男勇者と女Bと男Aと氷の館part4
Side:男A
夕食がてら報告を聞き、ちょっと雑談をした。北第2大陸の北の国でカメラが開発されたとか、緑のエルフ、通称シルフがユビキタスに来る予定とか色々。そんな会話も一段落した時、
「皆に話しておきたい事が有るのじゃ」
リリーがそう切り出した。
「人間にはあまり知られとう無い話じゃが…他言無用と約束してくれるか?」
「…いいだろう。ユビキタスの公女として約束するよ」
「有り難い。話はわらわがこの館に出向いた理由じゃ。ロザリーの家では話せなかったのじゃが、お主らは信頼出来そうじゃし話しておく」
俺とロザリーには元々話すつもりだったな…
「実はこの館には死神が居るかもしれん」
…死神?
「物語に出てくるモノではなく、<契約の死印>とゆう特殊スキルを持った者の事なんじゃがな。おそらくとてつもない戦闘力を誇る筈じゃ」
死因?…いや、死印か?意味あり気なスキル名だな。
「このスキルを持つ者の素性を調べ、この者の人となりによって相応の対処をするのが魔王の役目の1つでの。わらわはそのために来た。
そして本題なんじゃが、恐らくこの者は殺さねばならん」
イトハと勇人が息を飲む。この2人は向こうの世界の人間なんだから当たり前だ。俺も正直、無反応でいれたか自信が無い。ロザリーとモリッシュは暗い顔をして顔を伏せている。ロザリーは追加で俺の服の袖を掴んでる。
「じゃが、先にも言った通りこの者は相当な使い手。よって、皆には1人になるのは避けて貰いたい。極力、固まって行動し、最低でも2人で行動して欲しい。
なに、ここに集まった者の実力ならば1対1でも負ける事はない。集団行動は怪我をしない為の安全策じゃ」
なるべくロザリーの側にいよう。どうせ俺達を守ろうと勇人とかメイドさん辺りが一緒に来るだろ。
「とまぁ、わらわから話す事は以上じゃ。空気を悪くしてスマンかった」
「…仕方ないさ。私たちなんて軽くピクニック気分だったんだ。これくらいの緊張感はむしろ大歓迎さ」
「フレイヤ様の言う通りです。それに勇人様の仕上がり具合を見るには丁度良い機会です」
「ああ。人が死んでんだ、元から放っておく訳にはいかない!」
「熱血ね」
「熱血ですね」
皆は調子戻ったみたいだ。さてロザリーは…まだ暗い顔。袖を掴んでた手を握ってあげると表情が明るくなった。これで全員。さて、
「晩飯食ったし、シャワー浴びない?ちょっと汗が気になるし、皆の浴衣も出来たんだ」
モリッシュさんのも急遽作る事になって遅れたが、全員分が完成したのだ。お披露目は早い方が良い。
「ロザリー達、先に行ってきてよ。皿とかは交代で洗えば良いしさ」
「1度に入れるの5人までだしアタシ後で。先にジルとお皿洗いしてる♪」
ロザリーありがとう。後で隠しておいたシャーベットをあげよう。
「シャワーの後にはデザートを用意しておりますので、皆様のシャワーが終わりましたらエントランスで頂きましょう」
こうして、女性陣の交代のシャワーと浴衣の初体験となった。
男2人のシャワールームにて。
「勇人さん、リリーは魔王なのに何もしないね」
「…俺はユビキタス公に『魔王に魔獣の手綱をしっかり握る様に説得してくれ』としか言われてない。それに、リリーちゃんは良い子だ」
相変わらず甘い人だと思った。
「君こそ、ロザリーちゃんとはこのままで良いのか?」
「あ~、どうなんだろ。好きだけど、もう家族だし、どうしていいか分からないんだ」
「近づき過ぎて距離が分からない?」
「そんな感じ。でもちゃんと好きだって言った方がいいんだろうな~」
まぁ、ロザリーの事は好きだ。どうすればいいか分からないのも本当だけど。
「そう言ってあげればいいんだよ。それだけさ」
「…わかった」
…いつ言おう?
「フレイヤ様、よく御似合いです」
「そうかい?意外と着やすいんだね」
「リリーも結構似合ってるわよ」
「そ、そうか///」
「いや、その初な反応は似合ってないわ…」
作ってくれと言っただけあって女性陣には好評。花柄の赤とか白とピンクのグラデーションのとか色々なデザインで好きなの選んでもらった。勇人も、
「城でパジャマ代わりに使えるな」
なんて言って紺のを着てる。これだけ褒められると製作者冥利に尽きる。数多くてメイドさんにヘルプ頼んだけど。
メイドさんは無表情だが、自分の作った浴衣が姫様に褒めて貰えた時、微妙に頬が緩んだように見えた。知り合って数日だからそれが笑ったのかは見分けつかん。
「しかし、ジルの浴衣はこう見るとかなり改造してるんじゃな」
「まぁ、こうしないとダガー刺しておけないしね」
流石に帯にダガー2本支えるのは無理だった。背中側から帯が落ちてしまう。
「では、こちらが本日のデザート、各果物のジェラートになります」
葡萄の皮とか林檎の皮は意外とジェラートに混ぜると美味しかったので、メイドさんに味見をしてもらいOKされたので皆に出した。ロザリーには1番味の良いのをあげた。俺は身内贔屓するタイプなのさ。
そうやって皆でくつろいでいると時計が10時半を示した。ロザリーとリリーはもう寝むそう。今夜はもう寝よう。
だが2階は1人部屋しかない。リリーには2人でいろと言われた…
俺とロザリーは2人で1部屋、リリーとイトハも同じだが他の人はそうもいかずに1人1部屋ずつになった。まぁ皆大人だし2人じゃ1つのベットだと落ちるし仕方ない。用心してもらおう。
俺達は2階の階段から右4番目の部屋。歯は磨いたしあとは寝るだけ。姿勢は恒例の抱き枕スタイル。
「ジル…大丈夫だよね?」
…不安なんだろうな。そりゃそうだ。ロザリーは13歳だ。と言っても俺も目茶苦茶不安だ。
「大丈夫。ちゃんと、ここに居る」
そう言って俺を抱きしめてる手に自分のを重ねる。かなりクサい事言ってるがロザリーしかいないので気にしない。
少し離れた距離から扉の閉まる音がして、同時に時計塔が11時の鐘を鳴らした。
時計塔の鐘が鳴るのは5時と11時か。そんな事を思いながらロザリーの頭を撫でてあげるとゆっくりと眠りにおちていった。せめて夢の中では不安なんて感じないで欲しい…
だけど、そうも言ってられなさそうだ。
鐘の音が止んだ静寂の中で、微かに足音がする。
この館は全部絨毯が引かれてるから、普通なら足音はしない。だけど、この足音は金属音も混じってる。引っ掻くような金属音…そして音源は下。つまり、1階の氷の壁の先。
…氷の館の調査は、夜がメインになるかもしれない…
たまにチョロッと描写がありますが、
男Aは地味に耳がいいです。