第三章 「ユメ」 9
――こんどうむさし
そう心の中で呟くだけで、胸の奥が熱くなるのを感じる。
これが絆……?
「分かる……。分かるわ……」
俺は一人うなずく。由愛も、無言でうなずいた。
「ユメ……か……。綺麗で、とてもいい響きね……」
「ムツミ先生もそう思います? だったら、私のこと、名前で呼んで欲しいです」
「え……。それは……」
女の子を名前で呼ぶのは、何だか気恥かしい。だけど、由愛の期待した顔を見ると、そのお願いを拒否するのは不可能なようだ。
「それじゃあ……。ゆ、ゆめ……さん?」
由愛は声が小さいのが不満だったのか、「ん?」と、わざとらしく耳に手を当ててこちらに向けている。
「由愛……さん」
「はい」
おっかなびっくりでその名を呼ぶと、由愛はニッコリと微笑んだ。そして、手に持っていた写真を渡してきた。
「私の父と母、矢追悠人と麻耶です」
これは、若かりし頃の矢追夫妻か……。寂れた狭い研究室に、白衣姿の二人がそこにいた。自然と互いの手を重ね合わせているその様子は、何だか幸せそうに見える。
「へー。由愛さんはお母さん似なのね」
写真の中の麻耶と目の前の由愛を見比べると、二人が間違いなく血の繋がった親子だと誰もが信じるだろう。
「あれ?」
唐突な違和感。既視感とでも言った方がいいのだろうか? 麻耶の姿を見るのは初めてなはずなのに、どこかで見たような気がした。よく似た顔がすぐ近くにあるので、明確に初見とは言い辛いが、どうにも妙な感じだ。
白衣の上からでも分かる膨らみ。ふわふわの髪……。やはり、由愛以外の誰かを連想させる。
「どうかしましたか?」
「ううん。何でもないわ……。何でもね……」
俺は由愛の言葉で我に返った。が、俺の中にある疑念は頭の片隅でムクムクと大きくなっていた。
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