第十二話 魔剣士ユノと鉄級冒険者
「お待たせしました。これがあなたたちのギルドカードです」
修練場からカウンターへ戻り、受付嬢から渡されたのは鉄製のギルドカード。表にはここのギルドの紋章に、星が一つ描かれていた。
「そのギルドカードに描かれている炎の剣はここのギルドの紋章です。そのギルドカードはギルド“炎の誓い”の一員であることを示しています。今後あらゆる場面でギルドカードの提示はすると思われます。その際、当ギルドの面子を汚さぬよう慎重な行動を心掛けてください。もし、何かしら不手際があった場合、当ギルドでは責任を負うことはせず、逆に罰則が与えられますので悪しからず」
受付嬢は一拍置いてまた話始める。
「そしてあなたたちは今現在“鉄級”冒険者です。鉄級は定められた等級の中で最低のランクですが、冒険者としての功績を挙げるとランクが上昇していきます。下から鉄級、青銅級、銅級、銀級、そして最後に金級ですね。…ちなみに、白金級という金級の上位が存在しますが、白金級を与えられている冒険者はこの世に一人しか存在していませんので、白金級については頭のすみにでも置いておいてください」
ここでレヴィアタンが質問する。
「“冒険者としての功績”って具体的に言うとなに?」
「はい。冒険者はギルドから提示される“クエスト”という仕事を受け持っていただきます。クエストは魔物の討伐が主ですが、中には護衛、探索、採取などなど…様々な内容のクエストを取り扱っています。それらをある程度達成していくと、こちらでギルドカードにクエスト達成状況などを記録させていただきますので、そちらを参照にして適性ランクの上昇を決定しています」
「つまり、クエストをこなしていけってことね?」
「はい、そうなります」
それからは、受付嬢から簡単なギルドに関する説明を受けた。
・年会費は銀貨3枚。銀級から除外。
・クエスト連続失敗や1ヶ月間クエスト達成無しの場合、ランクが1つ下がる。この時、最低ランクの鉄級であった場合は罰金。
・ギルド内暴力、魔法、抜剣禁止。
冒険者の責任はギルドは一切負わない。
・ギルド内には宿や酒場、武器や防具、道具屋それと鍛冶屋に調合所、換金場所、解体所、さらに治療施設もある場合がある。
この内、宿と換金施設は冒険者のみ(例外を除き)利用可能。
冒険者割引がある場合がある。
・道具、素材、魔石換金において、手数料がかかる。手数料は全体の1割。
「…―の説明で以上になります。なにか質問はございますか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「はい大丈夫です」
この日、ギルド“炎の誓い”に新たに冒険者が二人誕生した。
―――――
一方その頃、ギルド内の部屋の一つでエレヒムとギルドマスターが会話をしていた。
「なぁ、マスター…頼むから行かせてください」
「駄目だ。お前にはそれよりやらなきゃならんことがある。そっちを優先してくれ」
「ええ、この件が大事なのはわかってます。でもあのユノって娘に稽古を付けたいんです…!」
「はぁ…気になるのはわかるが、“将来有望の新人育成”より“近辺にA級魔物の出現”の方が大事だろう」
「…そりゃ、わかってます…村の壊滅、近辺の街の危機…。それらの原因を排除しなければならない。でも、俺が死んじゃあ意味無いじゃないですか…」
「…エレヒムよ、わかってくれ。今はこの街や隣街の安全を確保するのが最優先だ。少女一人よりも多くの弱き人だ、いいな?」
ギルドマスターは顎に蓄えられた白い髭を手で撫で、睨むような目付きでエレヒムを見た。
「……ええ、わかってますよ…」
エレヒムはギルドマスターがあの仕草をしたら、もう意見が変わらないことを知っていた。故に、エレヒムは引き下がるほかなかった。
今回、銀級冒険者以上に課せられた“緊急クエスト〈アークデーモン〉の討伐”は、隣街の“レジン”から伝わってきたものだ。
要は情報共有と協力要請を兼ねたものだった。
この緊急クエストの指定通り、銀級冒険者以上の参加が求められている。これは実は任意の参加になるのだが、もしこのクエストを蹴るとなると、自分の街が破壊される可能性があり、さらにギルドマスターからの信頼が損なわれる恐れがあるために、大体の緊急クエストは参加しなくてはならないものとなっている。
だがエレヒムはこのクエストに参加をしたくなかった。参加したくない理由としては二つあった。
将来冒険者として有名になると確信した少女に稽古を付けてあげたいと思う理由と、ただ、自分が死ににいくような戦いには出たくないという理由だ。
主に、後者のほうが理由としては正しいだろう。ユノへの教育は確かにしてあげたいと思う気持ちは多少はあるが、このクエストを蹴るための口実に過ぎなかった。
エレヒムは多くの街の人間より、自分の命を優先したのだ。
薄情だと、卑怯だと罵られるのを覚悟しての考えであったエレヒム。そんなエレヒムは「戦える奴が戦いに出され、他の奴等は対岸の火事。俺はそれが気に食わねぇ。何より、勝ち目のない戦いはしない主義だ」という思いを抱いていた。
故に、エレヒムはこの後ギルドを、ミズガルドを去ったのだった。
後に、このエレヒムの逃亡が正しい判断であったと思わざるを得ない事件が起こるのだが、それを知るものはいない。




