男勇者と女Bと男Aと氷の館part5
Side:男勇者
皆でいた反動か部屋に入ると耳が痛いくらいの静けさに逆に落ち着かない。旅の最中は馬車の中だから皆が近くに居た。でも今は1人。壁の向こうにはフレイヤさんが居るとは分かってるけど、それでも遠く感じる。
扉の閉まる音と11時の鐘の音。扉はメイドさんだろうな。デザートの皿の片づけとか、ロザリーちゃんの事考えてジルくんに手伝ってもらってなかったし。俺も手伝おうとしたらやんわり断られた。無理に手伝おうとしても余計に時間を取らせてしまいそうで止めた。
コンコンッ
ん?何だ?
「勇人様、起きておられますか?」
「メイドさん?どうしたの?」
言いながらドアを開ける。メイドさんは浴衣を着ている。最初は渋ったけどジルくんとロザリーちゃんの『着ないの?』とゆう無言の涙目で着た。ジルくんのは演技だと分かってもあの少女のような見た目でやられたら断れないだろうな…
「ボウヤが館の異変に気付いた。氷の壁の向こうに何か居る」
フレイヤさんの声が硬い。
「リリーちゃんは?」
「魔王とはいえまだ子供だ。夜は無理だね」
逆に安心した自分がいた。どんな立場でも、子供に血生臭い世界は見せたくない…やっぱりジルくんには自己満足って言われるな。
「調査はこの3人で良いのか?」
「ああ、本当はボウヤも連れて行きたかったんだけどね。起きた時少女が不安がるから行けないと言われた。モリッシュは帰りを考えると無理はさせられない」
ジルくんはちゃんとロザリーちゃんの事考えてるな。ん?
「避けろっ!」
ヒュンッ、ザシュッ!
「…誰だ!」
「フレイヤ様、誰も投げていません。あの鎌自身が、こちらに飛んで来たのです」
メイドさんの言う通り、誰も投げなかった。ただ浮いていた鎌がひとりでに俺たち目がけて飛んできた。
刺さった床から鎌が抜ける。デカい、黒い、死神が持つような大鎌。何であんなのが浮いてるんだよ!?
「ソードダンサーの亜種、と認識しますか?」
「そうだね。勇人、対処法は分かってるね」
「もちろん!」
剣を構える。
ソードダンサー。グールなんかのアンデット系で、浮いてひとりでに動く魔獣と言われてる。ただ何処に魔力を溜めてるのか解明されてない。剣に刻まれたルーンが変質して魔獣のようになってるんじゃないかって説が有力らしいが詳しくは知らない。
「メイドさんと勇人で前衛、私は後衛で行くよ!」
「ああ!」
「畏まりました」
ソードダンサーはその性質上、普通の打撃に耐性が有る。浮いてるからダメージを逃がせるんだ。だから剣で戦う時は地面や壁に叩き付けるのが1番良い。
だけど今回は動きを止めつつ、フレイヤさんの魔法でダメージを与える。それがソードダンサーとの一般的な戦い方。
「来た!」
俺のジュワユーズと大鎌が打ち合う。ゴーレムの1件以来、俺はジュワユーズを大剣にして使っている。しかしこの館の通路は振りまわせるほどの広さが無いから、大きさはこのまま。通路の幅を考えると、やっぱりジルくんが1番戦えるな。
「勇人、そのまま抑え込んで!光成す矛よ 邪を滅せ ホーリーランス!」
「逃がしませんっ!」
大鎌が光の槍を避けようと俺から離れたが、メイドさんにホーリーランスの射程に押し込まれ、串刺しにされる。あとに残ったのは大鎌だった黒い塊とちょっと焦げた絨毯。一部は消滅しているので原型は留めていない。
「…1階に行こう。此れだけじゃ無い筈だよ」
「畏まりました」
「ジルくんの言ってた氷の壁だけでも確認しないとな」
それにまたソードダンサーが出たら、寝てる皆が危険だ。
1階は何も変わった様子は無かった。しかし…
「氷の壁、確かに変化が有るね」
フレイヤさんが皮肉気に笑う。氷の壁は有る。問題はその向こうに居る、何か。死神のような黒くてボロいマントを着た、人型の何か。
死神としか言えない。これでさっきの大鎌を持ってたら完璧だ。顔は見えないが、目の辺りが青白く十字に輝いている。氷の壁を挟んでも目の輝きと黒マントが恐怖を煽る。ロザリーちゃんとイトハちゃんは苦手だろうな…
少しの睨み合い、死神が背を向けた。助かったと思った。だけど、その手にさっきまで無かった大鎌を握っているのを見て、背筋が凍った。
死神は1度も振り返らず、氷の闇に消えた。
金属を引っ掻くような、不快な音を鳴らしながら。
「アイツ、最初鎌なんて持ってなかったよな?」
「ああ、その筈だよ。得物は最初に確認した」
「振り返ると同時に出現しました。まるで契約武器の様に」
今夜はこれ以上動かない。それが俺達の決定。
あまりに情報が無さ過ぎる。迂闊に動くのはかえって危険だと思った。
明日キッチンの地下への階段を調べると決め、各々の部屋に戻ろうとして気が付いた。
大鎌の残骸が消えてる。
つまり、死神の手に現れた鎌は、あの大鎌の可能性が高い…
「…妙です。フレイヤ様の魔法の痕も有りません」
「…あの鎌が刺さった痕もだ」
「私達が1階で睨み合ってる内に直った?」
「そうなります。奇妙な現象ですが、詳しくは明日調査しましょう」
「そうだんね。お休み、勇人」
「ああ…」
不気味に思いながらも、疲れもあってすぐに眠りに落ちた。
「勇人様、間もなく朝食が出来ます。キッチンにお越し下さい」
メイドさんのモーンニグコールで目が覚めた。今何時だ?とりあえず下に降りよう。
「「勇人さん、おはよう」」
ギグの森の2人のあいさつ。可愛いな~♪
「勇者が1番寝ぼ助じゃな」
「全く、だらしない」
リリーちゃんとフレイヤさんのダブルパンチ。重いな~…
全員浴衣のままで朝食。朝食は卵焼きとベーコンとパン。朝はこれくらいが丁度良い。
「さて、昨日の夜の事で皆に話が有る」
皆が食べ終わったのを見計らってフレイヤさんが夜の事を話し始める。
「目は、十字に輝いておったんじゃな」
リリーちゃんの確認に頷く。
「…<契約の死印>の証は、右目に輝く十字模様じゃ」
…当たった。これで、この館に死神がいるのは確定した。
「あの時は氷を挟んでいましたから確定は出来ませんが、居ると思って対処すべきでしょうね」
「目が青白いって…もしかして俺と同じかな?」
ジルくんの目は空色だ。氷越しに青白く見えたなら有りえる。
「死神も氷の属性を使うかもしれない、か。ますます少女とイトハの需要が増えるね」
「ジルも火使えるよね?」
「一応はね。元々の魔力が小さいから期待できないけど」
確かにジルくんは魔力が低い。だけど格闘戦では魔法を使う暇なんて無い時の方が多い。あんまり気にしなくていいんじゃないか?
「じゃあ、今日は班を2つに分けよう。地下探索にボウヤと少女と私、勇人もだね。氷を融かす方にメイドさんと魔王にイトハにモリッシュだ」
「妥当じゃろうな。ソードダンサー相手に遠距離を2人置く必要はない。それにどちらが死神に遭遇しても氷対策は必要じゃし、わらわと公女は分かれるべきじゃ」
探索チームは決まった。壁が溶けたらそのまま死神捜索。無理だったら地下組に合流。ロザリーちゃんとリリーちゃんが懐中時計を持ってるのは大きい。
「では、準備が出来たら氷を融かせるか試すよ。直ぐに融けて死神が出て来たら全員で応戦。何もないようなら2班に分かれての調査。これでいいね?」
フレイヤさんの案に反対は出ない。多分これがベストの配置だからだ。
氷の館の調査、2日目が始まった。
またしてもチーム分け
大勢の会話が難しいからじゃありません
…スイマセン嘘です難しいです
大勢の会話を違和感なく書いてる他の作家さんってスゴイ