第三章 「ユメ」 8
「夢……か……」
それが、彼女を輝かせているものなんだな。
「ゆめ……」
確かめるように、その響きを噛み締める。
「はい」
ニッコリと由愛が返事をする。
「え?」
「今、『ゆめ』って言ったじゃないですか。ユメは私の名前なんですよ」
「ああ~。そうだったわね。いい名前ね……。」
「はい。私もこの名前をとても気に入っています。何だか夢がありますよね」
由愛は生徒手帳に挟んでいた四角い紙のようなものを取り出す。それは一枚の古ぼけた写真で、かなり色褪せている。どうやらそこに彼女の両親が写っているようだ。
「ゆめ……。この名は、お父さんとお母さんがくれた私の最初の宝物なんです。たとえ離れていても、絶対に断ち切れない大切なもの。私と二人を繋ぐ絆なんです」
「絆……」
「なんて、そんなに大それたものじゃないですけど、二人が何を想ってこの名前を付けたんだろうな~って考えるだけで嬉しくなるんです」
そう言うと由愛は目を細めた。自分の名前だけでこれほど感動できるなんて、この子はやはりただものではないと思う。俺から言わせると、名前なんて、ただの呼称で特別な意味なんてないと思っていた。
それに、俺自身の名前を考えてみると違う意味で笑えてくる。『こんどーむさし』って何の冗談だよ。まっ、オヤジらしいと言えばそれまでだが、確かにそこに何か感じるものがある。そこにオヤジの意思と言うか、魂を感じられるような気がする。
親に捨てられ一人ぼっち。そんな、不遇にまみれていた俺に、いつもふざけて馬鹿ばかりやっているオヤジ。思えば、今までの人生、良くも悪くも笑いに溢れていた。落ち込む暇なんてなかった。この名前も、今までは下らない冗談に思えたが、よくよく考えてみるとオヤジはそういう願いを込めたのかもしれない。小さな不幸なんて笑い飛ばして生きろと、この名がいつも俺を励ましているようにさえ思う。




