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第05話 算多きは勝ち、算少なきは負け

見通しは大切だ。五里霧中な状況であっても、混乱状態であっても、あらかじめの見通しがあれば、そこから脱出することができる。見通しがなければ、混乱は混乱のままである。戦争においても、ビジネスにおいても、人生においても同じである。井戸の底の蛙、大海の水を知らず、である。知らなかったら溺れるのだ。


亜子は部屋に散らばった紙の設計書の類をまとめはじめた。決してゴミではない紙であって、プリントアウトしたものはプログラムコードであったり、設計書のUMLであったりした。細かく付箋が貼られているものもあれば、赤ペンで書き込まれているものもある。捨てるにしては、意味があるものが書き込まれている。掃除機で吸い込むわけにはいかない大切な書類らしい。

ときどき、コンピュータ―のコンセントを引き抜いてしまう掃除夫の話を聞く。サーバールームの掃除を任された人が、掃除機を使うためにコンセントを探す。ぴっちりと詰まっているコンセントばかりなので、仕方がない、と1つだけ抜くのである。ブーンと言う低い音が流れて、何かが止まる。冷蔵庫のコンセントを抜いたことがあるだろうか。冷蔵庫のコンセントであれば、ドアを開けなければ中の食品は腐らない。しかも掃除をしている間ぐらいならば大丈夫だろう。そんな掃除夫の経験から、サーバールームのコンセントを抜いてしまうのである。「抜くな」という張り紙がしてあっても抜いてしまう。「絶対抜いてはいけません」と警告しても、大丈夫じゃないかな、と思って抜いてしまう。物理的に抜けないように鍵を掛けたとしても、鍵を開けて抜いてしまう。もう、こうなると目的と手段が逆転してしまって、サーバールームのコンセントをどうやって抜くのか、という掃除夫と運用システムエンジニアの戦いとなってしまう。だから、見通しを立てることは大切なのだ。将棋の一手詰めのようだが、そのコンセントを抜くと、詰みなのだ。いや、何故、抜くのかよくわからないが、実際のところは「コンセントを無くしてしまえばいいですよね」というコンサルタントの意見は正しい。亜子もそう思った。


ところで、床に散らばった書類を整理してまとめておく。サーバールームのコンセントのように実は大丈夫かなと思っても、自分で判断してはいけない。床に散らばっているからといって、ゴミが撒き散らされているとは限らないのだ。

以前、編集部のドラマがあって、机の上を片付けてしまうバイト君の話があった。午前中に編集部に向かったバイト君は「あ、ちらかっていますね。ここは、ちょっと、片付けなきゃあいかんすよ」というわけで、机の上を片付ける。雑巾がけをして、机の上に花をかざっちゃったりする。カーテンを洗濯して、真っ白に仕上げる。いまでは使われなくなった灰皿もきれいにする。パソコンのモニタに貼られたきたない付箋もきれいに捨てる。ついでにパソコンの中も掃除だ。埃にまみれたパソコン内部を開いて綺麗にする。内部のコンセントも抜き差しをして、ふーふーと息を吹きかけて接触を良くする(注:良い子のみなさんは真似してはいけません)。埃まみれになった基板を歯ブラシで掃除する。コンデンサがちょっとまがっていても気にしない(注:よい子のみなさんは真似してはいけません)。水冷式の冷却水に基板を突っ込んで、洗浄する。有機溶剤で洗うのだから、錆びる危険性はない(注:これは本当です)。ついでに、パソコンの中をさっぱりと綺麗にするために、SSD を差し替える。これで、OS から何から綺麗さっぱりだ。ああ、朝日がまぶしい。

ということにもなりかねない。その後、バイト君がどうなったか亜子にはわからない。いや、そもそもそんなドラマがあったかどうかもしれない。確かなのは、最初のところは「編集王」に近い下りがある。そこだけは確かだ。読んだことがある、と亜子は思った。

だから、床に散らばっている書類を簡単に捨ててはいけない。ゴミのように見える付箋もはがしてはいけない。丁寧にまとめておく。捨てるのは最後の最後であるが、この場合は一切を捨てない。捨てるか否かは、部屋のメンバーに聞いてからにしよう。


亜子は、床に散らばっている書類を見て、これは大切な情報が含まれているかもしれないと思った。たとえ一見無意味に見える付箋でも、何かのヒントになるかもしれない。だから、捨てる前に必ず確認することにしよう。

まとめた書類は、きちんと箱ファイルに整理しておく。ほんとうならば、スキャンして電子化しておくのもよい。最近は、契約書でも領収書でも電子化が流行である。いや、電子化のほうが正として扱われることが多い。紙の書類は、補助的な扱いと言える。手書きであり、宛名書きがない領収書であっても PDF ファイルとして残しておけば正式な文書となる。お客とのやり取りをメールで行ったとしても、そのまま PDF ファイルとして残しておけばよい。販売した量をカメラで写しておいて PDF ファイルで電子書類として残しておけば、これも正式な文書だ。銀行の通帳をブラウザに移して、画面キャプチャをして「ほら、これで月100万円の収入がありますよ。方法は、1万円でお知らせいたします。フォローをして、住所と電話番号を書いて DM してくださいね」と言ったとしても、その画面は正式な文書なのだ。なんという便利な世の中になったのだろう。紙の上に判子を押したりサインを書いたりした昔のことを思い出すと、隔世の感がある。ひょっとしたら、大統領令にサインをしたってひっくり返される世の中なのだ。サインが契約の締結にならないのだとしたら、人は何を信用すればよいのだろうか?そう、電子文書化すればよかったのではないか。そうだろう、そうだろう。きっと誰もがそう疑問に思うに違いない。


亜子は、書類をまとめて、リーダー役の劉に問い合わせをした。

「劉さん、これ、捨てていいんでしょうか?」

「あ、お願いします」


すべてシュレッダー行きである。


【つづく】





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