能力もある。


相手から物を盗む魔術。己の肉体を変質させる魔術。音や光で幻惑する魔術。

物や人の詳細を見る鑑定の魔術などだ。


これらは戦闘の直接的な打撃力にならないため、日陰者の能力として軽視されていた。


そして、僕が持っていた唯一のスキル《鑑定》も、この世界では「最も不遇な死にスキル」とされていた。


対象の情報を覗き見る鑑定。

この世界におけるそれは、相手のレベルや名前、精々が「攻撃力」や「防御力」という単純な数値を読み取るだけのものだった。


戦闘中に敵のステータスを見たところで、飛んでくる火球を避けられるわけではない。

剣を振るう筋力が上がるわけでもない。


中には、鑑定を使って敵の弱点を見抜く者もいたが、稀である。


何故なら、そんなものは百戦錬磨の戦士なら経験則で分かるからだ。


前線の英雄に鑑定の才は不要であり、ただ目の前の敵を叩き斬る力こそが正義だった。


それらを加味して、戦闘能力を持たないおっさんである僕は、冒険者ギルドからも王国からも「ただの飯食い虫」として扱われていた。


人間界の組織は、個人の戦闘力に大きく依存している。


前線でどれだけ多くの首級を挙げたか、どれだけ派手な魔術で敵を消し飛ばしたか。


その歪んだ評価基準は、国を挙げた軍事至上主義のせいで、聖書かなにかのように信奉されている。


その結果、戦術の背後にある「兵站」や「労務管理」といった組織運営の概念は、この世界の人間には完全に欠落していた。


「我がギルドは武門の集う場所だ。戦えない、魔法も使えないお前に払う給料など一銅貨たりとも無い。

前世で経営者とやらだったか知らんが、そんなものは戦場では何の役にも立たん。おい、そいつを今すぐ追い出せ!」


ギルド長は苦々しい表情でそう言った。


彼らにとって、組織とはただ強い奴を集めて突撃させるだけの塊なのだ。


業務の効率化や、適材適所の配置などという概念を説明したところで、聞く耳を持つはずもなかった。


行き場を失い、冷たい雨が降る王都の路地裏で、僕は途方に暮れていた。


前世で会社を興し、社員たちと泥をすすりながら組織を大きくしてきた経験も、この世界ではただの無駄。


四十を過ぎた肉体は、明日生きるためのパンを稼ぐことすらままならない。


「……そこの人間。お前が、噂の『戦えない転移者』か?」


不意に、暗闇から声をかけられた。


見上げると、そこにいたのは禍々しい漆黒の鎧を纏った魔族の男だった。


その背後には、虚ろな目をした数人のゴブリンが怯えたように控えている。


魔王軍の斥候。本来なら、僕のような無力な人間など一瞬で首を刎ねられる存在だ。


だが、男の目は敵意よりも、どこか深い疲弊と焦燥に満ちていた。


僕は思わず、自分の固有スキル《鑑定》をその魔族へと向けた。


僕の《鑑定》は、この世界の人間が使うものとは少し違っていたのだ。


【名前】バルトロ(魔王軍・第三軍副長)

【忠誠心】45%(魔王への忠義はあるが、現在の崩壊した組織に限界を感じている)

【不満度】92%(補給が届かない、幹部同士の足の引っ張り合い、兵の過労)

【適性】前線指揮・防衛陣地構築

【伸びしろ】組織的なバックアップがあれば、防衛戦において無類の強さを発揮する。



見えたのは、数値化された「不満」と「組織への絶望」。


それは、前世で倒産寸前のブラック企業に囲い込まれていた、優秀な中間管理職の姿そのものだった。


「……僕は戦えないよ」


僕は自嘲気味に笑い、冷たい地面に腰掛けたまま言った。



「剣も握れなければ、火を出せる魔術もない。

ただ、人の上に立って、組織を回すことしかできない。

君たちの言う『役立たず』だ」


すると、バルトロと名乗った魔族は、フッと自嘲気味に鼻を鳴らした。


「……ならば、ちょうどいい。我が魔王軍は今、勇者軍に負け続けて崩壊寸前だ。

前線への補給は途絶え、現場の兵士は不眠不休。上に立つ幹部どもは手柄の奪い合いに終始し、下級魔族は使い捨てにされている。

力自慢の馬鹿どもは溢れているが、この『崩壊した泥舟』を立て直せる頭脳がいないのだ」


バルトロは真剣な目で僕を見据え、その大きな手を差し伸べてきた。


「人間界でお前を無能と吐き捨てた奴らを見返したくはないか?

元経営者とやら。我が魔王軍にヘッドハンティングさせてくれ。

お前のその『組織を回す力』で、俺たちの軍を、働き方を変えてみせろ」


その言葉に、僕は丸く目を見開いた。


戦えないからと追放された僕を、まさか人類の敵である魔王軍が、その「頭脳」を求めて必要としてくれるなんて。


「……いいだろう」


僕は差し出された無骨な手を握り返し、不敵に笑ってみせた。


「前世でも、倒産寸前のブラック企業をホワイトな超優良企業へ再生させた経験があってね。

魔王軍の『働き方改革』、喜んで引き受けよう」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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