第三章 「ユメ」 7
「好き……」
愛しい人へ囁くように呟く由愛。
薄桃色のぷっくりと丸みを帯びた唇をこちらへ向けている。長いまつ毛がツンと上を向いてる。整った顔のパーツが綺麗に整列をして俺を見上げていた。上気しているのか、頬がうっすらと赤みがかっている。
これは世に言うキス顔というやつではないのか?
ドキドキ――。ドキドキ――。
由愛の顔を見ているだけで、胸の鼓動が高まる。何だ、この気持ちは……。
そりゃ、由愛は綺麗だけど、それだけでこの子を好きになるなんてありえない。いや、由愛は外見の美しさだけでなく、自分の夢を堂々と言える強さと、女性らしい優しさも持っている。
そうだ……。由愛は、今まで俺が知り合った人の中で、もっとも魅力的な女の子だと言っても過言ではない。
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!
胸が早鐘を打つ。
意識すればするほど、想いはより明確に形になっていく。もしかすると、俺は由愛のことが……。
――好き――なのか。
そっと由愛との距離を縮めてみる。と、ほんのりと色づいた頬に自然と手が伸びた。そして、肌と肌が触れ合う刹那、
「イメージ出来ましたか?」
由愛の眼がぱちりと開いた。くっきり二重まぶたがキラキラと輝いている。
「イメージして、それに向かって頑張れば、きっと夢は叶うんだと思います。もちろん、願えば何でも叶うわけではないでしょうが、少なくともそこに近づくことは出来るはずです」
ニコッと笑うと、八重歯がチラリと覗いた。
「具体的には、夢が形になるには何が足りないのか。そのためには、いつまでに何をやって、そのためには何をやる必要があるのかを洗い出して実行するんです。そうすることで、こうぼや~っとしていた形のない夢が、より明確なビジョンとして自分の中に生まれるんですよ」
「なるほどね~。夢みれば、夢も夢じゃないってことね」
そういえば以前オヤジが、憧れにしている筋肉隆々の外国人俳優のポスターを見ながら、『イメトレよ、イメトレ!』って言って、筋肉トレーニングをしていたのを思い出す。何でも、理想としている美しい筋肉をイメージしてトレーニングすることで、自分が思い描いている筋肉を作り上げるのだと言っていた。その時は、オカマの戯言と思っていたが、あれにも意味があったんだなと今更ながらに思う。
試合前のスポーツ選手がよくやる、ある種の自己暗示みたいなものに近いのかもしれない。
「そのために今は沢山勉強して、大学に入学するのが当面の目標なんです。それから、母が所属していた研究室に入って、母の夢みていたものを私が叶えられたらなって思います」
そうか……。それが、由愛の夢。
「矢追さんは、本当にお母さんのことが好きなのね」
「はい。母にはもう会うことは出来ませんが、今も何となく誰かに見守られているような気がするんです。夢の世界とか、死後の世界とか本当にあるかはどうか分からないんですが、もしかするとそういう所から、母が見守ってくれているのかなって」
「そう……」
なんて素直で良い子なんだ。
自身の夢に向かって真っ直ぐなその瞳は、恋する乙女のもので、俺はそんな風に輝いている由愛を思わず抱きしめたくなる。




