↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ドワーフ鍛冶師、死刑を宣告されたので、ドワーフ国へ復讐することにしました!  作者: にんじん
第2章 追放の道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/27

死刑

「こいつを、今すぐ処刑しろ!」


 その言葉が、鍛冶師選定会館に響き渡った。静まり返っていた広間が、凍りついたように動きを止める。受験生たちはもちろん、補佐として立っていた正規鍛冶師(レギュラー・スミス)たちでさえ、息を呑んだ。誰も、言葉を発することができなかった。


 壇上に立つ男。王都から派遣された、王級鍛冶師(キング・マスター)。この選定試験における全権を任された、特別な試験官だった。名誉ある王級鍛冶師(キング・マスター)。それだけではない。王都から選ばれて派遣されるほどの実力者。この場にいる正規鍛冶師(レギュラー・スミス)たちが、逆らえる相手ではない。だが……。


「……死刑?」


 誰かが、震える声で呟いた。それだけで精一杯だった。試験官は、その声に振り返りもしない。ただ、目の前にいる少年を睨みつけていた。少年の名はシオン。


「聞こえなかったのか?」


 低い声だった。


「こいつは、鍛冶道を冒涜した」


 俺は壇上の試験官を見上げていた。何を言われているのか。頭では理解している。だが、意味が理解できなかった。鍛冶道を冒涜した。魔石を武具に使うことは、この国の鍛冶師にとって許されないことだったのだ。


「……どうして……」


 口から、小さな声が漏れた。


「俺はそんなに悪いことをしたのだろうか……」


 ぽつり。誰にも聞こえないほど小さな声だった。試験官には届かなかった。だが、すぐ近くにいた二人の正規鍛冶師(レギュラー・スミス)には聞こえていた。二人とも、目を伏せた。


 「……」




 残念ながら、選定試験に落ちた者もいる。今回の受験生は二百人ほど。肉体審査で不合格になる者は、わずか一パーセント程度だ。大半は鍛冶眼の精度によって合否が決まる。そもそも、選定試験はそれほど狭き門ではない。受験生の九割が合格し、見習い鍛冶師《アプレンティス・スミス》になることができる。だが、次のステップとなる正規鍛冶師(レギュラー・スミス)になれるのは、見習い鍛冶師《アプレンティス・スミス》の半数だけだ。正規鍛冶師になれなかった者や、選定試験に不合格となった者にも、進むべき道は用意されている。鍛冶師になる夢を諦めた者が次に目指すのは、酒造職人だ。ドワーフは酒をこよなく愛する種族であり、酒造りもまた、彼らの文化を支える大切な仕事だった。また、鍛冶の現場に残りたい者には、鍛冶工房で補助者として働く道もある。材料の管理や道具の手入れなどを通じて、鍛冶師たちを支えるのだ。鍛冶師、酒造職人、鍛冶工房の補助者。ドワーフが選ぶ職業は、この三つに大別される。鍛冶師になることが何よりの目標であることに変わりはない。それでも、その夢を叶えられなかった者たちにも、それぞれの道が用意されているのだ。


 けれど、俺に用意されたのは未来を閉ざす道……死刑だった。


 

「……あまりにも……」


 1人の正規鍛冶師(レギュラー・スミス)が唇を噛んだ。


「ひどすぎる……」


 だが、声には出せない。王級鍛冶師(キング・マスター)の命令だからだ。この試験において、その男には全権が与えられている。この場で逆らえる者はいない。もう一人の正規鍛冶師(レギュラー・スミス)も、拳を強く握っていた。


 まだ子供だ。間違いを犯してもやり直しの機会与えるべきだ。それなのに……死刑。こんな判決を目の前で聞かされて、平然としていられるほど、二人は冷たくなかった。だが命令には逆らえない。


「……連れていけ」


 試験官が言った。


 二人の正規鍛冶師(レギュラー・スミス)が動く。


「…………」


 俺は動かなかった。いや。動けなかった。片方が肩に手を置く。


「……すまない」


 小さな声だった。だが、反応することはできなかった。もう片方が反対側の腕を取る。二人に支えられるようにして、俺は立ち上がった。自分の足で歩いているはずなのに。自分で歩いている感覚がない。二人の正規鍛冶師(レギュラー・スミス)に連れられて、俺は鍛冶師選定会館を出た。外の空気が冷たかった。グランヴェルの街は、いつもと変わらない。人々が歩いている。荷車が走っている。商人が声を上げている。鍛冶師たちが大工房へ向かっている。世界は何も変わっていない。変わったのは。俺だけだった。


 俺が連れてこられたのは、グランヴェル治安局だった。ドヴァルディア王国の治安を守る組織だ。ドワーフにとって、鍛冶師は武具を作るだけの存在ではない。鍛冶の腕を磨き、国を支えることこそが彼らの誇りだった。そして、鍛冶師として経験を積んだ者の中には、その能力や信頼を認められ、治安維持や政治など、国の運営に関わる仕事を任される者もいる。グランヴェル治安局も、そうしたドワーフたちが支える組織の一つだった。


 その建物の一角には、罪を犯した者を拘留するための留置区画があった。中には人間、獣人、その他の種族。様々な者が収容されている。だが、ドワーフの姿はまったく見当たらなかった。裕福で安定した生活を送るドワーフが、犯罪に手を染めることはほとんどない。あったとしても、酒を飲みすぎて暴れた者が、数時間ほど拘束される程度だった。


「この子は?」


 受付の男が尋ねた。連れてきた正規鍛冶師(レギュラー・スミス)が答える。


「選定試験で問題を起こした」

「……問題?」

「鍛冶道を否定して試験官から死刑の判決が出たのだ」


 受付の男の顔が固まった。


「……死刑?」

「そうだ」


 それ以上、誰も何も言わなかった。やがて、俺は独房へ入れられた。鉄格子の向こう側の小さな部屋。簡素な寝台。机。水差し。それだけだった。扉が閉じる。


ガチャリ。


 鍵がかかった。俺は寝台の端に座った。


「…………」


 何も考えられない。前世の記憶にある武具を作る。そして、その先には王級鍛冶師(キング・マスター)になる。夢をかなえるために無我夢中で頑張って来た。それなのに。死刑と宣告された。二時間後には、絞首刑の準備が始まる。その事実を聞かされた。なのに……怖くなかった。死にたくないとすら思えなかった。俺は考える気力を完全に失っていたのだ。


 生きる理由を失った。夢を追う道が消えた。その先にあるのが死なら。もう、どうでも良いと全てを受け入れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。